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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

やらない気がある

2010-02-13 | Weblog
どうもまた、雲行きが怪しくなってきた。大統領選挙の行方である。昨年12月3日には、「2月末から3月初旬」に行うという目標が、新しい「工程表」として掲げられていた。そして、いよいよ最後の関門である、「確定版の選挙人名簿」の完成にむけて、異議申し立てとその処理の手順が、着実に進んでいるはずであった。

ところが、その「確定版の選挙人名簿」が、いつになったら出来あがるのか、全く見通しがなくなっている。予定では、1月中には出来あがらなければならない。異議申し立ては、すでに1月8日に締め切られているから、それを審査して是非を下し、「確定版」にして公示するだけなのに、それが出来ない。

ただ作業に遅れが出ている、というのならまだしも、そもそも作業を進める中核となるべき選挙管理委員会が、大混乱になって機能していない。1月7日に、選挙管理委員会が未審査の「43万人分」をこっそり有権者リストに忍び込ませているのではないか、という疑惑が生じた。バグボ大統領は、いきなりテレビで「こんなのは詐欺だ」と言った。大統領周辺が火消しに走っていたが、どうも火の手はそんなことでは収まらないような、悪い予感がした。

その悪い予感は当たったようだ。しばらくして、マンベ選挙管理委員長への不信任の声が上がって、とても今の選挙管理委員会では信頼が置けないという雰囲気になっている。おまけに、選挙管理委員会も、自身の部内調査で不正行為があったことを認めた(1月22日)。そして、タグロ内相の指示で検察庁が動き、選挙管理委員会を捜索した結果、マンベ委員長以下5人の幹部を、不正行為について「有罪」であると断定した(2月5日)。裁判所でもない検察庁が「有罪」と判定というのは、何だかよく分らないのであるけれど、とにかくマンベ委員長は「有罪」だ、と新聞の一面に踊った。選挙の中立性を保証するべき選挙管理委員会が、不正行為で「有罪」というのでは、とても選挙事務は進まない。

そのうちに、異議申し立てを受け付けて審査を行っている、それぞれの地方の選挙管理事務所で、人々の間での衝突が起こり始めた。いくつかの地方の事務所で、既に公示した「暫定版選挙人名簿」のなかに、明らかに外国人である人々がたくさん混じっている、という告発が出始めた。そういった人々は、名簿から除去されるべきだ。告発はそう主張する。そうしたら、外国人と名指しされた側の人々は、そんなことはさせない、と息巻く。両方の対立は、選挙管理事務所に持ち込まれ、事務所は壊されてコンピューターが中身のデータごと持ちだされた。極端な場合は、火を掛けられて、事務所が全焼してしまった。

単なる混乱なのか、意図的な妨害なのか。いずれにしても、こんな状態ではとても安心して選挙は進められない、と言われても仕方がない。まずは、マンベ委員長の更迭が議論されるだろう。ところが、いったいマンベ委員長に代わる選挙管理委員長がありうるのか。互いに対立する諸政党にとって、誰もが中立性を信頼できるような人がいるだろうか。どうも見当たらないのである。そうすると、新しい選挙管理委員長を人選するだけで、何ヶ月もかかってしまうだろう。それに、こつこつと作ってきた選挙管理人名簿に、有権者とは認められない人々がすでに混じっているというのが事実なら、もういちどそれを精査しなければならないという話になる。それでは、積み木を皆崩して、一からやり直しということになりかねない。

何より力が萎えるのは、こんなに危機的になっているのに、これではいけない、何とか選挙を実現するためにここで踏ん張らねば、という動きが、どこからも出てこないことである。政治指導者の誰もが、困ったもんだ、何とかしなければ、とは言っている。しかしまた誰も、自分が何とかしてやろう、と言わない。一般の人々も大人しくしていて、選挙実施を求めて街に繰り出すというようなこともない。結局は、選挙を実施しなければと本気で思っている人が、どうもいないようなのである。

「いやね、ここに着任して1年半、これでもし延期されればもう3回目ですよ。だいたい、選挙をやる気があるのか、ですよね。」
私は、散髪屋の椅子に座って、あきれたものだと話す。散髪屋の親父は、危機の間を通じて、いろいろな人の髪を切ってきたから、さすがに世情に通じている。
「そりゃ、正直なところ、やる気はないですな。選挙したら、何が起こるか分らない。だいたい、選挙をするというと、大騒ぎになって、人が殺されたり、店などが襲われたり、ろくなことはない。選挙で政権が代わろうものなら、それこそ大ごとですな。役所の上から下まで、警備員に至るまで、皆一掃ですからね。せっかく今まで築いたものが、皆ご破算になる。」

そんなことを言っても、きちんとした政府を作らなければ、世界から相手にされないし、本格的な商売も始まらないだろう。
「それはそうだけれど、きちんとした政府が出来なくて、本当に困っている人がいますかね。皆、今あるところで、ちょっとずつ満足している。金持ちと貧乏人と、それぞれ住む世界は違っても、金持ちは金持ちで、貧乏でも貧乏なりに、ちゃんと食うものがあり、酒が飲めて、帰る家がある。何を求めて、選挙などするのか。むしろ、もうこれ以上の混乱は、こりごりだ。今のままで、そっとしておいてくれ、そう思っていますよ。」

選挙が延期になったらほっとするような気持ちが、ほんとうに多くの国民の中にあるのだろうか。コートジボワールの政治指導者たちが、選挙に熱意を示さないのは、それを感じるからだろうか。「やる気がない」という問題ではなく、「やらない気がある」という問題ではないか。そうだとしたら、これからも、前に進めようとしても、選挙に進めない口実が、その度にいくらでも出て来るだろう。

そして、当事者たちが「選挙をやらない」方を望むというのなら、私たちが国際社会の立場として、大統領選挙の実施にむけて一生懸命に支援をしている、というのは、若干滑稽な話になる。

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