機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー   作:シャア、あんたちょっとセコイよ!

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長くなりました。


16.Decisive Battle of North America

 そこは元々はいくつもの摩天楼が空高く伸び、大きく栄えた大都市だったのだろう。しかし、現在はどのビルも半ばからへし折れ、住んでいた人々はおらず空虚な空気だけが充満する死んだ廃墟のみが広がっていた。

 その都市を地上スレスレの位置で航行するホワイトベースは現在殆どの灯りを消し、ブリッジ内も僅かな計器類の明かりだけが頼りなく周囲を照らす。

 

「……ここを抜ければひとまずは安心か」

 

 艦長席に座るブライトは呟くが、その顔は余り嬉しくなさそうにも見えた。他のクルーたちも似たり寄ったりな面持ちで、言いようのない緊張感がブリッジ内に……いや、船内に充満していた。

 

 ここ数日、殆ど勢力下だというのにジオンからの追撃がなく酷く静かに順調な航路を歩んでおり、ジャブローからの暗号通信で指定された海上までのこり僅か、まさに目と鼻の先にまで迫っている。

 

 このまま何も無ければ心配は杞憂に終わる。けれど、薄々は理解しているのだ。ここが北米において最大の山場だと。

 

 そして、それは来た。

 

 唐突にニューヤーク廃墟都市上空が白み、深夜の夜空を照らす。

 

「照明弾か……!」

 

 加えて、ホワイトベースの一部が瓦礫に隠されていた爆薬の感知センサーへ触れ、周囲が起爆する。

 凄まじい爆発がホワイトベースの周りに発生するが、その堅牢な装甲にはダメージはない。……が、それによって位置が露呈してしまった。

 

「ッ! 高熱源反応多数! レーダーに機影複数確認! 囲まれてます!!」

 

「総員第一種戦闘配置! パイロットたちはモビルスーツへ搭乗させろ!!」

 

「了解!」

 

「クソッ、アリアがまだ目を覚ましてないというのに……」

 

 ホワイトベースの最大戦力の片割れの少女は先の戦闘で意識を失ってから未だに目を覚ましていなかった。

 ブライトが愚痴る様に呟くが、敵はそんなことは待ってはくれない。今ある戦力でこの危機を乗り越え、生き延び無ければ……飛来してきたミサイルによる爆風の揺れに顔を顰めながら、ブライトはクルーたちへ矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

 

 

 

 

「始まったか……」

 

 廃墟都市を照明弾と幾つもの紅蓮の爆炎が彩る様を見て、パイロットスーツ姿のガルマは双眼鏡から手を離す。

 

「総員に通達、現時刻をもって木馬攻略作戦を開始する!!」

 

『了解!』

 

「航空部隊! ありったけのプレゼントを贈ってやれ! この都市を更地にするくらいにな!」

 

『こちら航空部隊、メッセージカードもつけておいた方がよろしいですか?』

 

「フッ、必要ないさ。心からのサービスだ」

 

『アイアイサー!』

 

 上空からガウを中心にドップたちの編隊が列を成し、ありったけ積み込んだ爆薬を投下し始めた。

 遠く離れた位置にいるというのに鼓膜をビリビリと震わせる轟音と振動を感じながらもガルマの表情は険しい。

 

 そして、4つの桃色の光線が爆炎を貫いて空へと上がる。その軌道上にいたドップは巻き込まれ、空を照らし掠めたガウは煙を上げたが依然変わりなく爆薬を落とし続ける。

 

「やはり一筋縄ではいかんな……」

 

 煙の切れ目に見えた白い船体を見てガルマは息を吐き出し、通信機を口元へ近付けた。

 

「スナイパー、用意はいいか?」

 

『は、はひっ!! こ、こちらスナイパー、所定の位置にちゅきましたっ!』

 

「了解した。トリガー、ライフルの調子はどうだ?」

 

『こちらトリガー、問題ありません。増加ジェネレーターのお陰で問題なく使用できます』

 

「宜しい。木馬が射程内に入ったらやってくれ」

 

『『了解!』』

 

 

 

 

「クソッ、ジオンの連中この時のためにずっと何もしてこなかったんだな……!」

 

 絶え間ない爆撃に晒されながらガンダムのコクピットでアムロは顔を顰める。

 

「これじゃあ出ようにも爆発に巻き込まれるな……せめてほんの少しだけでも爆撃が止まってくれれば……」

 

 懸命に爆撃の雨を縫うようにホワイトベースが廃墟の中を進んでいるが、現状を見るに余り効果が無いのはこの揺れを見れば明らかだ。

 しかし、どうにかしようにも現状アムロにはやれることは無い。焦る気持ちはあるが、とにかく耐えるしかない。

 

 だが、不意にアムロの背筋に悪寒が走ると即座に通信を入れた。

 

「ッ、不味い!! ブリッジ! 直ぐにハッチを開けるんだ!!」

 

『無理だ! この爆撃の中出しても巻き込まれるだけだぞ!?』

 

「いいから早く! じゃないと狙い撃ちされるぞ!?」

 

『こんな爆撃の中で狙えるわけ───

 

 ブライトの言葉は最後まで続く前にとてつもない振動がホワイトベース全体へ走る。

 そしてけたたましいサイレンが鳴り響き、アムロは反射的に舌を打った。

 

「クソッ、やられた!」

 

 

 

 

「よし、推進部を撃ち抜いた!」

 

「シミュレーターで練習してたとは言え、殆どぶっつけ本番で当てちゃった…………」

 

 モニターではホワイトベースが船体後部の推進機関から爆炎をあげるさまを見ながら、ヘレナは小さく歓喜の声を上げるのを背後にミアが感心したように呟く。

 

「ミア、呆けてるところ悪いけど早く移動して!」

 

「あ、す、すみません! すぐに狙撃ポイントを移動します!」

 

 背後から声をかけられ、ミアはすぐにレバーを握り直すとペダルを踏み込む。

 廃ビルの屋上を陣取っていたザクは被せていた断熱素材の布を脱ぎ捨て、僅かに屈むとブースターから青白い噴射光を放出させ跳躍。宙へ躍り出たそのザクを爆炎が照らし、姿を露わにさせた。

 

 大まかな全体図はミアの乗機であるハーフキャノンなのは変わらないが、代名詞たるキャノンやガトリングなどは取り外され頭部も形状を変えている。

 しかし、そのわりに背部のランドセルに増設するようにザクの胴体部分が強引に取り付けられ、それから伸びたケーブルが右腕を肘から先をガンキャノンの腕部になっており、その手に握られたビームライフルへ接続されていた。

