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【完結】「先輩の妹じゃありません!」  作者: さき
第五章:三年生 春
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10:ここに居る人へのお土産




 その後も更に数件の店を巡り――「最後に大きな土産屋があると知って、なぜ小さな店に入る!」と何度も口にしかけたが、すんでのところで飲み込んだ。木戸はおろか周囲にいる男達がみな揃えたように同じ表情をしているあたり、観光地における男の総意と考えて良いかもしれない――ついに最後の難所である『近隣で一番大きなお土産屋』に辿り着いた。

 さすがは近隣一を謡うだけあり、三階にまで及ぶ店の規模と品揃え。並ぶほとんどの品物が今までの店で見かけたような気がしないでもないが、それでも女性の目から見れば違うのだろう。

 なにせ俺が一階から三階まで見て回り店を出ようとした時、月見と桐生先輩は店の出入り口でガラス細工の置物を眺めていたのだ。

 

 一瞬、なにか時空の歪みでも発生したのかと思ってしまった。


 数分差で出てきた木戸と言葉を交わすこともなく喫茶店へと向かえば、俺達と同じような境遇であろう男達が哀愁を漂わせながらコーヒーを飲んでいた。

 やはり密集して建てられた喫茶店は男の避難所のようだ。街並みに合わせた和風の造りが今だけは哀愁を誘う。


◆◆◆


 コーヒーを飲みながら雑談混じりに携帯電話のゲームに興じること一時間。俺達の避難所である喫茶店は魂の抜けた男達が続々と来店し、言いようのない虚脱感を醸し出していた。

 話し相手がいるだけ俺は恵まれているのではと思えるほどだ。


 もしかして、宗佐はこうなることを考慮して木戸にも声を掛けたのだろうか。

 さすがに女性陣の買物行脚までは予想していなかったとしても、自分は珊瑚に着き添うと決めていたからこそ、俺が男一人になるのを気に掛けたのかもしれない。宗佐はそういう男だ。


「なぁ敷島、まだ時間かかると思うか?」

「よくて今三階を見てるところじゃないか? 最悪、まだ一階にいる可能性もある」

「……もう一回店に戻るか」


 グイと一気にカップを煽って残りのコーヒーを飲み干し、木戸が立ち上がる。

 他の誰でもなく木戸のことだから彼女達を急かしはしないだろうが、それでもここで座っていつ戻るか分からない二人を待つよりはマシだと考えたのだろう。

 俺も気晴らしがてら再度店内を見て回るかと考え、それに続いて立ち上がった。



 そうして再び土産屋に戻り、二階の半ばあたりで月見と桐生先輩を見つけた。一階に居なかっただけマシと思えば良いのか、それともまだ半分と嘆けば良いのか。なんとも微妙なところである。

 そんな俺の反応に気付いたのか、月見と桐生先輩が慌てて時計を確認しだした。どうやら時間も忘れて土産物屋を見ていたようだ。


「ごめんね敷島君……」

「ちょっと熱中しすぎちゃったみたいね」

「いや、別に迎えにきたとかじゃないんで大丈夫です。どうぞごゆっくり……」


 気を遣わせてはまずいとフォローを入れれば、二人の瞳がパァと輝きだす。

 その反応にあと一時間は費やすだろうと心の中で覚悟し、俺も店内を見て回ろうと歩き出した。せめてもの時間潰しである。

 といっても、一周目もさほど時間がかからなかったのだから二周目に至っては流し見もいいところだ。


 これはまた喫茶店コースか。

 次はコーヒーではなく何を頼むか、いっそ軽食でも……。


 と、土産物屋にいても俺の心は既に避難所こと喫茶店である。

 そんな気分で店内を歩いていると、俺の横に桐生先輩が並んだ。


「敷島君は何も買わないの? 家族にお土産は?」

「俺は旅館で買うことにしました。……量が量なんで」

「あら、そんなに買うの?」

「俺の鞄の中に買物リストが入ってたんです」


 うんざりとした気分で告げれば、桐生先輩が苦笑を漏らす。だが事実、俺の鞄には入れた覚えのない封筒が入っており、そこには購入物一覧とそれに見合った金が入っていたのだ。いったいなにをどう調べたのか、ご丁寧に『旅館のお土産コーナーにあるはずです』の一言付き。

 それだけ見ればわざわざ土産屋に行かなくて済むようにと気遣う家族の優しさを感じるだろう。


『私達のお土産は気にしないで、旅館で買えるもので良いから。それより楽しんできなさい』


 と、こんなところだ。

 だがそうは考えず俺がうんざりとした表情を浮かべてしまうのは、手紙に書かれた購入物の量が尋常ではないからである。同封されていた金はいくらかお釣りが出る金額なのだが、それを家族からの小遣いと有難く受け取るべきか、遠路遙々(はるばる)なお使いの当然の報酬と受け取るべきか、微妙なほどである。


