04:更にプラス一名
翌日、待ち合わせに指定されていた駅前。
時間より少し前に着いて待つ予定だったが、どうやら同じことを考えていたらしく駅前の広場には既に月見と木戸の姿があった。
……木戸の姿があった。
それも、平然と月見と雑談をし、こちらに気付くと「よぉ敷島」とまるで当然のように片手を上げて挨拶をしてくる。
まるで一泊二日の旅行にでもいくかのような少しばかり大きめの荷物。そして俺が近付いても去りもせずここに居る理由を説明すらしない、この堂々とした態度。
これらから考えられることは……、
「とりあえず一応の礼儀として聞いておこうか、なぜお前がいる」
「それは答える必要があるのか?」
「いや、無粋な質問だったな」
答えなくて結構、と片手を上げて制止する。
考えて見れば当たり前……なのかどうかは定かではないが、桐生先輩が居るのだから木戸が居るのもおかしな話ではない。それが当然として扱われているのもどうかと思うけれど。
だが今更木戸のストーカーぶりに疑問を抱くのは無駄な時間だ。
それに聞けば今回は勝手に着いてきたのではなく宗佐から誘われたというではないか。
「昨日の夕方、芝浦から旅行にいかないかって連絡が来たんだよ。急な話だったけど、桐生先輩がいるなら断る理由はないだろ」
だから、と木戸があっさりと説明し、そのうえ携帯電話を見せて無実を証明してきた。
なるほど確かに、そこには宗佐からの誘いの文面が映し出されている。おおかた、夏休み明けに行ったプールの事でも思い出し、木戸も誘おうと考えたのだろう。
そのうえ月見には木戸の追加が事前に連絡されていたというではないか。
「敷島君は聞いてないの?」という彼女の不思議そうな表情に、俺と月見の扱いの差を感じてしまう。……まぁ、扱いの差なんてあって当然なのだが。
「でも、元々二人で行く予定の旅行に四人追加って……。昨日の今日でそんな変更出来るものなのか?」
珊瑚が連絡を入れるまで、宗佐と珊瑚は二人で一部屋に泊まる予定だった。そこに俺と月見と桐生先輩が加わり二部屋に。更に木戸が追加。倍どころの話ではない。
更にメールには宿泊代も宿での食事代も必要ないと書かれていたのだ。
芝浦家が負担するのかと思って宗佐に問えば、返ってきたのは「違う」という簡素な返事と、「宿泊費とか考えなくて良いから」という答えにもなっていない答え。それが余計に疑問を抱かせ、同時に言及するのを躊躇わせる。
どうやら月見や木戸も同じように疑問を抱いているようで、二人も不思議そうに顔を見合わせていた。
そんな中「お待たせ」と聞きなれた声が聞こえてきた。
見れば、こちらに歩いてくる宗佐とその隣には珊瑚。ほぼ同じタイミングで近場の階段から桐生先輩も姿を現した。
「ごめんな、出掛けにちょっと時間取られちゃって」
「こっちは渋滞でバスが遅れちゃったの。待たせちゃったかしら」
宗佐と桐生先輩が遅れたことを詫びる。
といってもさほど遅れたというわけでもない。
「俺は今さっき来たとこだけど。月見はいつから待ってたんだ?」
「私もそんなに待ってないよ。お父さんに車で送ってもらえたから、少しだけ早く来れただけだし」
「というわけだ、俺達も別に待ってない」
詫びてくる宗佐と桐生先輩に返せば、二人がそれは良かったと頷く。
「なぁ敷島、どうして俺には聞かないんだ? ちなみに一番早く来てるの俺だからな」
とは、一人スルーされた木戸。
それに対してわざとらしく「あれ、居たのか」なんて告げれば、俺の皮肉に木戸も意地の悪い笑みを浮かべて返してきた。
話を聞いた宗佐は不思議そうにしているものの、俺が木戸の同行を知らなかったと察するや、「あ、忘れてた」なんて言い出すのだ。悪かったと笑いながら謝ってくるその声色も態度も、なんとも宗佐らしい。
そんな会話を交わしながら駅へと向かう。
場所は変われども普段通りのやりとり。
だが珊瑚はどこか浮かない様子で、時折は俺達の会話に相槌を打ってはいるものの心ここにあらず。電車に乗るとさり気無く端に座り、ぼんやりと外の景色を眺めていた。
◆◆◆
電車を乗り継いで約三時間。
早めに出発したおかげで到着も早く、昼前には目的の駅に着くことができた。
観光地らしく大きく華やかな駅。構内も周辺も賑わっており、大きな鞄やトランクケースを片手に観光パンフレットを眺めている人がそこかしこに居る。
温泉地と言えば静かなイメージがあるが、むしろ駅周辺に限っては繁華街と言った方が適していそうだ。土産物屋や飲食店が乱立し、試食の呼び込みも活発である。
それでも奥へと進めば風情ある町並みになるようで、壁に貼られた観光地のポスターや看板は賑やかな駅周りに反して随分と趣がある。
それらを眺めていると、着物のレンタルをしようだの人力車に乗ろうだのと言った声が聞こえてきた。
「部屋で少し休みたいし、とりあえず旅館に行こうか」
「もう行って平気なのか?」
歩きだそうとする宗佐に思わず声をかけてしまう。
宿のチェックインは普通ならば午後からではなかろうか。
早くても三時頃と勝手に考え、最初は観光でもするのかと思っていた。月見や桐生先輩達も同じ考えだったようで「早すぎない?」「荷物を預けるの?」と顔を見合わせている。
それに対して返ってきたのは「大丈夫だから」という宗佐の苦笑。
珊瑚は相変わらずで、それどころか目的地が近付くにつれて元より少なかった口数も今では無いに等しく、ぼんやりとしながら宗佐の服の裾を掴んでいる。手を離せばふわりとどこかに消えてしまいそうだ。
「部屋にももう入れるから、ちょっと休憩してこれからの予定を決めよう」
話しながら歩き出す宗佐に、俺達は疑問を抱きながらも後を追った。
さり気なく珊瑚の手を握ってやる宗佐の姿に、これ以上の詮索を拒まれているような気がしたのだ。