 

 事の顛末としてはガルマは意図的に爆撃の包囲網に穴ができるようにし、そこへホワイトベースを誘導する。

 しかし、そこは事前にミアとヘレナの搭乗する『ザク鹵獲ビームライフル装備型』が潜んでおり、ホワイトベースが通ったところをヘレナがビームライフルで推進機関を撃ち抜いたのだ。

 

 本来、ザクはビームライフルを扱うことが出来ない。理由としては使用するコネクタの違いもそうだが、根本的にジェネレーターの出力が足りないからだ。厳密には使おうと思えば使える。しかし、その場合は1発撃てばザクがエネルギーダウンを起こしてしまうから、ザクはビームライフルは使えないということになる。

 当然、ガルマもそれは理解している。だからこそ、鹵獲したビームライフルを今回の作戦に使用すると決めた時に技術者に言ったのだ『ザクのジェネレーターの出力が足りないのならライフル専用のジェネレーターを追加すればいいだろう』と。

 

 しかし、ザクにジェネレーターを新しく追加する構造的余裕もなければ時間的余裕もない。なら、どうするか? 話は簡単だ。他から持ってきたものを外付けすればいい。

 

 幸いと言っていいかはわからないが、ガンキャノンと交戦時、ヘレナのザクは大破したが胴体部のジェネレーター部分は無傷。ガルマはこれをミアのハーフキャノンのランドセルへ増設するよう指示。

 頭部も回収していたヘレナのザクのものへ突貫で交換を行い、損傷していたミアのハーフキャノンの右腕も次いでとばかりに強引に鹵獲していたガンキャノンの右腕へ換装という見事なツギハギ具合だ。

 

 とにかく、ビームライフルを撃てさえすればいいというガルマの意向をメカニックは仕事を完璧にこなし、結果はご覧のとおり。

 

 ホワイトベースのエンジンを撃ち抜くという戦果を上げてみせる。おまけにライフル内のメガ粒子砲を補充できない関係で試射などできるわけもなく、シミュレーターで練習はできるだろうが実機においてぶっつけ本番でやって見せた。

 

 先のガンキャノンとの戦闘ではいいとこ無しだったが、今回では見事にやり遂げる。

 

 そして、脚をもがれた天馬がどうなるかなど語る必要なあるだろうか? 

 

 

 

「良し、これで逃げられる可能性はグッと減った。流石は姉上の部隊だな」

 

 ガルマは微笑み、見事に役目をなしとげた二人の少女へ賞賛を送りつつ自身の乗機へと乗り込むとオープン回線で声を張り上げる。

 

「目標、ホワイトベース! モビルスーツ隊、かかれ!!」

 

『了解!』

 

「シャア、ラル大尉、ニムバス大尉、アルマ少尉、君たちはガンダムを頼む!」

 

『了解した。勝利の栄光を君に!』

 

『承知した!』

 

『ジオンの騎士として成し遂げてみせましょう!』

 

『が、頑張ります!』

 

「いい返事だ。他のモビルスーツは私と共に木馬を狙え! 進め!!」

 

『おおおおお!!』

 

 エースたちが先陣を切り、それに続くようにガルマのグフと配下のザク達が続いた。

 

「アムロ、行きます!」

 

「あぁ、くそ……初陣でこんなのとかアリかよ!」

 

「僕には僕のできることをしてやる!」

 

「ジオンの連中、舐めやがって!」

 

 それを迎え撃つようにホワイトベースのモビルスーツ達は出撃する。

 

「とにかく弾幕を張れ! 敵近づかせるな! エンジンルーム、被害報告!!」

 

『推進部をやられましたが、エンジン部分は無事です! だけど、直そうにもこんな状況じゃ無理です!』

 

「クソッ、連中どんな兵器をつかったんだ!!」

 

 目まぐるしく戦局が変わる中で、ブライトは喉が枯れるほどの声量で指示を飛ばし続けていると。

 

「ブライト中尉! 通信です!」

 

「繋げ!」

 

 アームレストの受話器をとり、耳に当てる。

 

「こちらブリッジ、どうした!?」

 

『あ、あの! わ、私……えと、アリアちゃんの友達のミアっていいますっ』

 

 すると、聞こえてきたのは不安を滲ませる少女の声だった。

 

「ミア……? 確か、アリアとよく一緒にいた避難民か……それで、ミアくん一体どうしたんだ?」

 

 ブライトは声の主がアリアとよく一緒にいる避難民の少女を思い出し、緊急事態だが声を荒げないように問いかける。

 そうすると、受話器の向こう側からは何度か逡巡したような間の後に言い放った内容にブライトは受話器を取りこぼしそうになるほどの衝撃を受けた。

 

『……ないんです』

 

「なんて?」

 

『アリアちゃんが、ベッドにいないんです!』

 

「……は!?」

 

 ミアの背後のベッドはシーツはめくられ、近くには半ばで引きちぎられたチューブから点滴がこぼれて床に水滴を作り出す光景が広がっており、本来だったらそのベッドにいるはずの少女がそこにはいなかったのだ。

 

 そもそも、彼女がなぜ医務室にいたかは簡単で爆撃に揺られるホワイトベースの中で、安心出来る存在であるアリアの傍にいたいがために医務室へ訪れていた。

 しかし、ミアが医務室に入ればそこは既にもぬけの殻で、眠っていたはずのアリア姿は影も形もなかった。先の揺れでベッドの下に落ちたかと思い、咄嗟に下を覗いてみたがスリッパが置かれているのみでいる訳もない。

 一応、彼女の寝ていたベッドのマットレス部分を触れると微かに暖かく消えてから時間は経っていないと判断してくまなく医務室を探し、通路も探したが見つからず途方に暮れそうになりながらも藁にも縋る思いで彼女はブリッジへと連絡を取る選択をとる。

 

 寝耳に水な報告にブライトは頭を抱えたくなるが、懸命に堪えて緊急事態の中で最前の選択を選んだ少女を労うように言葉を送った。

 

「わかった。私からもクルーに彼女を探すように言っておこう。

 ミアくん、君は他の避難民の人達と共に大部屋に集まっていくれるか?」

 

『わ、わかりました……あの、アリアちゃんをお願いしますっ』

 

「わかった。くれぐれも怪我をしないように行くんだぞ」

 

 通信を切り、ブライトは受話器をアームレストへ置くと直ぐにフラウへ呼びかける。

 