「そういうわけで、俺は旅館で買います。いっそ配達にしようか……」

「大家族も大変ね」


 クスクスと笑いながら桐生先輩が目の前に積まれたお菓子の箱を眺める。

 抹茶の羊羹や煎餅などいかにもといった和菓子から、桜のクッキーや紅茶なんかも売られており品揃えは様々。それらを吟味し、桐生先輩がチラと俺に視線を向けた。


「芝浦君の好きな食べ物って知ってる?」

「宗佐の?」


 その言葉に俺は思わず疑問を抱き、首を傾げてしまった。

 いったいどうしてこの場で宗佐の名前が出てくるのか。だがそれを聞けば桐生先輩が苦笑しつつ、来られなかった宗佐の為にお土産を買ってやりたいのだと答えた。

「本当は一緒にまわれるのが一番だったんだけどね」と、そう呟く彼女の声はどこか切なげで、その気持ちが嘘偽りもましてや演技でもない本物だと分かる。


「でも、もしかしたらこの土地にあまり良い感情が無いかもしれないじゃない。だから手元に残るものより、食べ物を買ってあげた方が良いかと思ったの」

「確かにそうかもしれないですね」

「お菓子にすればどうせ今夜にでも部屋で食べ切っちゃうでしょ。珊瑚ちゃんにはお茶にしたの。部屋で三人で飲もうかなって」


 そう告げながら桐生先輩が買物カゴから箱を取り出して軽く振る。手の中に収まる程度の小さな箱、中にティーバッグでも入っているのか振られるとカタカタと軽い音をたてた。描かれた和柄がいかにも土産物らしい。

 そんな桐生先輩の気遣いに流石だと感心していると、「それで芝浦君は」と再び宗佐の名を口にした。


 同性である珊瑚の趣味は分かるが、対して宗佐の好みは分からないという。

 とりわけ観光地のお土産は多種多様で、無難な物にすべきか名産品にすべきか悩んでいるらしい。そこで同性であり宗佐の友人である俺の意見を聞きたい……という事だ。

 宗佐なら何でも喜んで食べそうだけど、とは言わずに、俺も同じように並ぶ箱を覗き込んだ。周囲一帯で一番の土産屋と謡うほどの品揃えである。


「芝浦君の喜ぶお土産って考えると、木刀か木刀サイズの麩菓子しか思い浮かばないの」

「あぁ、それは間違いなく喜びますね」

「でもそれってどうなの? もうちょっと華やかさが欲しいんだけど」


 桐生先輩があれこれ呟きながら商品を吟味する。その姿に、俺は年上相手だというのに微笑ましさを感じてしまった。

 宗佐のことを考え、喜んでほしいと思い、それでいてアピールしたい。今の桐生先輩はそんな年相応の感情に頭を悩ませているのだ。悩みすぎるあまり眉間に薄っすらと皺を寄せており、それがまた普段の大人びた態度とは違った魅力を見せる。

 ならばと俺も幾つか提案をし、「木刀サイズの麩菓子も捨て難いですけど」と冗談めかして告げておいた。桐生先輩が肩を竦めて「夜食用に買ってあげるから」と言ってくるのは、真剣に悩んでいたことの照れ隠しか、もしくはアドバイスへの『お礼』か。



 そうして桐生先輩のもとを離れ、店の中を見て回る。

 土産か、と思わず小さく呟いてしまうのは、もちろん先程の桐生先輩の言葉が頭に残っているからだ。

 観光地巡りに参加出来なかった宗佐と珊瑚。せめてと二人に土産を買ってやるのはなにもおかしなことではない。今回の旅行は旅費や食事が一切かかっていないのだ、それの礼をする必要もある。


 ……だから多分、俺だって珊瑚に何か買っても良いはず。


 そんなことを考えながら俺が手を伸ばしたのは、小さなバッグチャーム。

 和風の花飾りがついたシンプルなデザインのものだ。色も抑えめな桜色をしており、これならばどんな鞄につけても雰囲気を壊す事は無いだろう。

 何軒か店を見て回った――見て回らされた、とも言う――なかで何度か見かけ、そのたびに目に留まっていた品物だ。控えめながらに柄の入った飾りが、どことなく彼女を彷彿とさせる。

 そう考えて幾度か手に取ったのだが、その都度、


 どうして旅行に同行している珊瑚に土産を買う必要がある?

 かといって月見や桐生先輩にまで買うのは違うし、そもそも買ったところで何て言って渡せばいい?

 それに万が一買って渡せたとして、珊瑚に変に思われないか……?


 という考えが頭の中で渦巻いて、手の中で眺めるだけにとどめて棚に戻させていた。

 臆病者だと笑うが良い、変に思われるなんてそれこそ自意識過剰だと笑うが良い。恋愛なんて遠い先の話だと思っていた俺にとって、小さなバッグチャームひとつでも贈るのは一大事なのだ。

 そう俺が自嘲していると、目の前に並ぶ品を取るために横から手が伸びてきた。青い飾り玉のついたキーホルダーを棚から抜き取るのは……。


「あれ、敷島君」

「なんだ、月見か」







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― 新着の感想 ―
[一言] そこはそれ、先輩と同じように、出てこれなかったからと珊瑚と宗佐双方に買って行けば、受け取ってもらえたような気がするのだけれど。 月見さんは、ちょっと距離感が近すぎるのかもしれないなあ。
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