森の中の広場で、昼食となった。差し込む木漏れ日は光り、空気は清涼で、緑のいい香りがする。時折、鳥が鳴くよりほかは、静かな空間である。お弁当を食べつつ、森林保護のあり方について皆で議論する。例えば、日本がコートジボワールの森林保護に協力するとして、どういう協力があり得るだろうか。
森林公社のヌゲティヤ総裁は、かつて1990年代に、ドイツが熱心に支援をしてくれた、という。ドイツは森の国、国民が森林保護に高い関心を持つ。
「ところが、必ずしもうまくいきませんでした。」
総裁は、反省を語る。
もちろん、ドイツの支援が、効果を上げたところもある。
「ドイツの支援により、たくさんある指定林の地理的調査が進み、衛星写真などを使っての、森林の分析などが出来ました。それらのデータベースは、今でも森林保護のための、大事な武器になっています。」
ドイツの支援により、車やコンピューターなどが購入され、GPS利用による森林破壊観測など、いろいろな近代兵器を取り入れた。物量作戦で、森林公社の森林保護事業が全国に展開した。
ところが、と総裁は続ける。
「この先進的な方式は、たしかに森林保護に効果的です。しかし、継続的な資金投入が必要です。だから資金が途絶えた途端に、何も動かなくなります。そして、不幸なことに、2000年代に入ってコートジボワールが戦乱に襲われた。その結果、ドイツの支援は引き揚げられ、せっかく開始した森林保護事業は、資金供給を失って動かなくなり、元の木阿弥になりました。」
森林保護というのは、数年ばかりの投資で達成できるものではない。十年、二十年と息の長い努力を重ねて、やっと結果が出る事業である。今、森林公社では、過去の反省から、「持続可能な」森林保護を追求するようになった。その答えが、地元住民との協力体制と、きちんと収益が上がる森林管理の確立というわけである。この「マビの森」における試みが、成功を収めつつあるので、この方式を他の保護林にも広げていくことを考えている。
「とはいっても、森林公社には、まだまだ人的・物的資源が足りません。このコートジボワール東部地域だけで、全部で40万ヘクタールの保護林があるのです。これを9つの管区に分けて、それぞれ責任者を置いて、そうした協力体制を築く努力をしています。それでも、この膨大な地域にわたって、小まめに地元の住民の理解を得て、関係を作っていくためには、そうとうの人的・物的な態勢が必要です。」
40万ヘクタールといえば、埼玉県がすっぽり入る広さである。その全域の村落を相手にするというと、これは相当の数に上るであろう。
視察には、地元のビエビ村(Biebi)の村長も同行してくれている。ヌゲティヤ総裁が、村長さんの意見も聞いてみよう、と言って発言を促す。森林保護のために、どういう協力が得られたら効果が高いと思いますか。伝統衣装を着た村長さんの答えは、ちょっと意外な切り口からだった。
「それはきっと、農業を教えてもらうことですね。」
ははあ、林業じゃなくて農業ですか。
「昔からのここの農業は、素朴というのでしょうかね。森を切り拓いて畑にして、芋や穀物などを作る。数年もすると土地が痩せて、収穫が細くなる。それで、乾季になると、別の土地を求めて、森を切り拓いていくということを繰り返していました。もし、農業の上手なやり方を学べば、畑の地味を維持しつつ、農耕を続けることができる。そうすると、もう農民たちは森を壊すことがなくなります。」
農民たちも、好んで森林破壊をしているのではない。木を切り倒して畑を開くのは、大変な労力である。堅実な収穫を得られるのならば、同じ土地に留まるに越したことはない。要するにやり方を知らないだけである、と村長さんは力説する。輪作の技術、肥料の施し方など、土地に定着するための、農業の指導を得たい。そうすれば、土地の生産力が上がり、村も豊かになる。なるほど現場のこの声には、たいへん説得力がある。
森林保護に取り組むときには、それが持続的であるかどうかを考える必要があるということだ。単に、人々に木の伐採を止めさせ、せっせと植林をしていけばいい、というのではうまくいかない。そういう取締りや管理の手法だと、人々は管理の目を盗んで違法伐採に走り、かえって無秩序な森林破壊が進む。そもそも、森林公社には、広大な森林全域に目を配るだけの職員数はおらず、完全な取り締まりは不可能だ。やはり、住民との協力関係を地道に築き、森林を保護しつつ、同時に収益も上げる技術を、小まめに指導することが肝要である。人々の生活に組み込まれてこそ、何十年経っても続く森林保護が、しっかり実現できるのである。