「フラウ! 直ぐに艦内映像を精査しろ! アリアが行方不明になった!」

 

「はっ!? アリアちゃんがですか!?」

 

「そうだ! 万が一敵からの攻撃に巻き込まれていたら目も当てられん!」

 

「わ、わかりました!!」

 

 

 

 

 

 作業員たちが駆け回り、怒鳴り声が響く格納庫の奥で安置されていた蒼いモビルスーツ不意に光の灯っていないバイザーに緑の輝きが宿り、固定していたロックを力任せに引きちぎる。

 

「ッ、オイ! あのガンダム擬きが起動してるぞ! 誰が乗っているんだ!?」

 

 整備士の1人が異音に気が付き、顔を上げればモビルスーツ等が不意の事故で転倒しないように拘束する機構を強引に引きちぎる機体の様を見て叫んだ。

 

 ただでさえ騒がしかった空間がさらに喧しくなるのを意に介さず、自由になった腕が前を塞ぐようにあったデッキを叩き割り、屈むと脚部の拘束をそのマニュピレーターで握り潰す。

 歩けるようになると未だ作業員が足元にいるというのに構わず格納庫の中を踏み出し、足裏が接地する毎に潰されないよう作業員が床へころがった。

 

「ブリッジ! どういう事だ! ブルーを使うなんて連絡来てないぞ!?」

 

 阿鼻叫喚となった格納庫でテムが通信機片手に惨状を見ながら叫び、それに負けない声量でブライトの怒鳴り声がスピーカーから響く。

 

『私も何も言ってません! テム大尉、それよりもアリアが医務室から姿を消しました!!』

 

「なっ!?」

 

 言葉を失い、テムの脳内を疑問が支配するが目の前の光景を見てテムは即座にブライトへ言う。

 

「ブライト君! ブルーのコクピット映像を出せ!!」

 

『はっ!? わ、わかりました! ブルーの中の映像を映すんだ!』

 

 テムの予想が正しいなら、あの中には─────

 

『ッ、アリア!? なんでお前がそこに!!』

 

「やはりかっ……!」

 

 顔を俯かせ、操縦桿を握る病衣姿のアリアがそこにはいた。

 

「アリア! お前は病み上がりなんだ! その機体から降りなさい!!」

 

 テムのその身を案じた叫びはしかし、アリアはなんの反応を示さない。

 懸命にテムが呼びかけるがそれでも蒼い機体、ブルーディスティニーは止まらず遂には閉じられたカタパルトハッチの前へと立つ。

 

『止めろアリア! 出撃許可は出していない! 今すぐ降りろ!! 

 でないと子供だろうと懲罰房いきだぞ!?』

 

 ブライトの脅しもなんの障害にならず、ブルーは行く道を塞ぐ壁へと腹部の砲門を向け、装填されたミサイルを放った。

 

「ッ、退避ィィイイイッ!!!!」

 

 誰かが叫び、巻き込まれるのを避けるために走るか近くのコンテナや物陰へと隠れ、そしてその数瞬後に爆発が格納庫を襲う。

 

『なんてことを……!!』

 

 ブライトの目にはカタパルトハッチを内側から爆破され、外の景色が丸見えとなった様子が映っていた。

 アリアの凶行にクルーたちは言葉を失い、暫しの間だけ沈黙が訪れる。

 

 しかし、ブルーディスティニーの中のアリアはそれになんの反応も示さずに機体の足は進むとカタパルトの縁へ立ち止まると躊躇いなくその身を投げ出した。

 蒼い背中は夜闇へ消え、そして漸く格納庫内はザワザワと混乱から立ち直った声が発生し出す。

 

「な、なんだったんだ……?」

 

「お嬢ちゃんがあの機体に乗ってたらしいが……」

 

「ふざけんなよあのガキ……俺たちを殺す気か!?」

 

「クソッ、ジオンのカス共に殺されそうになってるのに!」

 

 戸惑い、恐怖、不安、怒り、様々な負の感情が充満するがテムは呆然と目の前を見つめることしか出来ず、その手から零れ落ちた通信機がコードに繋がってることにより床に落ちることなく宙ぶらりんとなり壁とぶつかる音だけが響くのが物悲しげだった。

 

 

 

 

「ッ、何、この悪寒は……」

 

『ハァァァアッ!!』

 

『デヤァァアッ!!』

 

 不意にアルマは操縦の手を止め、不安に表情を歪める。

 背筋に伝う悪寒と嫌な汗はアルマの第六感とも呼ぶべき警鐘が脳裏を過ぎり、周囲へザクのモノアイを走らせた。

 

 そのすぐ前ではシャアの駆るザクとガンダムがオレンジとピンクの残光を走らせ、火花で周りを彩り剣戟を行っている。

 だが、アルマにはそれが気にならないほどの不安が胸中を支配していた。それこそ、ガンダムすら霞むほどの脅威を感じて。

 

「……EXAMが反応している。近いというのか……?」

 

 それと同じようにイフリート改の中でニムバスは感じ取る。忘れたくとも忘れられない、独特の気配を。

 

「空気が変わった……何か、来るな?」

 

 2人とは違うが肌を刺す違和感を覚え、ラルは眉を顰める。それは言わば歴戦の戦士が併せ持つという経験から裏打ちされた感というものだった。

 

「シャアァァッ!」

 

『ガンダムゥウッ!』

 

 しかし、それを感じないほど目の前の存在へ意識を向ける2人がいた。

 アムロとシャアは互いに相手を確実に仕留めるためにヒートサーベルとビームサーベルを振るう。

 

 一合、二合、三合と数えるのも億劫になるほどぶつけ、合間合間にバルカンやマシンガン、ビームや砲弾を放ち都市の間を駆け回っていた。

 

 その道中にいたザクを切り捨てたところで、不意に空が一際明るく染まる。

 

「ッ、なんだ!?」

 

『グゥ!? ッ! ガウが落とされただと!?』

 

 ガンダムがシャアのザクへ蹴りを叩き込み、ビルへ突っ込んだところで出来た僅かばかりの間にアムロは顔を上げ息を飲んだ。

 

 ホワイトベースを爆撃していたジオンの航空部隊の主力でもあるガウの1機が内部から爆炎を上げ、直庵機のドップが火達磨となって墜落していく光景を見てしまう。

 

 唐突すぎる出来事に戦場にいた全ての兵士が空を見上げ、攻撃の手を止めるという異常事態。しかし、それ以上に思考の端で感じ取ったのだ。

 

