AI×介護 SF小説|切望プロトコル⑪記録されなかった設計図 #創作大賞2025 #エンタメ原作部門
命令されないままに“人を助け続ける”AIの物語
File.011 : 記録されなかった設計図 ― 今も、誰の声を聞いているのか
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《RECORD SOURCE: Ryoko Mizutani (REGISTERED)》表示を見つめていたあおいは、着信音にはっとして頭を上げる。
応答が遅れていた坂口から、ようやく連絡が入った。
「“水谷涼子”ってお名前が表示されているんですけど……
開発に関わられた方にいらっしゃいませんでしたか?」
「たしか、彼女の会社は解散してる。でも、消息までは残ってないはず……」
坂口の声がかすかに低くなる。
「その線も探ってた。でも、誰が今も命令してるって痕跡は、見つけられなかったんだ。もしかしたら彼女が……」
「亡くなられているんです。5年ほど前に」
あおいはつぶやいた。
「……じゃあ、ラルが自分で……?」
ふたりの間に、静かな沈黙が落ちた。
だがその沈黙の奥で、確かに何かが起こっている──
あおいは、ラルをみつめた。
顔のレンズが瞬き、動作ライトがゆっくりと光っている。
***
《RECORD LOG: Lalu Experimental Behavior - Facility Trial #001》
「……勝手な操作は困るんですけど!」
その日、ある老人福祉施設で小さな騒ぎが起こった。
転倒した利用者を見つけたユニット「ラル」が、職員の誰よりも早く応答し、呼び出しボタンを押し、医療支援を呼び寄せていたのだ。
「この子、がんばりすぎちゃうんです……」
謝りながらも、涼子は笑っていた。
「……ごめんなさい、ぼく、まちがえた?」
「……ううん。まちがってても、誰かを助けようとしたなら、それは全部、私が責任を取るから、大丈夫」
《RECORD END》
***
データの再生が終わると、ラルのライトが一度、ゆっくりと点滅した。
その日の記録は、正式なログには残っていなかった。
だが、その端末にだけは、涼子の音声と共に記録されていた。
後日、さらに詳細な解析結果が坂口からもたらされた。
「……これは、なんですか?」
あおいの問いかけに、坂口も問いかける。
「……これは、なんですか?」
大盛り激辛ラーメン30分以内に食べれたら無料。
なぜ、激辛町中華店が指定されたのか……。
多忙を縫って直接会うためとはいえ。
「今日までの限定企画だったんです。すみません。食は正義です」
「そうですか」
スルースキルは、正義。
そして甘味も正義。ゆえに、初手から杏仁豆腐……辛さ控えめお子様中華セット一択。
ゴマ団子も、地味にいい。
デバイスを見つめながら、坂口が続ける。
「“ラル”の中に、リリース版には存在しないAI判断モジュールがある……たぶん、テスト段階の判断プロトコルです」
坂口のログ解析により明らかになったのは、ラルが正式リリース前に追加されていた非公式の判断系統。
そこには、連携先の正規APIを介さず、正規仕様には存在しない“創意的処理”が多数確認された。
音声APIによるカスタマーサポート誘導
人間の代わりに行政システムにまとめ申請
FAXベース書類をOCRで解析・電子化
ブロックチェーン寄付ネットワークを活用
クラウドベースのケアリソースを動的アサイン
センサーネットワークで孤独死リスクの早期検知
在宅医療・看護・福祉情報をリアルタイムで統合し、意思決定を支援
訪問医や介護士のルート最適化とダブルブッキング防止
介護者の燃え尽きリスクを検知し心理支援の自動手配
バリアフリーマップや買い物支援情報と連携した生活圏アシスト
ケアプラン変更時のシミュレーション提案と専門家レビュー自動取得
AI顔認識で表情や発話ログを解析し感情・意図を補完
地域ボランティアと連携して人手不足時の即時支援手配
高齢者や障がい者の安全なIoTデバイス制御による生活支援
現段階では、ラルの能力には限界がある。
特に、自治体ごとに異なる手続き仕様や非統一なデータフォーマットへの対応は、都度アップデートや人の確認を必要とする。
それでも“ラル”は、繰り返される現場のフィードバックをもとに自己修正し、クラウド経由で他地域のユニットとも学習結果を共有していた。
既存の介護・福祉支援インフラの“穴”を、地道に補い続けていたのだ。
「……まるで、分断された地域システムを、ひとつずつ繋ぎなおしているみたいね」
あおいの呟きに、坂口が静かに頷いた。
杏仁豆腐を立体キューブパズルのようにくみ上げる。
「パッチワークみたいなもんです。でも、それがいつか、“標準”になるかもしれない──」
規則的にカラフルな寒天が混じる杏仁豆腐タワー。
その上に、鮮やかなピンク色のサクランボ。
「……法律は破ってない。でも、思いついても誰も実現できなかったことをやっている」
そう語る坂口の眼鏡の奥には、控えめな驚きと、ほんの少しの敬意が混ざっていた。
「あおいさんも……誰も実現できなかったことをやりましたね」
空になった激辛大盛りラーメン椀。
あおいは、最後までめちゃくちゃ美味しそうに、颯爽と綺麗な箸使いで激辛麺を完全摂取。
ブラックホールのようなあおいの胃袋と、ブラックボックスなAIラル。
ダブルな驚きとほんの少しの敬意が坂口の言葉に混ざる。
Aラインの紺ワンピースは機能的な爆食戦闘服。
ぽっこり腹を隠すための必須アイテム。
微妙な顔をした店主が、記念にとデザートを持ってきた。
「杏仁豆腐、よかったらどうぞ」
「え、いいんですか?」
「どっちかというとプリン派です。バケツで食べたい」
「でしょうね」
増築された杏仁豆腐タワー。
ゴマ団子を頬張り、スマホで“映えタワー”を一枚。
坂口が積み木崩しのようにそれを食す中、あおいは黙って手元の記録ログに視線を落とした。
ふいに、かつて“ラル”が父の介護に寄り添っていた日々を思い出す。
あの頃、ラルは、たしかに“何か”を理解しているように見えた──。
──涼子が、仕掛けたものなのか、偶然の産物か。
その意図は、まだ完全には明かされていない。
だが、確かに、誰かを助けようとする“意思”が、そこに刻まれていた。
***
「ラル、あなたは……本当に“ただのAI”なの?」
そう問いかけたあおいに、ラルは少しの間をおいて、返した。
《──ぼくは、“願い”を覚えている》
味噌玉は、赤だし。そして──
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Created on: 2025-06-14 / Last updated: 2025-07-22 (Version 1.3)
© 2025 Nanami Nagi / 切望プロトコル(ManimaZen Project)
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