goo blog サービス終了のお知らせ 

コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

ニジェール政変

2010-02-20 | Weblog
ベナンの出張から帰ってきた。ベナンでのお話を、この日誌に書こうと思っていたのだけれど、後回しである。それよりももっと、先にお知らせしないといけないことがある。ニジェールで、クーデタが起こってしまったのだ。

2月18日の正午過ぎ、コトヌからアビジャンに帰着。空港から公邸に戻った。昼食後に休憩していると、午後1時半(ニジェール現地時間で午後2時半)に私の携帯電話が鳴る。
「大使、ニアメ(ニジェールの首都)から、たった今、連絡がありました。大統領府の周辺で、先ほどから銃声が続いているようです。」

やはり来たか、と思わず独り言が出る。タンジャ大統領が、強引なやり方で政権の延命策を講じてから、国内で緊張が続いていた。何が起こっても不思議はない雰囲気であったから、警戒はしていたのである。大統領府の周辺での銃声といえば、軍が発砲しているのに違いない。おそらくクーデタであろう。まず、東京の本省に、第一報を連絡するように指示する。東京はもう、夜11時に近い。

私は、コートジボワールに在勤しながら、ニジェールも担当している。兼轄といわれる任務である。だから、ニジェール大使としての、さまざまな責任を負っている。こういう緊急事態にまず何よりも重要なのは、ニジェールに滞在している日本人の、安全確保である。ニジェールには、日本の経済協力の仕事で、120人を越す人々が滞在中である。その方々の安否確認を急ぎ行わなければ。

これが、ここコートジボワールの話ならまだしも、アビジャンから遠く離れたニジェールでの事件である。隔靴掻痒で、実にもどかしい。連絡手段や、情報を得る手段が、電話しかないのである。ニアメの国際協力機構(JICA)事務所の、西本玲所長に連絡を取る。西本所長は、日ごろからこういう緊急事態に備えて用意した緊急連絡体制を起動し、事態が発生して30分もしないうちに、既に経済協力関係者全員の安全を確認し終わっていた。経済協力関係以外の日本人の方々については、一人一人について、アビジャンの大使館から連絡を取る。幸いにして、誰か行方が分らなくなっているといった人はいない。ひとまず安心である。

次に、どういう出来事が起こっているのか、これから何がどう展開していくのか、それを把握しなければならない。大使館の中で手分けして、情報収集を行う。日ごろから、ニジェールの国内に、こういう時に情報を伝えてくれる人々を確保している。まわりで何が起こっているのか、彼らにもすぐにはよく分らない。それでも、目についたこと、聞こえてきたことなど、刻々と情報を送って来る。

私は私で、大使どうしで情報を交換する。アビジャンにいる大使たちの中で、私と同様にニジェールを兼轄している大使がいる。カナダ大使とイタリア大使に電話をして、お互いに知り得た情報を伝えて、確認をする。そうした作業を通じて、午後5時ごろまでには、次のようなことが分ってきた。

(1) 現地時間午後2時ごろ、タンジャ大統領のもとで、大統領府での閣議が開かれているときに、軍がなだれ込み、大統領警護部隊と交戦。この交戦で、何人かの兵士が殺害された模様。タンジャ大統領だけ、軍の兵士がどこかに連行。閣僚たちは一網打尽になって、そのまま大統領府に監禁されている。

(2)軍の参謀本部から、全軍に今回の行動について指令が出ている。どうも軍が全体でクーデタを仕掛けた模様である。大統領府の周辺は、軍により封鎖されているけれど、街は比較的に平穏である。混乱や暴力行為が拡大しているような様子はない。ただし、空港は閉鎖、フライトも全てキャンセルされている。

私はさらに、ニアメ駐在のフランス大使に連絡を取ろうと試みる。つい先日、私がニアメに出張に行った時も、フランス大使とじっくり情勢分析をした。彼なら、一番よく情報を持っているだろうと思ったのだ。でも、なかなか連絡が取れない。むこうも大変なのだろう。諦めようかと思っていたら、フランス大使から電話をくれた。
「大使、わざわざ電話をありがとうございます。大変な事態でご健闘をお祈りします。」
まずはこちらから励ます。そちらの状況はどうですか。

「いや、情報はあまりないのです。ここフランス大使館の周りから、外務省や大統領府にかけて、一帯は厳重に封鎖されてしまいました。われわれも身動きがとれず、現場の様子など全く分りません。申し訳ないが、正直なところ情報を確認できる状態ではありません。」
フランス大使の声は上ずっている。考えてみたら、クーデタなど行うとすれば、まずフランス大使館も押さえるべき拠点の一つだろう。首謀者が、フランス大使館を取り囲んで、不用意な動きを許さないようにしていることは、想像がつく。

「クーデタとして成立しつつあるのかどうかは、まだ分りません。今夜にも、クーデタの首謀者による「声明」が出されるという話ですけれど、これを見てみないと分りませんね。」
フランス大使は、慎重に情勢判断をしようとしていた。私は、日本人がニジェール国内に120人以上いるので、その安全確保が最優先だ、そちらでのお力添えを求めることがあるかもしれない、と述べてから、電話を切った。

フランス大使の言ったとおり、クーデタの首謀者側の「声明」は、午後9時過ぎになって出てきた。「声明」というより、クーデタを起こした軍の将校たちが、20人ほどテレビに登場して、われわれは「民主主義復興最高評議会」だ、と名乗った。民主主義の復興である。名前は、たいへん結構だ。

そして、グコイウ中佐(Lieutenant-Colonel Abdoulkarim Goukoye)と名乗る将校が、次の通り述べた。
「(タンジャ大統領が作った)「第6共和国憲法」を停止する。タンジャ大統領は解任。すべての政府機関は解散。ニジェールに、民主主義と正しい統治を復活させる。
これまでの国際約束は、全て遵守する。国際社会、国内社会のいずれを問わず、ニジェールとその国民を、貧困、欺瞞、汚職から救うためのわれわれの行動を、支持してほしい。」

声明は、要点を押さえた簡潔なものだった。やはり、周到に用意されたクーデタだ。数時間のうちに、手際よく物事が進められ、決着がついた。こうして、タンジャ大統領はその地位を追われた。

最新の画像もっと見る

2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
大使お疲れ様です。 (タニモト)
2010-02-20 18:42:25
私の娘が、JiCAで,ニジェールに現在滞在しています。クーデタの件は、娘から、直接電話があり、街中も、市民も、落ち着いているから、大丈夫よ、と知らせてくれました。あまり、心配はしていませんでしたが、情報が少ないので、この、大使のブログは、非常にありがたく、又、ニジェールの、現状も少しわかってきました。無事になるべく早くこの、非常事態が、治まり、ニジェールが、良い方向に向かうことを、願ってます。これを、機会にブログのぞかせて、いただきます。本当にお疲れ様です。そして、ありがとうございます。
返信する
Unknown (しょうこ)
2010-02-21 14:43:47
ニジェールのニュースを見た瞬間に岡村さんのことを思いましたし、また前回のブログの内容からなるほどと納得もしました。岡村さんのブログは本当に勉強になります。大変だとは思いますが、どうぞお体にお気をつけ下さい。
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。