参政党の躍進の源流は 「メディアが伝えない情報」売りにネットで絆

 参院選で躍進した参政党は、2020年の結党から5年で急速に組織を拡大してきた。女性の社会進出や外国人に対する政策をめぐる党代表らの発言が物議を醸しながらも支持を広げたのはなぜか。歩みを知る関係者らへの取材をもとに、ルーツや変遷を2回にまとめた。

 参院選翌日の7月21日、東京・新橋駅前であった参政の街頭演説。当選した議員らに続いて、神谷宗幣代表(47)が壇上に姿を現すと大きな歓声が上がった。非改選を合わせた議席を2から15に伸ばしたばかり。マイクを握り、党のあゆみを振り返った。

 「たった一人の思いから始まった党が、インターネットでこれだけの人を集めて、(衆参の議員が)18人まで来たわけですよ」

 そして、既成政党と比べるようにして聴衆に語りかけた。「宗教団体がなくても、大企業の献金がなくても、外国のバックがなくても、国民の思いで国政の方向性が変えられる。ぜひ、みなさんと一緒に物語を作っていきたい!」

 少子化対策を語る中で「高齢の女性は子どもが産めない」と強調したり、「核武装が最も安上がり」と核兵器保有を主張したりと、神谷氏や候補者の発言が物議を醸しながらも、現状への不満の声をすくいとり議席を伸ばした。

 神奈川県厚木市の女性(60)は3年前、ユーチューブで神谷氏の演説を見て感銘を受け、党員になった。「政治家は公約を守らなくてもおとがめなし。でも神谷さんは言うことがブレない。政権を取れば国民のための政治をしてくれるはず」と話す。

 ネットを介して神谷氏らの主張に触れた人たちが、さまざまな形で政党に参加するというコンセプトの源流は、7年前にさかのぼる。

神谷氏「私のコネで、会えない人にも会える」

 「あれが参政の結党につながる『成功体験』になったと思いますよ」。結党メンバーでユーチューバーのKAZUYA氏はそう分析する。「あれ」とは、18年に神谷氏が立ち上げたセミナー「イシキカイカク大学」のことだ。

 ネットとリアルの両方で受講することができ、さまざまな分野の講師が「この世を支配する『裏の力』の存在を知る」「ヒトラーは本当に巨悪だったのか」「来日・在日外国人犯罪と在日特権」「なぜ今、大和魂の発動が必要なのか」などの内容で講義した。

 「私のコネクションがないと入れない場所に入り、通常では決して触れることができないものに触れ、普段は会えない人に会うことができます」

 現在もネット上に残る「第2期」の募集広告は、自らの人脈の価値を誇るようなうたい文句を掲げる。受講料は半年間で12万円だった。

 神谷氏は著書やブログで、若者の意識を変える教育のために政治の世界に入ったと説明する。学生時代の海外留学で「日本人であるという認識」の乏しさに気づいたとして、教育改革を訴え、07年から大阪府吹田市議として活動。12年の衆院選では自民党公認で立候補したが落選、まもなく自民党を離党した。

 KAZUYA氏が神谷氏と知り合ったのは、自身もネットでの発信に軸足を移したころだった。「保守」の立場から同じようにネットで発信をしていた2人は意気投合した。

カフェで打ち明けた夢

 「イシキカイカク大学」を受講したこともあるKAZUYA氏は、当時のことを「けっこう集客できていた」と振り返る。会場に通う受講者同士が、セミナーの後に懇親会で横のつながりを深めていく様子が印象に残っているという。「(受講者の)仲間意識が高まって宗教っぽくなるという現象」に映った。

 ネット上で「通常は触れられない」「メディアが伝えない」と情報の価値を打ち出し、接点ができた視聴者をつないで支持者に変える。支持者には「学び」の場を提供し、活動資金を得る場にもなる――。そんなイシキカイカク大学の手法は、結党後も続く。

 神谷氏は19年1月、都内のカフェで待ち合わせたKAZUYA氏に「政党を作って、日本を変えていきたいんです」と切り出した。

 「いきなりはちょっと難しいんじゃないか」。そう考えたKAZUYA氏が提案したのが、「政党DIY」という企画だった。「Do It Yourself」の略語であるDIYは、日曜大工など専門業者に任せずに自らの手で何かを作ることを指す。

 「支持する政党がないなら、自分たちで作ってみよう」。ネット配信を通じてメッセージを伝え、党名や党の方針を決める過程を見てもらう。ゼロから政党を立ち上げる作業に視聴者を巻き込み、支持者を集める――。

「メディアや教育がいびつ」 ネット発信を強化

 そんな提案に、神谷氏は「それいいね!」と即応。その年の春に「政党DIY」のチャンネルを立ち上げると、1年も経たない20年4月に結党した。当時の党員は約2800人だった。

 神谷氏にとってネット配信は得意分野だった。個人が演出・出演する媒体がまだ珍しかった13年から、自らが「メインキャスター」となって「国の大きな戦略」を考える「チャンネルグランドストラテジー」(CGS)というユーチューブのチャンネルを作って発信していた。

 「警告! 中国の実像」「神道は日本のアイデンティティ」。開始まもない時期は歴史のコンテンツ中心だが、近隣諸国を脅威として捉えたり、日本古来の文化への賛美を強調したりと、現在の党の主張につながる内容も目立つ。神谷氏は参政を結党したころのブログで自身の活動を振り返り、チャンネル設立の背景を「マスメディアや教育のいびつさと情報発信の大切さを痛感」したためだとつづっている。