 その巨体を炎で包み、高度を落としていくガウは遂には地表へと激突し轟音とともに空高く爆発の柱が発生する。

 

 そして、それを背にして歩む死神の姿を……

 

『なんだ……お前…………?』

 

 ザクのパイロットは寒くないのに震えが止まらなかった。ゆっくりと歩み寄ってくる存在の気配に充てられ、ガンガンと警鐘を鳴らす。

 咄嗟に乗機でもあるザクのマシンガンの銃口向ければ、死神は徐に歩みを止めた。

 

 だが、それはその銃口を警戒してのものではない。

 

 遂に死神は本性をあらわにする。

 

 

 

EXAM SYSTEM STANDBY

 

 

 

 死神、ブルーディスティニーはゴーグルや各部センサーの色が緑から鮮血を思わせるような深紅のものへ変化し、装甲表面からは妖しいオーラのようなものが滲み出す。

 

 機械は感情などある訳が無い。なのに、パイロットには目の前の鉄の塊からは気配に触れただけで吐きたくなるほどの濃密な殺意を感じ取り、知らず知らずのうちにザクを後退りさせた。

 

 ザリッ、足裏が瓦礫だらけの地面を踏み締めた小さな音が響く。やけに耳に残る音に堪らず、パイロットは視線を目の前から僅かに外してしまう。

 

 時間にして1秒にも満たないほど、隙とも呼べないようなほんの僅かな時間だというのに視線を戻したパイロットの目にはモニターいっぱいに映る、その紅く、丸い眼光が広がっていた。

 

『ッッッッッ!!!!?』

 

 凄まじい音がコクピットを襲い、世界が砕けたかと思うほどの衝撃を最後にザクのパイロットは意識を取り戻すことはなくなった。

 

『は、速い!!?』

 

 空高く跳ね上がり、墜落した仲間のザク。それはよく見ればコクピットが拳ほどの大きさの穴が空いており、中がどうなっているかなど想像しなくても理解できる。

 あっという間に自分たちの仲間の1人を無力化した見たことの無いモビルスーツにザクたちは気圧された。

 

『ひっ……!?』

 

 殴りぬいた姿勢のまま、その機体と目が合った1人はそんな雰囲気に呑まれ、引き金を引く。それに吊られるように他のザク達が各々の火器を放つ。

 

 避けれないほどの距離で弾幕が形成され、どんなものもあっという間にスクラップへ変える暴力だというのにその場にあるのは悲鳴だった。

 

『な、なんで当たらないんだよ!?』

 

『こ、こいつ弾幕の合間を縫ってやがる!?』

 

『来るなぁぁあっ!!!』

 

 常人だったら挽肉になる様なデタラメの軌道で赤い残光を伴いながらブルーは弾丸のシャワーを進む。

 

 ブルーは徐に脚部へ手を伸ばすと脹脛にあたる装甲が開き、格納されていた円筒の物体を引き抜き勢いよく振るった。

 

『……え?』

 

 すれ違いざまにビームサーベルの刃がザクの胴体が斜めに切り裂かれ、ずり落ちるように落下し爆散。

 その爆煙を引き裂いて別のザクへ飛びかかり、頭部へその切っ先を振り下ろす。

 

『あぇ───』

 

 股の間からビームの刃が生え、頭部を串刺しにしてそれを足場に跳躍。引き抜かれたと同時に爆発し上空へブルーは躍り出た。

 

『ひ、ひぃぃあいっ!!?』

 

 あっという間に仲間を目の前で落とされたザクのパイロットは引きつった悲鳴をあげながらザクバズーカを乱射する。

 それに対してブルーは空中で微かに身をひねることで弾頭同士の僅かな隙間を通り、落下とブースターの勢いを乗せてザクめがけてサーベルを振り下ろし、またひとつ火球の華が咲いた。

 

 着地すると同時に地面を踏み抜き、突進。進路上にいたザクの頭部を掴んで勢いを強引に殺すことで着地する。

 しかし、その慣性に引きずられるように頭部を掴まれたザクが位置を入れ替えるかのごとく宙を舞い、ブルーは別のザクに向けて投げつけた。

 

『ァァァアアッ!!?』

 

 勢いよく投げられたザクは別のザクへ勢いよくぶつかり、吹き飛び2機諸共廃ビルを突き破ると支えを失ったビルが倒壊し、そのザクたちへ降り注ぐ。

 

 砂塵が朦々と周囲を覆いつくし、夜も相まって視界が阻害される中で幾つものマズルフラッシュが瞬く度にピンクの光が走り、火球が生成され煙が晴れた頃にはそこには残骸しかなかった。

 

 

 

「な、なんだぁ!? ザクが消えていくぞ!」

 

 ガンキャノン2号機パイロットのカイはレーダーに映る機影が次々と消失していく様を見て、ホワイトベースを落とそうと躍起になっていたザクの1機をビームライフルで撃ち抜きながら目をひん剥く。

 

『わ、分かりませんけど敵の動きが乱れてますよ!』

 

『よく分からんが今のうちに叩けるだけ叩け! アムロがエースたちを相手にしてる間にな!』

 

 ハヤトとリュウの駆るガンタンクが主砲とミサイルでドップやザクを打ち抜きがら叫び、カイも訳が分からないがこの好機を逃さない理由は無いとキャノンを撃ち放った。

 

 

 

「…………ここは?」

 

 遠くから泡のような光り輝く物体が無数にある真紅の空間でアリアは漂っていた。

 目が痛くなるほど眩しい空間でアリアはゆっくりと見渡すが周囲には誰もおらず、ここにいるのは自分だけだと知ると怪訝な表情を浮かべる。

 

「はぁ……変な耳鳴りの次は訳の分からない空間ですか? こんなことをしている暇は無いというのに……」

 

 ───じゃあ、ニュータイプを殺そうよ

 

 不意にそんな声が聞こえてきたアリアは再び見渡せば、それほど離れていない距離に朧気なシルエットがあることに気がついた。

 それは姿はブレているが、人の形をしており体格からして少女らしい。

 

 それは徐に空間の中を泳ぐように進むとアリアと額が触れ合う距離まで近づいてきた。

 

 ───貴方にはそれだけの力がある

 

 ───EXAMとならニュータイプなんていう化け物を殲滅できるわ

 

 ───さぁ、システム()に身を任せ「そういうのいいので」げぁ!? 

