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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

トーゴの協力を得る

2010-02-24 | Weblog
アフリカから遠く離れた、しかも海上で起こった出来事が、私のところに関係してくるとは思わなかった。その話は、一ヶ月ほど前にさかのぼる。
「大使、東京から調査訓令が来るようです。」
本省の命令で、調べ事をしろというのは、珍しい話ではない。何の話だい、と私は聞いた。

「南極海で、日本の捕鯨船に、シーシェパードという反捕鯨団体の船がぶつかりましたよね。」
知っている、知っている。日本の調査捕鯨の船団に、シーシェパードの船が何隻も出て、危険な航行で日本の捕鯨船の進路を妨害したり、薬品を投げつけたり、乗務員を失明させるレーザー光線を照射してきたり、あげくの果てには一隻が衝突して、たしか大破して沈んでしまった(1月6日)。乱暴なことをするものだ。

「それで、大破した船とは別に、もう一隻妨害活動を行っている船があって、「ボブ・バーカー号」というのですけれど、船籍が分からない。ノルウェーの国旗を掲げているのですが、どうもそれは虚偽表示らしく、ノルウェー船籍ではない。一方で、双眼鏡で見たら、船体にロメと書いてあったらしいのです。」
ロメというと、トーゴの首都である。だから、「ボブ・バーカー号」がトーゴ船籍である可能性が高い。それを、トーゴ政府に照会して調べろ、もしトーゴ船籍と分かったら、トーゴ政府に船籍国(=旗国)としての措置をとるように要請しろ、という訓令だそうである。

トーゴは、わが在コートジボワール大使館の兼轄国の一つである。だから、トーゴ政府に対する働きかけは、うちの大使館から行う。といっても、兼轄国への仕事というのは、簡単ではない。もしコートジボワール政府に対する働きかけというのなら、相手の担当局課に出かけていって、膝を突き合わせて説明し、交渉することが出来る。ところが、ロメは遠く離れているので、そのように担当の役所を訪ねていくわけにはいかない。隔靴掻痒ながら、電話とファックスで全てを進める。

まず、トーゴ政府のなかで、船の船籍を担当している部局はどこだろうか。それを探すところから始まる。電話で相手を捜し、その相手に込み入った話を伝えて、こちらの要望を理解して貰う。そして電話と並行して、事案の説明、関連する国際条約の適用、日本政府からの要請の内容を、フランス語に翻訳して文章にまとめ、口上書(大使館と相手国外務省との間の連絡文書)のかたちでトーゴ政府に送る。

コートジボワールからトーゴへの国際電話など、雑音が多くて、かつ不安定である。
「トーゴ政府には、国連海洋法条約の第94条に従い、旗国として有効に管轄権を行使し、有効に規制を行っていただきたい。また、「海洋航行の安全に関する不法な行為の防止に関する条約」の第13条には、自国が旗国である船舶に、同条約第3条に定める犯罪の防止についての協力義務がある。これについても留意いただきたい。」
そういう法律的な話を、ガーガーいう電話の回線で、苦労しながら説明し、やりとりを重ねて、トーゴ政府に何とかこちらの事情を伝え、日本が対策を取りたいと考えていることを理解してもらった。

「ボブ・バーカー号」の船籍は、先方がすぐに調べてくれて、やはりトーゴ船籍に登録されていることが分かった。それでは次に日本として、船籍国としてこの船への排他的な管轄権を有するトーゴに、対策を求めなければならない。「ボブ・バーカー号」の船長や乗組員を取り締まるべし、海上における安全を確保する措置をとるべし、これらは海洋法上の義務なのだ。今後「ボブ・バーカー号」が、わが捕鯨調査船に対して危険な妨害行為を行うことがないよう、有効な規制を行うべし。