 KAZUYA氏は神谷氏を「人間ハブ空港」という言葉で表現する。「多くの人をつなげる能力を持ち、ビジネスマンとして優秀で行動力がある」。人と知り合うと、別の知人を紹介して結びつける。発信力と行動力で、考え方に共鳴する人の輪が大きくなるのを目の当たりにした。神谷氏は著書で、ネットの発信をきっかけに「アンテナが立った人」たちが集まるようになったと振り返る。

 20年夏には「参政党DIYスクール」を新設した。日本の将来について「『大恐慌』『暴動』『言論弾圧』 そして国家破綻(はたん)へもつながっていく可能性すらある」と党員に呼びかけ、危機を打破するための「賢者たちの知恵」を吸収できるとうたった。第1期の半年間の受講料は、通学コースが20万円、通信コースが7万円。1年に2回のスクールを開いた21年の政治資金収支報告書によると、スクールの受講料収入は計約3200万円に上った。

 ネットを起点に支持者と活動資金を集めて誕生した参政だが、結党後、神谷氏との考え方の違いや運営方針をめぐる対立により運営メンバーはたびたび入れ替わることになる。KAZUYA氏もその一人。

 距離を置くきっかけの一つが、神谷氏に誘われて「科学者」を訪ねた時の出来事だった。

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  • commentatorHeader
    津田正太郎
    (慶応義塾大学教授・メディアコム研究所)
    2025年8月4日17時0分 投稿
    【視点】

    現代のポピュリズムにとって「メディアが伝えない」というフレーズは枕詞のようになっています。エリートとマイノリティの狭間でマジョリティが抑圧されているという主張を現代のポピュリズムは積極的に展開しており、「メディア」もまたその両者によって牛耳られていると訴えるからです。 そして、エリートとマイノリティの支配に対抗するための「自由な言論空間」として位置づけられているのがソーシャルメディアです。どれほどいい加減で根拠のない情報であっても「メディアが伝えない」という枕詞をつけてソーシャルメディアで発信するだけで、一定の信ぴょう性が生まれてしまう状況すら生まれています。 実際、ソーシャルメディア経由での情報接触が一般的になり、既存メディアが伝える情報の到達範囲が狭まるほど、既存メディアが実際に何を伝えているのかとはほぼ無関係に「メディアが伝えない」というフレーズだけが独り歩きをするようになっていきます。 もちろん、既存メディアが問題のある報道をすることも多く、そのことが「メディアが伝えない」という主張に一定の正当性を付与してしまうことも否定できません。既存メディアが100点、ソーシャルメディアが0点というわけでは決してなく、優れた着眼点の文章が後者で流れることも珍しくありません。 ポピュリズムと対峙していくためには、絶対的に信頼できる制度が存在しないなかで、相対的には信頼度の高い情報をいかに社会的に共有していくのかが重要な課題になっていくように思います。

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    米重克洋
    (JX通信社 代表取締役)
    2025年8月4日18時59分 投稿
    【視点】

    参政党が「メディアが伝えない」情報や価値観をドライバーに支持を獲得していることは、実態として世論調査でも確認できる。 TBSテレビとJX通信社が参院選投開票1週間前に行った調査でも、参政党支持層の根深い敵対的メディア認知(マスメディアの報道が偏っているとする認知的バイアス)や、ネット・SNS重視の傾向が見てとれた。 例えば「テレビや新聞が発信する情報は概ね信用できない」とする意見には参政党に投票するとした層の7割以上が共感を示したほか、「テレビや新聞の情報よりもインターネット・SNS上で見つけた情報に価値を感じる」との意見にも過半数が共感を示している。いずれも他の政党支持層を大きく上回っており、参政党支持層を特徴づける点だ。要は、マスメディアが押しつけてきた情報や価値観よりも、自分で見つけた情報こそ信じられる、という意識があるのだろう。 尤も、ネットやSNSで「自分で見つけた」と思っている情報が、本当に自分で見つけたものかどうかには疑問が残る。これは参政党支持層に限ったことではなく、世に蔓延する敵対的メディア認知や、情報を自分で選んでいるという「思い込み」への警鐘だ。 XなどのSNSやYouTubeのような動画プラットフォームでは、アルゴリズムが莫大な情報の中から、ユーザー自身の関心に合わせて情報を絞り込んでいる。言い換えれば、ユーザーがネットで触れる情報の大半は、決して自分で探して見つけているのではなく、ユーザーに勝手に忖度したアルゴリズムが選んでユーザーの視線の中に運んできているわけだ。「情報を誰かが勝手に取捨選択してユーザーに届ける」という点では、マスメディアもネット・SNSも実はさして変わらない。 謎に権威性を帯びた言論人やジャーナリストの情報のセレクション(やそこにちょっと臭う価値観の押しつけ)が鼻につく感じや警戒感は分からないでもない。だが、その警戒感は自分の偏った志向に勝手に忖度して情報を次々選んでくるアルゴリズムにも向けられるべきではなかろうか。 SNSで「メディアが伝えない情報」として陰謀論とマスコミ批判をセットで拡散する投稿は実に多い。そうした投稿を目にする度に「あなたが自分で見つけたと思っているその情報は、本当にあなたが見つけたものですか?」と聞いてみたい気持ちになる。

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