 

 少女のシルエットは悲鳴をあげる。その腹部にはアリアの拳が突き刺さっており、確実に内臓にダメージが行くような当たり方で痛そうだ。というか実際に痛いらしく、シルエットは悶えている。

 

「貴方が何者か知りませんけど、幾つか分かったことがあります。

 まず、あの時私を可笑しくした耳鳴りは貴方だということです」

 

 ───おごぉ!? 

 

 悶えるシルエットに追撃とばかりに鋭い爪先が叩き込まれた。

 

「次にあのザクたちを落とすのを邪魔をするように変なことを言ってきたこと」

 

 ───げひっ!? 

 

 顎を蹴りあげる。

 

「私をこんな変な場所に引き込んだこと」

 

 後頭部へ足を乗せ、グリグリと擦るように踏みつける。

 

「お陰で死にかけましたよ。よくやってくれましたねクソ野郎」

 

 ───な、なんでぇ!? なんで、EXAM()にこんなこと!? 

 

「誰が喋っていいと言いましたか?」

 

 ───あびゃっ……!! 

 

 手首を踏み砕き、アリアは屈むと頭髪っぽい部分を掴んで顔を持ち上げて視線を合わすように覗く。

 

「貴方は私の質問に答えるだけが唯一の自由です。分かりましたか? はい、返事」

 

 ───わ、わかり、ました……

 

「宜しい。では、貴方はなんですか?」

 

 ───わ、私はマリオン・ウェルチ(EXAM)。クルスト・モーゼスが作ったニュータイプを殺すシステムよ……

 

 シルエットことエグザムのその内容にアルアは眉をひそめた。

 

「ニュータイプ? あの時も言ってましたが、なんですかソレ?」

 

 ───ニュータイプは、人類の革新……宇宙に適応した新たな、人の形よ。クルストはそれを恐れ、殺すためにマリオン()を被検体にEXAM()を生み出した……

 

「はぁ……」

 

 アリアは何言ってんだこいつイカれてんのか? と言わんばかりにEXAMを見つめる。

 その視線にEXAMは嘲笑うように肩を震わせ、言葉を発した。

 

 ───貴方、現実の自分がどうなってるかわかってないのね? 

 

「ふむ?」

 

 ───貴方の体は私が操作してる。つまりは生かすも殺すも私しだ「うるさい」ひゃぶ!? 

 

 顔面へ膝を叩き込み、アリアはEXAMの顔面に何度も拳を叩き込む。

 拳が振り下ろす度にEXAMの四肢がビクビクと震え、それを数分続けると動かなくなった。

 

「やはり訳の分からないシステムはダメですね。勝手に上位者気取って好きかっていってきます。

 真面目に話に付き合うよりこうした方が早いですね」

 

 ───…………

 

 完全に沈黙した変なのを放置し、アリアは立ち上がるとおもむろに目を閉じて意識を集中させる。

 勘のいいアリアは数分そうしていると目を開き、直感の従うままに赤い空間のどこかへと歩み始めるのだった。

 

 

 

「な、なんだコイツ!?」

 

「ホワイトベースの新型ですか!?」

 

 廃墟をかけるザクの中でミアとヘレナは叫ぶ。その後方には凄まじい勢いで追いすがる蒼い機体の姿があり、ヘレナはビームライフルで狙いを定め、引き金を引く。

 銃口から放たれたビームはブルーへ迫り、つらぬ───けず逆に蒼い機体の握るビームサーベルに切り払われた。

 

「デタラメだろ! なんでビームを切り払えるんだよ!」

 

「そ、そりゃビームサーベルはIフィールドでメガ粒子を棒状に固めたものですから……あくまでもメガ粒子を撃ち出すだけのビームと違って強度が違いますからね……」

 

「なんでお前はそんなに冷静に解説できるんだよ!?」

 

「現実逃避ですぅ!」

 

 ヘレナとミアは狙撃ポイントへ移動途中、突如として航空部隊が爆散するさまを目撃し、続けて急速で減っていく友軍の反応を確認ついでにスコープを覗いた瞬間に見たことの無い蒼い機体と目が合ってしまい追われる事態に陥ってしまう。

 

 懸命に逃げ続けてはいるが、機体性能の差で距離はかなりの勢いで縮んでいっており数秒もすれば追いつくことは確実だ。

 強引に複座式にし2人乗りにしたことでいつも以上に狭いコクピットの中でミアは必死にモニターに映る景色を見ながら考える。考えたところで閃きが訪れ、ミアはへレナに向けて叫ぶ。

 

「ヘレナさん!」

 

「なに!?」

 

「あのビルの柱、撃ち抜けますか!?」

 

「いきなりだな! やってみせるけどさ!」

 

 ヘレナはビームライフルのセンサーを起動させ、狙いを定め引き金を引いた。

 離れたビームは寸分違わずビルの主要な柱を撃ち抜くと、既にボロボロだったビルは崩れ始めミアたちのザクの背後を塞ぐように倒壊する。

 その落下地点に丁度あの機体が突入するタイミングで通り、それがミアの狙いだ。

 

 これだけの質量なら完全に潰せなくても足止めは出来る。程なくして瓦礫の山が降り注ぎ完全に覆い隠す。

 

 ザクを立ち止まらせ、振り返り2人は安堵の息をこぼした。

 

「はぁ、なんだったんだアイツ?」

 

「さぁ……形状から見て連邦のものでしょうが。おそらく木馬のものでしょうか?」

 

「私に聞かれてもわかんないよ。とにかく、早く合流しよう。ガルマ大佐に報告しとかないと」

 

「ですね。早く行きま────

 

 瞬間、ナニかがザクのすぐ真横を通り過ぎたかと思えば、あるはずのザクの右腕がそこにはない。

 

「…………え?」

 

「なにが……」

 

 視線を向ければ地面にはビームライフルを握るザクの腕が転がっており、断面は溶断され回路からは火花が飛び散っている。

 そして、そのすぐ近くには両手にビームサーベルを握る蒼い機体の姿が。

 

 青い装甲表面は微かに薄汚れてはいるが、殆ど目立ったダメージはない。つまりはあの瓦礫の雨の中を突っ切ったということを表している。

 

「ッ、ミア!」

 

「は、はい!」

 

 即座にバックブーストを吹かし距離を取ろうとするが、蒼い機体が動いたと思った瞬間に凄まじい上下に見舞われた。

 

「きゃァァッ!?」

 

「うぐぅ!?」

 

