地方の野山に何度も出かける経験を重ねなければ、どこまでも広がる豊かな自然に見えていたであろう。今の私は目が肥えたので、本当は違うということが分る。緑の林や森と見えるのは、実はことごとく商品作物の農園である。かつて原生林が広がっていたコートジボワールの大地は、長年の開発を通じて、人工的な森林に変えられてしまっている。
アビジャンから北東に幹線道路を100キロ。アゾペ(Azopé)の市街地を抜けると、未舗装の道をさらに30キロ進む。緑の豊かな景観ながらよく見れば皆、ゴムの木々であり、コーヒー畑であり、カカオ園である。村々では、森林を切り拓いて農園にし、そうした作物を作って生計を立てている。延々と続く緑の農園の中を、さらに進んでいくと、ようやく原生林との境界に到着した。ここから先が、「マビの森(Mabi)」である。
森林を保護しながら利用する。森林公社では、まだ残されている貴重な原生林を、住民との共存を図りながら保護し、資源として利用する事業を、他にも各地で行っている。先だって、炭焼きの村を訪ねて、「サンバン保護林」を計画的に利用している様子を、実際に見せてもらった。今日は、「マビの森」での森林公社の事業を、ヌゲティヤ総裁の案内で、視察しに来た。
この「マビの森」は、面積5万6千ヘクタールだから、東京23区全部の面積に近い広さがある。35キロに及ぶ陸上の境界線と、東側は大河コモエ川で区切られている。ところが、1992年に森林公社が設立され、森林保護の任務を国から引き継いだ時、この国指定の保護林にも、すでに地元住民による開発の手が加わりつつあった。
「法律上は、指定林の開発は違法です。しかし、広大な指定林を全て監督して取り締まるのは、事実上不可能です。結局、取り締まりだけに頼っても、伐採と開発が進んでゆくのを食い止めることはできません。」
ヌゲティヤ総裁は、地元、つまり県知事、村長、そして村人との協力体制を築くことが、何より重要であるという。
「このマビの森では、地元のビエビ村(Biebi)と相談の上、森の一部を明確に区切って、開発許容地区にしました。その地区の中では、村人による森の開発を認めます。既に人々は森に入り込んでしまっており、そうした人々を追い出すことは出来ない。むしろ、その人々の理解と協力を得て、許容地区以外の地域について、森林保護の力になってもらうわけです。」
ヌゲティヤ総裁は、森の中をさらに進んで、低木が続く、少し開けた場所に私を案内した。植えられているのは、コーヒーの木々である。
「ここは、許容地区外つまり自然林であるべき地区なのですが、すでに長年にわたってコーヒー栽培が行われてきました。これは違法栽培であり、森林公社では、ここを自然林に戻すことを試みています。といって、コーヒーの木を伐採して、森林の苗木を植えるということはしません。」
コーヒーの木々の間に、背の高い木がまばらに植わっている。ティアマの木(Tiama、学名Entandrophragma angolense)である。マホガニーの一種で、熱帯アフリカの森林に生育し、家具などに使える美しい木材になる。すでに苗を植えて6年経つという。
「ティアマの木は、このまま大きく育ち、そのうちコーヒーの木々を凌駕するようになるでしょう。そうなる日まで、村人はコーヒーの収穫を続ければいいのです。30年経てば、この場所はティアマの木を主とする林になります。その時に、コーヒーの木々を伐採し、自然林に戻すのです。」
ティアマの木のような、大きな木が生えることが、他の木々の生育を促すのだと言う。総裁が地面を指さすと、イロコ(Iroko、学名 Chlorophora excelsa)の苗が、自然に生えてきている。イロコの木は、硬くて良質な材木を産するけれど、成長がとても遅い。こうした木も、土地がコーヒー農園である限り、生えてこない。
さらに奥に進んでいくと、鬱蒼とした林に到達する。高さ10~20メートルくらいにまで成長した木が、何本も重なって空を覆う。
「これは、フラケの木(Fraké、学名 Terminalia superba)です。ちょうど森林公社が森林保護を始めた、1994年に植えたものが、ここまで大きくなりました。」
私は再び驚く。わずか16年間で、一抱えもある幹に育っている。常夏の国では、木の成長は早いのである。
「このフラケの木は、特に成長が早い木です。それで、30年くらいすると、成長を止めて枯死します。だから、その前に伐採する。材木は白くて美しく、家具用にいい値段で売れます。でも、それより重要なのは、早く成長して、こうして暗がりを作ってくれることです。暗がりがあればこそ、様々な灌木や植物が生育し、動物なども住めるようになります。」
藪に潜り込んでみると、いろいろな低木が好き放題に生え、草が伸びて絡み合っている。森というのは、ただ木がたくさん生えているというだけでなく、その他の植物や動物が共生して、ひとつの生態系を形作るものなのだ。
原生林には、樹齢が数百年に及ぶ、さまざまな種類の木々が、折り重なって生えている。これはコラ(Cola)の木です、と言われて大きな木を見上げる。コラというのは、その種子を口に含んで噛み潰すと、一種の清涼作用がある、アフリカの人々が好む嗜好品である。時期になると、実を落とすので、村人たちは拾い集めて、その種子を取る。町に持っていくと、いい値段で売れる。自然の森の恵みは、村の人々の現金収入にもなっている。
(続く)
マビの森に、違法に作られたコーヒー園
コーヒー豆が実る
コーヒー園にティアマの木を植える。
幹が真っ直ぐな木が、ティアマの木。 ティアマの木は、空高く枝を張る。
アロコの木も、自然に生えるようになる。
空を覆うフラケの木
16年前に植えたフラケの木が、この太さになっている。
原生林の奥に進む。
原生林は深く、さまざまな種類の木が入り組む。
語るビエビ村の長。
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