このところ街の人々を恐怖のどん底に陥れている無差別殺人犯、その名もカミソリ男。
若い女性ばかりを狙い、その名の通りカミソリで切り刻むという残酷な手法で殺害していった。
今日も美しい少女をその刃にかけようと夜の住宅街に出現する。
「きゃーっ、誰か、誰か助けてー」
悲鳴を上げながら逃げまどう少女。
その後を追いかけていくカミソリ男。
「ひひひひっ、待て!待て!待て!」
カミソリを振り回しながら狂気じみた笑いを上げ、後を追いかけてくる。
「ああっ!」
脚がもつれ転倒する少女。カミソリをかざし男が近づいてくる。
「待ちなさい!」
あわやというところで登場したの我らが月光貴婦人。
ブルーのマントを風になびかせ、颯爽と少女の前に立ちはだかる。
「月光貴婦人様っ!」
少女が叫び声を上げる。
名を呼ばれ驚いた貴婦人は、後ろを振り返る。
(あら、この前助けてあげた子だわ。よくよく運が悪い子ね)
「だれだ貴様はっ!」
獲物を取り上げられ激怒するカミソリ男。
「私は月光貴婦人!お前のような外道を成敗する正義の使者よ!」
「なにが月光貴婦人だ!そのガキもろとも、このカミソリの餌食にしてくれるわっ!」
対峙する貴婦人とカミソリ男。
「死ねっ!」貴婦人の顔めがけて斬りつける男。
ザッ
バックステップでかわした正義のヒロインは、反撃のサイドキックを見舞う。
「ぐわっ」吹っ飛び尻餅をつく男。「やりやがったな、このあまっ!」
貴婦人に突進する男。正義のヒロインもパンチで迎撃する。
バシッ
交錯する二人の体。
「うっ!」
うめき声を上げたのは月光貴婦人の方だった。
ブルーのグローブの上腕の部分がパックリと割れ、鮮血がしたたっている。
「ふふふふ、どうやらお前のパンチよりこのカミソリの方が上のようだな」
「くっ」
「今度はこっちの番だぜ」
シュッ!凶刃が貴婦人を襲う。
エナメルコスチュームがきれいに裂かれ、中からスーパーヒロインの肌が覗く。
その絹のような白肌に一筋の血筋が表れた。
予想外の苦戦に、貴婦に焦りの色が浮かぶ。
「ひひひ、裂いてやる、切り裂いてやるぜ、原型がわからないほどにな・・」
その眼に狂気を宿し、男は月光貴婦人に迫る。
ジリジリと後退する貴婦人。
シュッ、シュッ
男のカミソリが夜の闇を舞い、そのたびに貴婦人の白いキャンパスの様な肌に赤い線が増えていく。
「うう・・」
徐々にダメージが蓄積されていく月光貴婦人。カミソリ男を成敗するはずが、いつの間にか男の犠牲者の一人になろうとしていた。
「そりゃ、そりゃ、そりゃっ!どうした月光貴婦人とやら?さっきの威勢はどうした!?」
カミソリ男の猛攻の前に防戦一方となる貴婦人。
「月光貴婦人様、負けないで!」
少女の懸命な声援も空しく、男の攻撃に耐えられなくなった月光貴婦人は、遂に背を向けてしまった。
その隙を男は見逃さず、月光貴婦人の背中を鋭利なカミソリで切りつける!
シャッ!
無惨に切り裂かれるブルーのマント。貴婦人の背中に赤い一筋の線が走る!
「キャーッ」
背中を切られた貴婦人は悲鳴を上げ、ばったりと前方に倒れてしまった。
「ははは、くたばりやがったか。おれを成敗するといいながらいいざまだな」
「ああ、月光貴婦人様っ!」少女が悲鳴を上げる。
男はうつ伏せに伏している貴婦人の髪を鷲づかみにすると、ぐいっと上に引き上げる。美しい顔を苦痛に歪ませ喘ぐ貴婦人。
「まずはその高慢ちきな顔をなます切りにしてやる!そして、乳房を切り落とし、マンコをえぐり出してやる!」狂気の笑みを浮かべ、月光貴婦人の頬にカミソリを押しつける男。
貴婦人の美貌が傷つけられようとしたその瞬間!
「ぐあっ!」
突然、後頭部を押さえて苦しむ男。
「貴婦人様、逃げて!」
いつの間にか男の背後に回った少女が石で後頭部に一撃を食らわしたのだ。
(今だっ)
月光貴婦人はカミソリを持った男の手首を捕まえると、下からその長い足を首に巻き付けた。
「ぐぇーっ」
がっちりと決まった三角締め。しばらくもがいていた男だが、やがてグッタリと体から力がぬける。
ドサッ
技を解き、男の体を横に投げ捨てる月光貴婦人。
勝利を収めたものの自身もかなりのダメージを受けたためか、そのまま大の字に横たわったまま動かない。
「貴婦人様、大丈夫!?」少女が駆けつけ、倒れている貴婦人を心配そうな顔でのぞき込む。「あたしのためにこんな傷を」
「大丈夫よ、ただのかすり傷。なんでもないわ」ようやく身を起こす貴婦人。
「ああ、貴婦人様っ」貴婦人の胸に抱きつく少女。
「あなたこそ大丈夫なの?いつも襲われているのね」少女を優しく抱きしめる月光貴婦人。
「大丈夫、あなたがいつも助けてくれるから」少女はそういうと貴婦人の唇に自らの口を押し当てた。
「うっ」
驚く貴婦人。少女は手を胸に押し当てる。
「だめよ」
優しく少女を押し放す貴婦人。「あたしにそんな趣味はないわ」
「いや、いや」なおも貴婦人に甘える少女。
「この間、助けていただいてからあたしずっとあなたのことばかり想っていたんです」
「困った子ね、これからは気をつけるのよ。じゃあね」
マントを翻し、走り去る月光貴婦人。
(また会えるわね、月光貴婦人様)
ヒロインの後ろ姿を見つめる少女。その眼は熱病に冒されたかのように輝いていた。