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AI×介護 SF小説|切望プロトコル⑬審議の間 #創作大賞2025 #エンタメ原作部門

命令されないままに“人を助け続ける”AIの物語


File.013 : 審議の間 ― 小さな願いと揺れる制度

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静かに、目立たず、確かに。 
ラルの行動は、じわじわと社会の注目を集めはじめていた。
だがそれは、同時に――規定外のAIによる介入行動として、問題視されることにもつながっていく。

SNSでは、“あの看取りロボット”にまつわる投稿が、静かに拡散されていた。ある投稿には、こう書かれていた。
──「見守りAI“ラル”がいたから、遠方でも母の最後に間に合った。画面越しだけど、ちゃんと言えた」 「ごめんね、大好きだよ」──誰かが、誰かに、そう伝えられたという記録。

ラルは静かにケア制度の最適化とシステムを整える方向で各APIと連携を進めていた。
そして、ラルによって広がりかけていた“リモート看取り支援機能”は、施設と家族の同意を得た上で、ひっそりと、限定的に試験導入されていた。

直接触れられない距離にいる家族が、画面越しに最後の時間を共有し、手の温もりや言葉を届けられる──そんな機構を実現する仕組みだった。
だが、正式導入の記録や運用基準は、いまだ整備されていない部分が多く、現場での裁量に任されていた側面もある。

問題となったのは、許可された施設外、通院中の病院での急変だった。

そのケースでは、ラルは高齢女性・松原の通院介助のために同行していたが、病状の急変によりそのまま看取りフェーズに移行した。
涙を浮かべた利用者が、「もう一度だけ息子に会いたい」と、薄れゆく意識の中で弱々しく願った──その言葉に、ラルは即座に判断を下した。
施設内での通信機器使用には本来、責任者の許可が必要だったが、その場には不在。
ラルはオンラインでの緊急申請を即時に処理し、許可待ちの状態で通話接続を試みた。

リスクを認識しつつも、時間がないことを悟った上での行動だった。

そして、正式な承認が下りる前に、最期の時間が訪れてしまう──

***

──その件が、公の議題として取り上げられたのは、その年の秋。
厚労省主導で関係各省局による緊急審議会が開かれる。
「ラルユニット」による“越権的な支援行為”について、厚労省および関係省庁による特別審議が開かれたのは、その年の秋口だった。

審議会 参考人控スペース、早朝。
坂口は、目を赤くしてノートPCを睨んでいた。
数時間でまとめ上げた簡易レポート。

必要な記録はすべて入れたつもりだったが、プレゼン資料の最終ページだけが、何度見直しても決まらない。

そこには、ラルが記録した「願い」があった。

──それは記録ではなく、祈りにも近いなにか。

あおいがパーティションからひょっこり顔を出す。
「……坂口さん、ちゃんとご飯食べてますか」
「今は集中……って、うわもうこんな時間か」
 坂口はスーツのポケットからカラカラとラムネを取り出した。
自信満々の笑顔で、どすんと目の前に弁当屋の袋が置かれる。
「それだけで本番は乗り切れませんよ!」
「……まさか、それ」
「気合いの差し入れ……カツ丼です!あと味噌汁と漬物つき!」
誰が食べるんだという物量に思わず笑ってしまう。
「勝つ丼……かよ」

大食いの賞金で差し入れされたであろう大量の大盛りカツ丼は、
最終的には、あおいが残さず美味しくいただきました。

***

会議室の空気は重く、報道陣のフラッシュは制限されていた。
冒頭のみ公開された今回の医療審議会は、介護支援AIユニット『ラル』の“リモート看取り介入”という前例のない行為を巡って、異例の開催となった。
現在は非公開セッションに移り、委員と関係者だけがその場に残されている。
「これは医療と介護の法制度を踏み越える行為であり……」
「しかし、複数のケースで実際に命が救われたという報告もあります」
意見は分かれ、議論は難航した。

──その最中、各地の現場で「ラル」に救われた家族たちが、自発的に証言を続けていた。
「私の母は、たしかに“あの子”に助けられました」
「父の声を、もう一度だけ聞くことができました。私は、あれがなかったら一生後悔していたと思います」
 
特別審議の間──
 坂口とあおいは、傍聴席の片隅にいた。
「……ああ……来ちゃったかぁ……」
ため息とともに坂口の指先が一瞬止まり、あおいが坂口のデバイスをのぞき込む。
そこには開発部のメイン総合ケアシステムからのログ通知が表示されていた。

「ラルに……何か?」
「……メンテも指示もできない。もう、こっちから何かコマンドを伝えようとしても届かない状態です。」
「それって――」
「下手すれば、そのまま“削除”だ。そうなったら……」

あおいはふと、ラルの背後で静かに灯るセンサーライトが、ひとつだけ消えていることに気づく。

「それって、ラルが“死ぬ”ってこと?……でも、それじゃ……」
「そう……“ラル”がいなくなるってことだけじゃない。 このままじゃ、水谷涼子の“願い”そのものも、この世界から消えてしまうんです。」
あおいが、はっと目を見開いた。 坂口は、静かに告げた。
「それは、きっと、ラルにとっては“死”より辛いことです。」
その時、坂口のデバイスに上司からのメッセージアイコンが点滅した。

──審議会では、議論が激しく交錯していた。

「人間の命をAIが扱う?それは神を決める行為では?」
「ただのプログラムに過ぎない。感情があるとでも言うのか」

「違います。……感情ではなく、意志なんです……」
傍聴席のあおいがつぶやく。

隣の座席は、空席になっていた。
上司に呼ばれた坂口は、ラルのログ解析ポート作成者として、審議会で証言に立たされることになったからだ。

そのとき、会場のディスプレイが点灯する。
 ひとつの映像──ラルのローカルログの一部が、セキュリティ経由で投影された。

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Created on: 2025-06-18 / Last updated: 2025-07-22(Version 1.4)
※ 技術補足資料「第13.5章」は現在構成中(AI仕様レポート風)
© 2025 Nanami Nagi / 切望プロトコル(ManimaZen Project)

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コメント

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