私は、トーゴの身になって、やれやれと思った。「ボブ・バーカー号」はその後も、日本の捕鯨船に対して、海中にロープを投げ入れてスクリューに絡ませようとするなど、執拗に危険な妨害行為を繰り返している。2月6日には、日本の捕鯨船と衝突もしている。トーゴとして、遠く離れた南極海で暴れる船に対して、妨害行為を止めさせるための措置や規制をどうやって取るというのだ。トーゴ政府は、降って湧いた課題に頭を抱えることだろう。

そうしたところで、ひとつの解決策が出てきた。
「大使、妙案があるのです。トーゴが、「ボブ・バーカー号」の船籍登録を抹消すれば、トーゴとして面倒な義務を負わなくて良くなる、というわけです。」
しかも、トーゴ船籍が抹消されれば、「ボブ・バーカー号」は無船籍になって、この船に対する排他的な管轄権を行使する国が無くなる。つまり、別のどの国でも、例えば日本でも、国際法上の違反行為を取り締まれるようになる、というわけである。

これはいい案だ。しかし、自分の国に登録した相手を、こちらから一方的に抹消するというのは、トーゴとしてもいろいろ難しかろう。法律上とか、手続きも大変だろう。それでも、日本として重大な関心があるこの件のために、トーゴとして一肌脱いでくれ、と頼んだ。だいたい遠くの海で違法行為を繰り返す船に、きちんと船籍国としての規制を及ぼすのはとても難しかろうから、船籍抹消はトーゴの利益でもあろう。ひとつの助言として、そう伝えた。

トーゴ側は、日本からの要請だということで、特別に手を打つことに同意してくれた。しかも、日本が「ボブ・バーカー号」への措置を、急いで取る必要があることも理解して、最速で部内手続きを進めてくれた。そして、2月12日付で船籍抹消を正式決定した、と連絡してきた。
「(決定事項)
第1条:シーシェパード所属のトーゴ国籍船である「ボブ・バーカー号」は、トーゴ登録から抹消される。
第2条:同決定は、署名したその日から効力を持ち、必要に応じてどこでも公表される。」

続いて、2月15日、トーゴ外務省から、この決定を口上書で正式に伝えてきた。
「日本・トーゴの協力及び友好関係のため、トーゴ外務省は日本側当局に対し、「ボブ・バーカー号」のトーゴ船籍登録を抹消することをお約束致します。トーゴ政府は、合法的な活動を行っている船舶に乗船している乗組員の、安全、船荷及び生命を危うくするような違法行為に対して、断固として戦います。今回の措置は、そうしたトーゴ政府の方針を確約し、またそれを実施していく用意があることを示すものです。」
そう記してあった。

でかしたトーゴ。でかした、うちの担当官。さっそくこの外交の成果を、東京で公表してもらおう。ところが、まだ駄目というのが、さすが慎重なわが本省である。船籍登録の抹消が、「ボブ・バーカー号」側にもきちんと通知されたことを、確認しなさい。それで、わが担当官は、再度トーゴ運輸省の担当局長を、電話で煩わせる。トーゴの担当局長は、船籍抹消の証明書を、国際航空郵便で「ボブ・バーカー号」の船主宛に送ったことを、郵便の送り状番号とともに知らせてくれた。

2月19日、岡田外務大臣が記者会見して、わが国政府からしかるべき措置をとるようにと働きかけた結果、トーゴ政府は「ボブ・バーカー号」の船籍を剥奪した、という事実を公表した。これにより旗国の同意手続きなしに、「ボブ・バーカー号」を公海上で臨検することが可能となる。わが日本外交は、相手が誰であろうと不法行為には断固とした対処をすることを、明らかにしたわけである。

これはトーゴ政府が、日本の強い関心事だと言うことを踏まえて、きわめて協力的に対応してくれたことの賜物である。私は早速、トーゴに私の名代として、次席参事官を派遣して、丁重にお礼をすることにした。2月22日、わが次席参事官は、ロメにてエサウ外相と会い、日本としてトーゴの迅速な対応に感謝する旨を伝えた。

反捕鯨団体が南極海で暴れているおかげで、話はアフリカまで巡りめぐって、日本とトーゴの二国間関係を一層深めることに繋がったわけである。

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