機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
「うっ……」
アルマは意識を取り戻し、呻きながら目を開けると白い天井が目に映る。
「あら、お目覚め?」
「キリー……さん?」
「ええ、貴方の上官よ。アルマ、これ何本に見える?」
「三本です……」
「ふむ、じゃあこの指を目で追って」
「はぁ……」
アルマは揺れる指を目で追うと、キリーは頷いた。
「うん、問題ないようね。良かったわ、あのガンキャノンに遭遇して大きな怪我もなく帰ってきてくれて」
「ガンキャノン……」
その名をつむぎ、アルマはハッと気がつく。
「そうだ! ヘレナとミア!!」
「呼んだか?」
「呼びました?」
「ぐはぁ!?」
「あら、起きたばかりで元気ね貴方」
ベッドから飛び降りようとして両隣のカーテンを上げて覗き込んできた顔を見て派手にベッドから転げ落ちるアルマを呆れたようにキリーが肩をすくめる。
取り敢えずベッドに戻り、アルマとその周りにはミアとヘレナが椅子に座ってキリーが立っていた。
「一先ず、貴方たちが無事でよかった」
「あはは……こっぴどくやられましたけどね」
「死ぬかと思ったよ。ミアには感謝してもしきれないね」
「い、いえ……私なんて殆ど相手にされませんでしたし。加えて、あのモビルスーツを倒したのだって殆どシャア・アズナブル少佐とランバ・ラル大尉ですから……」
「でも、あのタックルがなかったら私は今ごろミンチより酷かったよ」
「そうそう。かっこよかったよミア!」
「あ、あぅ……」
2人の賞賛にミアは顔を赤く染めて俯かせ、そんな様子をキリーは安心したように微笑みを見せた。
トラウマを負ったかもしれないという心配はこの調子を見れば杞憂だったと。
「さて、お話中悪いけど私からもいいかしら? 真面目な話よ」
「あ、はい。大丈夫ですキリー少佐」
「私も大丈夫です」
「わ、私もです」
三人娘はそう言って背筋を正し、キリーは話を聞く姿勢ができたことを確認すると厳かに3人へ告げる。
「ガルマ大佐から正式に命令が下ったわ。これより3日後に全戦力を用いて木馬攻略作戦を実施するわ」
「ッ、3日後にですか?」
アルマが戸惑ったように言う。ホワイトベース攻略のために自分たちや他の部隊が集められたのは知っているが、流石に急すぎやしないかと。
同じように思ったのか、ヘレナとミアも似たような表情を浮かべていた。
「あ、あの……私たち機体が……」
ミアがおずおずと切り出すが、その内容は予め分かっていたのかキリーは手に持っていた端末を彼女たちへ渡す。
「それについては現在急ピッチで修復、改修しているわ。完成予想図には目を通しておいてね。
こほん、話は戻すけど先の哨戒任務での偶発的な戦闘は覚えているわね?」
「はい。ボッコボコにされました……」
「狙撃機で近接戦なんてもうやりたくないです……」
「殆ど相手にされてませんでした……」
顔をしわくちゃにする三人娘にキリーは苦笑いを浮かべつつ、コホンと咳払いをして話を続けた。
「とにかく、貴方たちの救援のためにシャア少佐とラル大尉たちがガンキャノンを大破させ撃墜するまで追い詰めたはいいけど、ガンダムによって阻止されたわ。
けれど、それによって木馬の最大勢力の片割れを戦闘不能に陥らせたことを大佐は好機と見た。
木馬の現在の進路と航行速度を計算し、最終防衛ラインであるニューヤーク廃墟都市で迎え撃つ。泣いても笑っても今回の作戦はこれが北米で木馬を討てる最後のチャンスよ」
キリーは改めて3人の顔を見つめた後に、声を張り上げる。
「先の失態をこの作戦で活躍することで挽回し、キシリア閣下にノイジー・フェアリー隊を発足したことは間違いではないことを改めて示しなさい!」
「「「はい!!」」」
『あぐっ!? 何、この……音は……!?』
『貴方ですか、この耳鳴りの原因は!』
「やはり、間違いないな。木馬にはEXAMがある」
モニターに表示された戦闘記録を見て、その男は確信を持ったような呟きを零す。
映像はガンキャノンが度々不自然な硬直をしており、加えてこの映像を記録したザクのパイロットの音声記録の声を聞いて、金髪の男『ニムバス・シュターゼン』大尉は不倶戴天の敵を見つけたと言わんばかりに鋭い目付きを更に鋭くさせた。
彼はとある密命を受け、とある人物抹殺の為に地球に降下しておりその人物を追っている最中、キシリアの命でガルマの応援として現状融通の効く兵力として貸し出されここにいた。