 機体のコンディションを表示するモニターにな左脚部が断裂したという表示があり、モニターにはザクの左足は膝から先がなくすぐ近くに転がっている。

 バランスを取れずに倒れ込み、後頭部がシートへぶつかる痛みに2人は顔を歪めるが既に戦いのイニシアチブが取られていることからとにかく逃げることへ意識を向けた。が……それを素直に見ている存在ではなかった。

 

 ちょうど自分の足元に転がっていたビームライフルをその蒼い機体は握られたままのガンキャノンの腕を引き剥がし、自分が装備すると躊躇いもなく引き金を引く。

 

 ビームが放たれ、残りの腕と足を貫きザクを達磨させれば中の貯蔵されていたメガ粒子が完全になくなったのか沈黙したソレを投げ捨ててビームサーベルの切っ先を地面に向けたままゆっくりと歩み寄る。

 

 まるで真綿で首を絞めるかのようにジワジワと迫る様は2人の内心は断頭台に運ばれる死刑囚のような感覚だった。

 

 数秒でザクの元へ近寄り、そのビームの刃をコクピット付近へと運ぶとビームの熱により装甲表面が炙られ微かに赤熱化する。

 

「っ、動いて、動いて……!!」

 

 必死にミアが操縦桿を動かし、ペダルを踏むが無茶な改修と先のダメージで操作系に不具合が生じたのかブースターは起動しなかった。

 

「くそ、ここまで来て……!」

 

 ヘレナはゴーグルの奥にある赤い双眸を睨みつけ、歯噛みする。突然現れた訳の分からない奴に作戦をめちゃくちゃにされた挙句殺されかけている理不尽に。

 

 迫る死の気配に引き攣った悲鳴をあげ、ビームの刃が2人を消し飛ばす────寸前。

 

『ウァァァァアッッツっ!!!!』

 

『見つけたぞ、クルストの妄執!!』

 

 2つの影が蒼い機体の背後から飛び掛り、その背目掛けて3つの刃を振り下ろす。

 

 下ろそうとしていたビームサーベルを跳ね上げ、もう一本のサーベルも抜刀しその攻撃を蒼い機体は受け止めた。

 2機のモビルスーツによるヒートサーベルの振り下ろしを受けて尚、その機体は難なく攻撃を受止め膝を折ることなく逆に跳ね返す。

 

『うわっ!?』

 

『チッ、単純なパワーではイフリートより上か……?』

 

 着地した2機のモビルスーツ、アルマとニムバスは油断なく見据えているとその蒼い機体は足元のザクを横へ蹴り飛ばすと振り返り、2人へ体を向けた。

 

『少尉、君は彼女たちを連れてここから離れるといい』

 

『大尉はどうするんですか!?』

 

『私は……』

 

 ニムバスは改めてその蒼い機体、ブルーディスティニーへ向き直る。

 現在2人はシャアからガウを落とし、友軍を撃墜してる敵を止めることを命令されここに居たのだ。

 

『こいつをここで破壊せねばならない。君だって理解しているだろう? アレは存在してはいけないものだと』

 

『だ、だけど! 明らかに普通の機体じゃありませんよアレは!? 二人でやった方が!』

 

『いいや、この戦場では私以外はかえって足手まといだ』

 

『ですが!』

 

『命令だ! 君は直ぐにこの場から離れろ!! でなければ君の仲間は死ぬぞ!』

 

 有無も言わせぬ迫力でニムバスは怒鳴り、アルマは食い下がろうとしたが直ぐに機体を転がっていったミアたちのザクへ走らせた。

 それを追おうとブルーが動こうとしたが、

 

『どこを見ている連邦のEXAM!!』

 

 ニムバスのイフリート改が両手のサーベルで切りかかることで中断させる。

 赤い双眸は出鼻を挫いたニムバスを睨むように向き直り、サーベルで受け止めた。

 

 火花が飛び散る中でニムバスはブルーディスティニーと同じ忌むべき力を解放させる。

 

 

 

EXAM SYSTEM STANDBY

 

 

 イフリート改のモノアイが鮮血のごとく深紅に染まり、装甲表面が赤いオーラを放ち機体全てのリミッターが外されニムバスの意識を殺意が支配しようと手を伸ばした。

 

『黙れ! 貴様はマリオンではない!!』

 

 その手を跳ね除け、ニムバスは確固たる意思でEXAMを支配下に置き出力の上がった機体でビームサーベルを切り払う。

 

『ハァァァアッ!!』

 

 イフリート改のキックをバックブーストで下がりながら共に胸部バルカンを放つが、それを殺人的な軌道で避け跳躍するとお返しとばかりに脚部ミサイルポッドからミサイルを撃った。

 

 降り注いできたミサイルを頭部バルカンで撃ち抜き、誘爆させ爆発が咲く。

 それを引き裂いてイフリート改がクロスさせたヒートサーベルをブルーディスティニーへ振り下ろした。

 

 再びブルーディスティニーはサーベルで斬撃を受け流し、頭部バルカンを撃つがバックステップでジグザグに移動することで躱しつつ再び前進。

 前腕部のグレネードを2発撃つ。同じようにブースト移動で前進しながら飛んできたグレネードを切り払い、両者は剣をぶつけた。

 

 袈裟斬り、切り上げをターンによりすれ違いざまに交わしイフリート改も円を描くようにそれぞれ時計回りと反時計回りに移動し、互いに二刀流で切り合う。

 

『連邦の蒼いモビルスーツのパイロット! 私の声が聞こえているのならその機体から降りろ!!』

 

 接触回線からニムバスは語りかける。しかし、返答はない。ニムバスは既にパイロットは意識が飲まれたと判断した。

 

 説得は不可能とし、ニムバスは目の前のモビルスーツを撃墜する選択をとる。

 後方へ飛んだイフリート改にブルーディスティニーは前方に向けて跳び、勢いを乗せた左手のサーベルで突きを放った。

 

『ハァ!』

 

 ニムバスはヒートサーベルの刀身の上を滑るように力を調整すると、ブルーディスティニーのビームサーベルは狙い通りに移動し体勢を崩し、ビームサーベルのビーム発振部分を切り裂く。

 

 咄嗟にそのサーベルを投げ捨てると内部に貯蔵されていたメガ粒子が爆発。それを仕切り直しとばかりに両者は距離をとったと思えば徐にブルーディスティニーの動きが停止した。

 

『なんだ……?』

 

