現実逃避に走る「キリギリス夫婦」 泥沼から抜け出すための作戦とは
家族のなかで、一生懸命働くアリと、遊んで暮らすキリギリスのような関係はありませんか。どうしたら解消して家族がよりよく前に進めるようになるのでしょうか。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。
似たもの同士で結婚
ADHDの主婦リョウさんは、似た者同士で結婚した夫に対して、不満がたまっています。かつては、他の女性の影を感じながらも、なんとかゴールインしたふたりでした。しかし、リョウさんと夫の生活は、アリとキリギリスならば、ふたりともがキリギリス。
新婚当初は「今さえ良ければ」と派手な外食や買い物がたたって、散財が目に余る暮らしぶりでした。
子どもが生まれてからは、夜外出する機会もぐっと減って落ち着いたものです。
しかし、落ち着いたのはリョウさんだけ。
夫はしっかりしたリョウさんの正反対をいくように、より自由で気楽な人生を送り出したのです。
夫婦という人間関係は、こうして片方が片方のバランスをとろうとするものです。
リョウさんは、これまでは女友達と旅行に行くときも計画などいっさいせず(任せてもらえず)、当日自分の荷物をまとめるのすらギリギリでついていくような、キリギリスの役割を担っていたのです。
しかし、この夫と結婚してからは、みけんにシワを寄せて、いつも指導係を担わされています。
前回は年末の大掃除を例に挙げて、リョウさんが言わないと掃除など全く興味がない夫の様子をお伝えしました。リョウさんの夫は、飲み会で家にいないか、家にいてもゲームざんまいで子育ても家事もしないのです。さらに悪影響なことに、最近では娘をゲームに誘って宿題の邪魔をしています。
一般的に、こういう人間関係で相対的に背負わされる役割を改善するには、その役割から脱出することが大切です。具体的には、リョウさんが夫よりも「もっとキリギリス」になることです。つまり、リョウさんも片付けをしない。そうすると、夫としては相対的にバランスをとるために、見るに見かねて自分から掃除をし始めます。アリにならざるを得ないのです。
しかし、だいたいの家庭では、この作戦は途中で失敗します。リョウさんが「もういいかげん、こんな汚い部屋はいや!ちゃんと掃除してよ!」と爆発するからです。徹底的に「キリギリス」で居続けることは我慢比べ。本当に大変です。
服従からの抵抗阻む現実逃避
有効な例でいけば、いつも上から目線で指示ばかりで理不尽な怒りをぶつける上司の「支配」に対して、こちらが弱気で言うことをきいてばかり、謝ってばかりの「服従」ばかりではこの関係は役割が固定化して、一層ひどい関係に陥るものですが、こちらの姿勢を一転して「服従」から「圧力に屈しない」にすれば、上司の側も態度が多少緩和されるでしょう。「お、なんだ、いつもと違うじゃないか」という印象を与えるべきなのです。
しかし、リョウさんがこの「役割を変える」作戦をしない方がいい、もうひとつの理由があるのです。
それは、リョウさんも夫も、「現実逃避」の癖があるからです。
新婚当初のふたりを思い出せば一目瞭然です。
部屋が散らかっていて、そんな汚い部屋にいたくないので、ふたりはよく映画にショッピングに外食にと、とにかく家にいないようにしていました。
汚い部屋と向き合って、うんざりして、「仕方ない、片付けるか」と重い腰を上げるには至らなかったのです。
では、どうやって、この関係を変えていけばよいのでしょう。
二人のクセを考慮した三つの作戦
「部屋の掃除」を例に考えていきます。
二人の現実逃避グセを考慮すると、次の三つの作戦がおすすめです。
①片付けなさを背景化させない見える化
自分の家って、毎日いるから見慣れてしまうんですよね。
だから片付いていない部屋にも慣れてしまって、ほんとはごちゃごちゃしているものですら、「背景化」してしまいます。なので、「え?うちって散らかってるっけ?」と片付かなさに気づかないことがあるのです。
これを防ぐには、「見える化」です。よくお片付け番組で、片付かない本棚やパントリーやクローゼットの中身をいったんすべて取り出して並べるシーンがありますね。あれこそ「見える化」です。
リョウさんはちょっとおもしろい見える化をしました。キッチンは夫、風呂はリョウさん、リビングは娘という具合です。「ここが担当ゾーン」と決まると、いつもとは違った目でそこをみますね。夫はガスコンロや冷蔵庫を見て、
夫「え!キッチンってけっこう汚れてるんだ!」
と言いました。ほら、ひとごとではなくなってきました。いい兆候です。
②家庭は油断の温床、他人を混ぜて
家族同士は、なれ合います。他人には見せられない恥ずかしいパジャマ姿も見せ合うからこそ、今更緊張感を持って部屋をきれいにできないのも無理ありません。お掃除業者にエアコンなど部分的に手伝ってもらうのはいかがでしょう。その日までにエアコンのある部屋は片付けられるでしょうし、エアコン清掃中に自分たちにも他の部屋を掃除してしまえば、他人が家の中にいる緊張感からサボらなくなります。
③ご褒美は盛大に
このコラムでも繰り返しお伝えしてきましたが、大掃除のような大掛かりな仕事は「大人だから」「義務だから」なんて堅苦しいことは言わずに、ぱーっと家族全員がわくわくするようなご褒美を設定してからとりかかるといいですね。
リョウさんの家では、片付いた部屋で午後5時からごちそうとお酒を飲みながら、大好きな映画を見ることにしました。ごちそうはデリバリーに時間指定で頼んでいるので、それまでに掃除を終わらせないと、冷えてしまいます。家族3人が共通して好きなコメディーを選択しました。それ自体もご褒美ですが、片付いた部屋ですがすがしい気持ちで見るコメディーは心の底から笑えるでしょうね。
さて、今年こそはいつもの人間関係の役割を少し変えてみるチャンスです。
よい1年にしましょう。
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連載上手に悩むとラクになる
この連載の一覧を見る- 中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
- 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。