彼自身、そんなことをしている暇は無いと内心辟易としていたのだが、彼が密命の中での目的のひとつがまさかの形で遂行できる機会に巡り会えるとは夢にも思わず手のひらを返してキシリアに感謝の念を送る。
「……マリオンを辱めたことの報いをクルストに受けさせる前に全てのEXAMは破壊しなければならない」
ジオンの騎士として、なによりも1人の少女を案じた大人として。ニムバスは最後に自分自身の手で破壊する『
「まさか片腕を取られるとはな」
「ガンダムのパイロットは強かったかいシャア?」
「あぁ。だが、次は勝つさ」
「それは頼もしい。それでこそ赤い彗星だ」
シャアとガルマは格納庫で修復されたばかりのザクの前に立ち、先の戦いについて話していた。
「それにしても偶々とはいえガンキャノンを行動不能にできたのは有難い。木馬も脅威だが所詮は軍艦、ガンダムさえ抑えれば残りは対処可能さ」
「その為にこのザクを無理して改修したのだからな」
「加えてノイジー・フェアリー隊もガンキャノンから鹵獲した武装を装備させたからな。これで勝てなければ私は大目玉だ」
おどけたようにガルマは肩をすくめる、それにシャアは堪らず吹き出す。
「フハハ……しかし、せっかく鹵獲したビームライフルやビームサーベルを勝手に装備させて良かったのかガルマ?」
「一応解析はさせておいたし、そのデータは既にキャルフォルニアベースには送った。
なら現物をどう使おうが私の勝手さ。加えて、現状ジオンの火器ではろくに奴らの装甲を抜けない。なら、せめて有効活用させてもらうさ」
「なるほどな。あの火力は凄まじいのは身をもって知っているよ」
「そういうわけさ。現状あのライフルに残ってるメガ粒子の貯蔵量から見て残りの弾数は9発だ」
「うーむ、微妙な残弾数だな。確かMAXで15発撃てるはずだったな?」
「木馬の使用しているモビルスーツは3機種だけさ。加えて、脅威なのはガンダムのみ……楽観的に見ても9発あれば十分だよ。
打ち切ってもガンダムさえ落とすかその間に他の人員が木馬を落とせばいい。
この作戦は君がどれだけ奴を抑えるかにかかっている。期待しているぞシャア」
「ふっ、責任重大だな。だが、謹んでその使命引き受けよう」
「あぁ、頼む友よ」
シャアとガルマは互いに拳を押し当てる。顔は合わせないが、それだけで十分だと理解しているからだ。
「……そういえば、シャア」
「ん、なんだガルマ?」
「君にはなぜ私が軍人になったかを言ってなかったかを思い出してね。せっかくの機会だからここで教えておこう」
「それはまた随分と急だな……」
「そりゃもしかしたら次の作戦で私か君のどちらかが死ぬかもしれないだろ?」
「縁起でもない……まぁ、親友からのせっかくの言葉だ。聞いておくとしようか」
立ち話もなんだ、と2人は移動しガルマの執務室に場所を移す。そこでガルマは秘蔵の酒を出すとグラスに注ぎ、シャアへ手渡すとそれを受け取ったシャアはゆっくりと嚥下する。
「……美味いな」
「だろう? イセリナからのプレゼントだ。なんでも、彼女の父が隠し持っていたものを彼女がかっぱらってきたものらしい。買おうとしたらこれくらいの金が必要とも言っていたな」
「……それは何とも。味あわないとバチが当たりそうだ」
「どれもういっぱい」
「そうだな」
芳醇な味わいと香りを楽しみつつ、部下に用意させたツマミを食べながら程よく酔いが周り、口が回ってきたところでガルマは切り出した。
「さて、僕が軍人になった理由だったな」
「そうだな。それは私が士官学校で聞いてもはぐらかされてた奴だ」
「シャア、君はキャスバル・レム・ダイクンを知っているかい?」
「……ジオン・ズム・ダイクンの息子だろう?」
「そうだ。ジオン・ズム・ダイクンが急逝した後にラル家に妹御と共に母君が保護した後、行方知れずとなったジオンの忘れ形見の1人だ」
ガルマはグラスの縁を指でなぞり、何処か湿っぽい表情で窓から見える空を見上げる。
「僕はね。小さい頃、父に連れられてジオン・ズム・ダイクンの国葬会場で彼を見た時憧れたんだよ」
「……ふむ」
シャアは感情の見えないマスクの下でその目を瞬かせた。
「実の父を失ったばかりだと言うのに、彼は決して泣かず弱音を吐かず、妹君を抱きしめ守るように立っていた。
その時に僕は思ったんだよ。逆の立場ならどうなのだろうとね……。多分、みっともなく泣きじゃくって兄上や姉上にぐずっただろう」
