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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

チンパンジーの話(1)

2010-03-05 | Weblog
面積35平方キロの「バンコの森」は、大都会アビジャンのど真ん中に残った原生林である。それだけで奇跡的であるけれど、それ以上に奇跡がある。なんと、野生のチンパンジーが1家族20匹ほど、未だにこの森で生活しているのである。

「バンコの森」の保全について、日本が協力できないかと考えている。この森を保全すれば、チンパンジーたちも生き残っていけることになる。それで、私はチンパンジーに興味を持った。そこでチンパンジー研究家のハービンガー教授(Dr. Ilka Herbinger)に、お話を聞いた。彼女は、NGO「野生チンパンジー基金(Wild Chimpanzee Foundation)」の研究者として、コートジボワールをはじめ、リベリア、シエラレオネ、ギニアに及ぶ西アフリカ地域で、チンパンジーの研究をしている。

チンパンジーの寿命は、人間と同じくらいで、50歳から60歳くらいまで生きる。母親は、一生のうちに4匹から5匹の子供を育て、一匹あたり5年から6年くらいかけて、子供を育てあげる。
「チンパンジーは子育てに、人間よりも多くの時間と手間をかけるのですよ。」
教授は、母親と子供の間の絆は人間以上に強く、子供たちは森に生きる知恵を親から熱心に学ぶのだ、と言う。

チンパンジーたちは、常に集団で生活する。おおよそ40匹から、最大120匹の個体が、一つの集団を作る。コートジボワールでは、だいたい50匹くらいが平均である。集団は、夜は必ず一処に集まって、一緒に睡眠をとる。夜が明けると、何匹かがばらばらに連れだって、餌を取りに出勤する。面白いことに、その組み合わせは毎日変わる。

ハービンガー教授と一緒に、チンパンジーの生態研究をしているゴネ研究員は、森の中に入ってチンパンジーたちの行動を観察している。
「彼らは、森のことを極めて正確に知っているようです。朝、誰か一匹が、今日はどこそこの木の実を取りに行こうと決め、何匹も連れだって出かけます。その道順を追いかけると、木々が複雑に入り乱れた森の中なのに、ほぼ一直線に無駄なく、進んでいます。」

どういうものを食べているのですか。
「彼らは、木の実や芋などを主食にしています。時々は、肉も食べるのです。そのために、集団で狩りをします。獲物は、他の猿です。これがかなりのチームワークですよ。猿たちを追いたてるチンパンジー、猿の逃げる先をうまく遮って、狩りの場所に導くチンパンジー、そして狩りの場所で猿を殺すチンパンジーと、役割分担をして狩りに取り掛かります。」

それに加えて面白いのは、分配の秩序であるという。
「殺した猿の肉を、参加した全員で分配します。このとき、実際に猿を捕まえたチンパンジーに優先権がありますが、他の役割で狩りに参加したチンパンジーにも、ちゃんと分け前が回ります。しかし、狩りに参加しなかったチンパンジーは、全く分け前を貰えません。こういうところは、秩序がしっかりしています。」
働かざる者食うべからずは、チンパンジー社会でも同じである。

家族の秩序は、人間とは大分違うようだ。
「チンパンジーの集団には、「アルファ雄」と呼ばれる首長がいて、彼が全ての雌を独占しています。他の雄は、集団の外側に居て、雌には手を出せないことになっているようです。ところが、面白いことにときどきは、「アルファ雄」の目を盗んで、雌たちと交尾しています。それが、ある程度は大目に見られているようです。」

そういうチンパンジー社会の様子は、どうやって観察するのですか。
「集団の近くに座って、観察するのです。」
チンパンジーは怒ったり、怖がったりしないのですか。
「そういうふうに観察できるようになるまで、5年かかります。毎回同じ服を着て、手に何らの道具を持たず、特定のチンパンジーの側に近付きます。2年くらいで、こちらを気にしなくなります。そして5年くらいたつと、私たちの存在を許して、いろいろな行動を何でも平気で見せてくれるようになります。」
ゴネ研究員は、普段はアビジャンのココディ大学で教鞭をとっている。いったん森に入ると、もうチンパンジーと一緒に生活するような日々になる。チンパンジーの研究というのは、地面を這い回る体力と、気長に彼らと付き合う忍耐が要るものである。

(続く)

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