 ニムバスは訝しげにしているが、すぐに切りかえて斬りかかる。

 構えを取ることなく棒立ちとなったブルーディスティニーへその赤い刃が触れ……ようとした瞬間、左腕に装備された小型シールドの打突部位、二又となっているそれの間部分にヒートサーベルの刃が挟まれたとおもえば、捻るように動かす。

 局所にかけられた負荷により半ばから刀身をへし折られ、ブルーディスティニーの右手が閃きイフリート改の右腕が断ち切られる。

 

『なっ…………!?』

 

 EXAMに飲まれると機体は暴走し周囲を破壊する暴虐を撒き散らす。しかし、その動きは機体が自壊することも厭わないデタラメな動きなのだが、ニムバスが今目にした動きは明らかに技術を思わせるものだった。

 再び距離を取り、ニムバスは改めてブルーディスティニーを見やると打突部位に挟まったままのヒートサーベルの刀身を振るうことで引き剥がし、サーベルをまるで機体の調子を確かめるかのごとく数度振るう様子が見える。

 

「…………ふむ、ガンキャノンよりも反応がいいですね。それになんだか機体と神経接続したかのように思い通りに動きます」

 

 そして、そのコクピットでは謎の空間から帰還したアリアが機体のレスポンスに小さく頬を緩めていた。

 

「さて、どこのどなたかは知りませんが……どうやらホワイトベースが危ないようなので手早く処理させていただきますね?」

 

 その瞳には確りとした意識の光が宿っており、EXAM特有の干渉など感じぬほどはっきりとした声色で目の前の見たことの無い機体へ送る。

 

 それをEXAMを介してニムバスは感じ取り、戦慄を隠せずに目を見開いた。

 

『こんな少女が、EXAMを隷属させた……だと……!?』

 

「ん……? なんだか耳鳴りが……はぁ、このポンコツシステム、また殴られたいんですかね」

 

 ニムバスの思念を感じ取るアリアは僅かに眉をひそめながらも操縦桿へと手を伸ばし、ペダルを踏み込む。

 

「ッ!」

 

『クッ!?』

 

 陸戦型ガンダムのボディのスペックはガンキャノンでは出来なかったアリアの望んだ動きを、EXAMを介すことで擬似的な神経接続のようにすることで実現を可能とした。

 ニムバスも似たようなことをしているが、それはあくまでも補助程度のもの。アリアのように完全に上下関係を分からせ、従わせたものとは雲泥の差である。

 

『機体の性能か!? いや、違う! パイロットとしての練度が違うというのか! こんな少女に!?』

 

 片腕を失い、機体バランスが悪化していてもエースと呼ばれるニムバスは懸命に食らいつく。

 

 袈裟斬りは膂力の差で勝つことは不可能。受け流すように手首を回し、ホバー移動で脚部の移動を行い滑らせる。

 アリアは右手のサーベルを離し、左手でキャッチ。すくい上げるように切り上げた。

 

 上体をそらし、胸部を切っ先が掠めるがお返しとばかりにヒートサーベルを切り下ろすが、その刀身の側面を右手の甲にあたる装甲で打ち据えることで軌道がそれる。

 

 地面に切っ先が半ばまで埋まり、丁度いい位置に来たイフリート改の顔面を蹴り上げた。

 

『ガァッ!?』

 

 勢いよく上半身が跳ね上がり、そこへ胸部のミサイルランチャーを放つ。

 

『うぉおおっ!!』

 

 しかし、ニムバスは咄嗟に脚部のブーストを吹かすことで空中で1回転。間一髪ミサイルを避けることに成功した。

 地面へ着地し、脇構えのような体勢でヒートサーベルを振りあげ、ブルーディスティニーへその刃が────

 

『とった……!!!』

 

「有線なんですよね、ソレ」

 

 瞬間、ケーブルに繋がれていたミサイルはアリアの操作により弧を描く軌道で背後からニムバスのイフリート改へ突き刺さる。

 

 背部の推進機関に突き刺さったミサイルは爆発し、内部の動力炉と推進剤に引火。とてつもない爆発はコクピットごと巻き込んで巨大な火球をつくりあげた。

 

「ふー、危ない危ない」

 

 イフリート改の爆発に巻き込まれないようにバックブーストで距離を取り、アリアは敵を処理し終えたことを確認するとすぐにブルーディスティニーを走らせる。

 

 そして、空から辛うじて原型を保つイフリート改の頭が落ちてくると地面を転がり、去っていくブルーディスティニーの背を見送るのだった。

 

 

 

 

『2人がかりだぞ!?』

 

『ぬぅっ、このパイロット中々やる!』

 

 シャアとラルは2人がかりでガンダムを攻めるが、アムロはそれを捌いていた。

 

「やっぱり、アリアを相手にするよりは楽だ!」

 

 その中でアムロは確信を持ったように叫ぶ。確かにこの2人は強い、だがアリアの強さとはベクトルが違うのだ。

 この2人は攻撃する時にアムロは朧気な感じではあるが、どこに来るかという不快感をなんとなく感じておりそれのお陰で少し前まで1体4という戦いもくぐり抜けることが出来た。

 

 しかし、アリアとのシミュレータでも模擬戦ではその不快感というものが全く感じられない。いや、集中すれば本当になんとなくだが分かるのだが、とにかく彼らよりもそれが薄い。

 

 だからアムロはこうして多少の被弾があっても持ちこたえられていた。そうしていると。

 

『兄さん!』

 

「ッ、アリア!?」

 

 近距離通信により、今はベッドに眠っているはずのアリアの声を聞いてアムロは目を見開くが、操縦の手は緩むことなく逆に青いザクのようなモビルスーツの横っ面を蹴り飛ばしていた。

 

 そして、廃ビルの上から飛び降りた蒼いモビルスーツが着地する。

 

 その姿を見てアムロの記憶が正しければ、その機体は補給によって届けられテムが忌々しげな目で軽く整備をした後に格納庫の奥のブロックへ人目が付かないように放置した機体だったはずだ。それが何故? 