「……それくらいの歳なら仕方ないのではないかね?」
「それでもさ。僕はその時の彼の強さに憧れをもったんだよ。加えて、彼は姉上……当時のキシリア閣下に啖呵をきったらしい。それを話していた時の姉上の顔は今思い出しても傑作だったよ」
「それは私も見てみたいな」
「ハハハ、この話を出させるとあの人は心底腹立たしい顔をするから気をつけるといい。
こほん、とにかく話はこれからだ。僕は彼のようになるにはどうすればいいのかと考えたよ。考えて、当時の幼稚な脳みそで周りの父や兄と姉の姿を見て思いついた」
ガルマは指を1本立て、劇場の演者のように声をはりあげた。
「そうだ、いちばん偉くなればいい! とね……」
「まぁ、妥当な結論だな」
「今思えば、僕よりも知力も武力も地位も全てが上の人達がいるのに何を言ってるんだっていう話だが」
「子供などそういうものだろう?」
「それもそうだ。無鉄砲なのなは子供特権だからね」
クツクツとガルマは懐かしむように笑い、酒を呷る。
「幸いにも僕はザビ家の末席に連なっている。将来はどの道約束されていたから、それに準じた教育を詰め込まされたよ」
「辛くなかったのかね?」
「……本音を言うなら辛かったよ。同年代の子供たちとはほとんど遊んだこともなく、近くにいる存在は僕を見てるのではなく背後の父たちを見ていた。
まだ父が政治家として間もなかった頃によく行っていたアイス屋の店主が気がついたら送迎の車の運転手になっていたのを見た時は筆舌に尽くし難い思いだったよ」
「気まずいやつだな」
「実際気まずかったよ。まぁ、この話は置いておこう……とにかく辛くはあったが、彼に比べればと思えばどうてこと無かったよ」
「キャスバルかい?」
「あぁ。彼は行方知れずと言ったが実は前ラル家当主と共に地球圏に落ち延びていたんだ。……しかし、亡命するのに彼と妹は実の母……アストライア婦人とは離れ離れになってしまったんだ。
まだ幼かった子供が唯一の母親と離れ離れなる不安など想像にかたくない。加えて……はぁ、ここだけの話だが彼らは暗殺者を送り込まれたらしくてね」
「それはなんとも……」
「君もわかるかい? とにかく、彼の波乱に満ちた暮らしに比べたら僕の辛さなんて比べるまでもない。
だから、その度に歯を食いしばって頑張ったよ。この程度の苦しみ、キャスバル・レム・ダイクンが今味わってる苦しみに比べてら屁でもないって」
「そして、数年の月日が経って僕は士官学校へ入った。そこで出会ったのが」
「私かね?」
「そう。いやー、当時はなんて生意気なやつなんだと思ったよ。なんせ、一般家庭出身の分際で僕を抑えて首席になるなんて……てね」
今思えばいいも思い出だ、ガルマとシャアは互いに思い出して笑う。
互いに士官学校でも思い出を語り、話は少しずつ核心へと迫っていった。
そして、ガルマのその言葉を聞いてシャアは目を見開く。
「それでね……僕は偉くなって、彼らを迎えに行きたいんだ。もう二度と誰かに暗殺される心配も、祭り上げられる必要もない国にね」
「だって、あまりにも彼らが報われないじゃないか。ジオン・ズム・ダイクンの子供だからってだけで暗殺者を送り込まれて、名前を変えなければならず……あんまりだ。
だから、僕は力が欲しいんだ。彼らのような存在を守れる……そんな力が。
そして、彼に手を出して、あと日、あの場所で言えなかったことを言うんだ」
「どうか、僕と友達になってくれませんか? って」
「……まったく、ペースを考えずに飲むからだ」
「うぅ、イセリナァ……」
机に突っ伏し、寝息を立てるガルマに呆れたようにシャアは呟くがその口元は弧を描いていた。
「坊やかと思えば、君は既に立派な男だったみたいだな」
シャア・アズナブルは徐に覆っていたマスクを外し、隠れていたその青い瞳に優しい光を宿してガルマの背へ手を置く。
「既に私は君のことを心からの友と思っているよ」
キャスバルはそれだけを告げ、マスクを再び被ると音を立てないように執務室を後にした。
そして、時が経ち決戦の日が迫る。
各々が内に目的を宿し、互いに銃口を突きつけ、命を掛けて戦の華を咲かすだろう。
戦士たちは己の意地でぶつかり合い、戦場に青き死神が降り立つだろう。次回、北米決戦。
ただ、幼い頃に勇気を出していれば・・・
後継機
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オリジナル機体