森林公社のヌゲティヤ総裁は、かつて1990年代に、ドイツが熱心に支援をしてくれた、という。ドイツは森の国、国民が森林保護に高い関心を持つ。
「ところが、必ずしもうまくいきませんでした。」
総裁は、反省を語る。
もちろん、ドイツの支援が、効果を上げたところもある。
「ドイツの支援により、たくさんある指定林の地理的調査が進み、衛星写真などを使っての、森林の分析などが出来ました。それらのデータベースは、今でも森林保護のための、大事な武器になっています。」
ドイツの支援により、車やコンピューターなどが購入され、GPS利用による森林破壊観測など、いろいろな近代兵器を取り入れた。物量作戦で、森林公社の森林保護事業が全国に展開した。
ところが、と総裁は続ける。
「この先進的な方式は、たしかに森林保護に効果的です。しかし、継続的な資金投入が必要です。だから資金が途絶えた途端に、何も動かなくなります。そして、不幸なことに、2000年代に入ってコートジボワールが戦乱に襲われた。その結果、ドイツの支援は引き揚げられ、せっかく開始した森林保護事業は、資金供給を失って動かなくなり、元の木阿弥になりました。」
森林保護というのは、数年ばかりの投資で達成できるものではない。十年、二十年と息の長い努力を重ねて、やっと結果が出る事業である。今、森林公社では、過去の反省から、「持続可能な」森林保護を追求するようになった。その答えが、地元住民との協力体制と、きちんと収益が上がる森林管理の確立というわけである。この「マビの森」における試みが、成功を収めつつあるので、この方式を他の保護林にも広げていくことを考えている。
「とはいっても、森林公社には、まだまだ人的・物的資源が足りません。このコートジボワール東部地域だけで、全部で40万ヘクタールの保護林があるのです。これを9つの管区に分けて、それぞれ責任者を置いて、そうした協力体制を築く努力をしています。それでも、この膨大な地域にわたって、小まめに地元の住民の理解を得て、関係を作っていくためには、そうとうの人的・物的な態勢が必要です。」
40万ヘクタールといえば、埼玉県がすっぽり入る広さである。その全域の村落を相手にするというと、これは相当の数に上るであろう。
視察には、地元のビエビ村(Biebi)の村長も同行してくれている。ヌゲティヤ総裁が、村長さんの意見も聞いてみよう、と言って発言を促す。森林保護のために、どういう協力が得られたら効果が高いと思いますか。伝統衣装を着た村長さんの答えは、ちょっと意外な切り口からだった。
「それはきっと、農業を教えてもらうことですね。」
ははあ、林業じゃなくて農業ですか。
「昔からのここの農業は、素朴というのでしょうかね。森を切り拓いて畑にして、芋や穀物などを作る。数年もすると土地が痩せて、収穫が細くなる。それで、乾季になると、別の土地を求めて、森を切り拓いていくということを繰り返していました。もし、農業の上手なやり方を学べば、畑の地味を維持しつつ、農耕を続けることができる。そうすると、もう農民たちは森を壊すことがなくなります。」
農民たちも、好んで森林破壊をしているのではない。木を切り倒して畑を開くのは、大変な労力である。堅実な収穫を得られるのならば、同じ土地に留まるに越したことはない。要するにやり方を知らないだけである、と村長さんは力説する。輪作の技術、肥料の施し方など、土地に定着するための、農業の指導を得たい。そうすれば、土地の生産力が上がり、村も豊かになる。なるほど現場のこの声には、たいへん説得力がある。
森林保護に取り組むときには、それが持続的であるかどうかを考える必要があるということだ。単に、人々に木の伐採を止めさせ、せっせと植林をしていけばいい、というのではうまくいかない。そういう取締りや管理の手法だと、人々は管理の目を盗んで違法伐採に走り、かえって無秩序な森林破壊が進む。そもそも、森林公社には、広大な森林全域に目を配るだけの職員数はおらず、完全な取り締まりは不可能だ。やはり、住民との協力関係を地道に築き、森林を保護しつつ、同時に収益も上げる技術を、小まめに指導することが肝要である。人々の生活に組み込まれてこそ、何十年経っても続く森林保護が、しっかり実現できるのである。
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