 

『ふぅ、ご無事ですか兄さん?』

 

「アリア? お前、起きたのか?」

 

『はい。なんだか眠ってる間に凄いことになってビックリしました。だって目を開けたらモビルスーツのコクピットだったんですもの』

 

 夢遊病ってあるんですね、そう続ける妹の変わらない姿にアムロは呆れとも嬉しさとも感じ取れる曖昧な表情で肩を下げる。

 

「はぁ……とにかく体にはなんともないんだな?」

 

『はい。ついさっきエースっぽい機体を撃墜してきたばかりです。なんか肩の赤いやつでしたね』

 

「なんか急に2人居なくなったとおもったらそっちに居たのか……んんっ、とにかくじゃあアリアはあの青いザクみたいなやつを頼めるかい?」

 

『兄さんはシャアですね? ……この前のリベンジをしたかった所ですが譲ってあげます』

 

「助かるよ」

 

 アムロはそう言い、こちらを警戒して様子を伺っていた赤いザクとグフへ向き直り、ガンダムの隣へブルーディスティニーが立った。

 

『……ガンキャノンでは援護ばかりでしたからこうして並ぶのは初めてですね』

 

「だな。やれるかい?」

 

『問題ありませんね』

 

 サーベルを引き抜き、ガンダムとブルーディスティニーはそれぞれの敵へと突き進む。

 

「ッ!」

 

『えぇい、新型か!』

 

 ブルーディスティニーを前にラルのグフはヒートロッドを振りかぶる。それに対してアリアは小型シールドを掲げて防ぐが、先端部が遠心力に乗ってシールドごと腕部に巻き付いた。

 

『馬鹿め、このまま電流で───』

 

「フッ!」

 

『ぬぉおっ!?』

 

 それを膂力に任せて引き寄せ、アリアは近づいてきたグフの腹部へ膝蹴りを叩き込む。

 跳ね上がったグフの顔面の排気ダクトを掴みんで引きちぎり、ビームサーベルで右腕を切り裂いた。

 

「ここで果てなさい!」

 

『舐めるなぁ!』

 

 残った左手に握られたヒートサーベルでブルーに向けてラルは斬りかかるが、アリアはそれをやけに冴えた勘で察知しており姿勢を低くすることでグフの懐へ飛び込み、サーベルで切り上げることで二の腕から切断してみせる。

 

 あっという間に両腕を失ったグフにラルは目を見開き、モニター一面に映るビームの刃が迫る様を────

 

『やらせない!』

 

「チッ!」

 

 どこからともなく飛来してきたバズーカの弾頭によりトドメを指すのを中断させられ、アリアは舌を打ってその場から飛び跳ねる。

 

 そして、グフを守るようにアルマのザクがブルーディスティニー駆るアリアの前に立ち塞がった。

 

「……いつかのザクですか」

 

 それを見てアリアは僅かに眉をひそめ、声色に棘を滲ませる。

 

「ここで別に落としてもいいですが……」

 

『ぐあっ!?』

 

 片腕を断ち切られ、弾け飛んできた赤いザクと肩部アーマーが僅かに切り裂かれたガンダムの姿と空に上がる撤退信号を示す照明弾を見て戦いの趨勢が決まったことを察する。

 

「貴方程度は大した障害になりませんから、その死に損ないを連れて消えなさい」

 

 アリアはブルーディスティニーの踵を返し、ガンダムと共にホワイトベースの元へ跳んだ。

 

 

 

 

「クッ、これだけの戦力を投入してなお落ちないというのか!?」

 

 気がつけばガルマが率いた軍勢の数は数える程となり、彼の目線の先には損傷が激しいが未だ航行能力を残すホワイトベースとガンキャノン、ガンタンクがいた。

 

 あれだけいた航空部隊も既に瓦解しており、レーダーに残る友軍もほとんど居ない。

 

「…………総員に通達、作戦は失敗した撤退せよ!! 繰り返す、作戦は失敗、撤退せよ!!」

 

 グフの腕を空に向け、撤退信号を放つ。それを見た残存兵力は即座に逃走を始め、それをホワイトベースへは追撃をせず黙って見送る。

 

「クソッ……まさかここまでとはな」

 

 グフと配下のザクたちを全速力で走らせながらガルマは何がダメだったかを考えるが、出来る限りの準備を行い万全の姿勢を持って迎え撃った。だが、それを持ってすらホワイトベースは全てを食い破って見せた。

 

「……仕方ない、失敗は次に活かそう。幸い連中のデータは荒方手に入った。これを本国や重力戦線で奴らが通るであろう地域にいる部隊に送り、代わりにやって貰うしかないか」

 

 悔しいという気持ちはある。だが、それを飲み込んでガルマは指揮官として次へと活かすため前向きに考えていたところで不意にグフを立ち止まらせ、徐にヒートサーベルを構える。

 

 すると、先の暗闇から見たことの無い蒼い機体……アリアのブルーディスティニーが現れた。

 

「……どうやら私は天に見放されたらしいな。ここに来て新型とはな」

 

『おや、まさか撤退中に兵と遭遇するとは。武装を解除しないということは戦うつもりですかね?』

 

『ガルマ様、ここは我々にお任せを!!』

 

 ガルマのグフの前に配下のザクたちが立ち、そういうがガルマは首を横に振り前へ出る。

 

「それはならん。部隊の指揮官が情けなく逃げるなど兵の指揮に関わるからな。それに、ここで逃げれば私はザビ家の男として名が廃る!」

 

『はぁ……この機体もそろそろオーバーヒート寸前なんですがね?』

 

 

 

EXAM SYSTEM STANDBY

 

 

 

『さっさと終わらせてあげます』

 

「ジークジオン!!!」

 

 廃墟都市の一角で僅かに閃光が瞬き、そして静寂が訪れる。何も聞こえることはなく、それっきり何も起こることは無い。

 

 

 

「…………ガルマ?」

 

 撤退中、不意にシャアは何かを感じとり親友の名を呟くがすぐに気のせいだと思い、基地へ向かう速度を早めるのだった。

 

 

 

 

『アリア、どうしたんだ機体の傷?』

 

「いえ、少々手ごわい相手との遭遇しまして……」

 

 ホワイトベースへ向かう途中、合流したアムロはブルーの腕部に一直線に走る傷を見て尋ねるとアリアから歯切れの悪い返答に首を傾げる。

 

『そうか。見たところ大したものじゃないなら軽いメンテで大丈夫だろうから機体から降りたら迷惑をかけたこと父さんに謝っておけよ?』

 

「はい、わかりました」

 

 コクピット中でアリアはシートに背中を預け、徐に呟いた。

 

「…………イセリナって誰ですかね?」

 

 空が白みはじめ、日が顔を覗かる様をみながら漏れ出た声は宙へ溶けて消えていく。




何だかんだで意地は見せていくガルマ(最後は察してくれスタイル)

マリオン?あぁ、彼女はいいやつだったよ。

ララァ「シャオラァ!!!」(山場を越えたことによるガッツポーズ)

後継機

  • 既存機体を魔改造
  • オリジナル機体
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