機動戦士ガンダムーRavens descend on U.C.ー 作:シャア、あんたちょっとセコイよ!
1.Beginning
赤い、赫い、紅い…………炎のように、鮮血のように、太陽のように鮮烈な輝きが宇宙へ広がる。
識ってるけど、知らない景色。
ここでは無い遠い世界の記憶。
それに手を伸ばそうと────
────電子音が響く。
「んんぅ……」
不躾な異音に顔を顰めながら少女はベッドから手を伸ばし、指先に触れた物体を叩いて黙らせ暫く蠢いた後に這い出るようにベッドからおりる。
色が抜け落ちた生気のない腰ほどまでストレートに伸びた髪、血のように赤い瞳、はだけたシンプルなデザインのパジャマの襟から覗く肩は触れれば折れかねないほど華奢な体躯の少女はノロノロと歩き出した。
パジャマから着替えた少女は慣れた手つきでキッチンの収納スペースから調理器具を取りだし、冷蔵庫から出した食材をキッチンのスペースへ並べ効率よく調理を始める。
冷蔵庫から出した鍋をコンロに置き、スイッチを押した後に食パンを袋から取り出しトースターへ並べダイアルを回した。
卵の殻を手早く幾つも割り、ボウルに入った沢山の卵白と黄身、塩コショウを電動泡立て器で溶き混ぜた液体を油の引いたフライパンへと注ぎあっという間に焼き上げ大きな卵焼きが作られた。
今度はソーセージを投入し、火が通り始めるとぱちぱちと弾ける音を奏でた所で卵の殻をフライパンの縁で小突き、片手で割ると中身を4つ並べ、コップに少量入れた水をフライパンの中へ注ぎ、手早く蓋を下ろす。
炊飯器の蓋を開き、炊かれたばかりの湯気が登る真っ白な白米の入った釜の取っ手部分をタオルでつかみ持ち上げ、テーブルの上へ置けばテーブルの一角を占拠するゴテゴテした物体の球体部分を叩いた。
『オニギリ、オニギリ』
電子音でそんなセリフを言うと、その物体は手抜きのような目を点滅させ耳のようなパーツが開くとそこから2本のアームか伸び、釜の中の米をすくって手早く3角のおにぎりを量産しだす。
そんな光景を慣れたように少女は踵を返し、火の通った目玉焼きとソーセージを皿へと盛り付け付け合せのレタスとミニトマトを並べ、別の皿にコンガリと焼けたトーストを置いた。
小さく頷き、少女は踵を返すと自分が寝ていた部屋のすぐ隣の部屋の扉を勝手知ったる様子で開け、中へ入る。
カーテンが閉められ、薄暗い室内は様々な機械や何かのガラクタが転がり、気をつけなければ足の踏み場がない散らかりようだ。
そんな部屋の一角に置いてあるベッドの近くに少女が立つと、布団を被っている人物を軽く揺すり声をかける。
「兄さん、朝です。兄さん」
「うぅ、もう少し寝かせて……」
年若い少年のくぐもった返答に少女は微かに眉根を寄せ、ため息をこぼした。
「また夜更かしですか? 学校には遅刻する前にフラウさんが来ると思いますけど、寝すぎてはダメですよ?」
「うーん……」
「じゃあ私は父さんにご飯を届けてくるので、兄さんは朝ごはんを食べたらお皿はお水につけておいてくださいね」
「わかった……いってらっしゃい……」
少女にとって慣れた朝のやり取りを済ませ、ダイニングのテーブルに自分の分の食事を運んでテレビをつけ、食べ始める。
トーストの上に目玉焼きを乗せ、小さな口で噛んで咀嚼をしながらテレビのニュースを見るがどのチャンネルも似たような話題ばかり。
「……戦争、早く終わるといいのですが」
スープを飲み終え、一息ついた後の呟きは宙へ溶けて消えていく。
手早く洗い物を済ませていい具合に熱の冷め、切り分けたものをタッパーに詰めバッグに仕舞えばジッパーを閉じ、持ち上げ外へ向かうと家のすぐ前に止めてあるエレカの助手席に乗せ、己は運転席に座るとモニターを操作し目的地を選択。自動運転が起動し、緩やかにタイヤが回り走り出す。
「すみません、テム・レイはいますか?」
本来なら民間人は入ることが出来ない軍事施設、その入口付近の守衛室のインターホンを鳴らす。
『はいはい、おおテムさんとこのお嬢さんか。すぐに開けるから待っててくれるかい?』
「はい、いつもありがとうございます」
程なくして目の前の扉が開き、中へとはいると警備員のおじさんからゲストのカードを渡される。
「テム大尉はいつものとこだよ。それと、台車を使うかい?」
「わかりました、お願いできますか?」
「はいよ」
軽く会釈を行い、少女は両手で持った荷物をおじさんが用意してくれた代車へ乗せて目的地へと押し始めた。
「父さん、いますか?」
勝手知ったる様子で施設内を進み、とある部屋の扉を開けると少女は声を上げる。
その声に反応するのは部屋の奥でパソコンと向き合っていた眼鏡をかけた少々老け顔の男だ。
「うん? おぉ、アリアか。済まないな今日も帰れそうにない」
顔を上げ、振り返ると疲れた様子の顔にほほ笑みを浮かべて少女ことアリアを迎え入れる。
アリアは父のもとへと近寄り、台車の上のバッグを見せた。
「いいえ、お仕事ですから。これ朝ごはんとお昼ご飯ですよ。皆さんと食べてくださいね」
「ああ、いつもありがとう。お前たちには迷惑をかけるな」
「これくらいどうってことないですよ。父さんのお仕事はどうなんですか?」
「機密だから詳しいことは言えないが、大詰めだな。ガンダムとホワイトベースさえ完成すればこの戦争は終わるだろう」
テムはそう言い、パソコンのモニターを見つめて感慨深く呟く。
「私には詳しいことはわかりませんが、父さんがいつも夜遅くまで頑張る必要が無くなるなら嬉しいです」
「ハハハ、私もアリアの出来たてのご飯が食べられるのを楽しみにしているよ。そら、そろそろ学校だろう。職員に送って貰うよう頼んでおこう」
「ありがとうございます父さん」
「可能なら私が送ってやりたいんだがな……」
「そう思ってくれるだけで私は嬉しいですよ。では、行きますね」
「ああ、行ってらっしゃいアリア」
「今日もありがとうございます」
「いいってとこさ。むさっ苦しい現場にはアリアちゃんみたいな可愛い子が来てくれるだけで空気が浄化されるからね」
「そうなのでしょうか?」
「そうだとも! おじさんも娘がいるんだが、最近は素っ気なくてねぇ……」
軍の車の後部座席に座り、運転席で寂しい背中を見せる軍人の男の話に相槌を打ちながらアリアは街並みを見つめながら学校へと向かう。
「ありがとうございました」
「あぁ、今日も学校頑張りなアリアちゃん」
送ってくれた軍人を見送り、アリアは校門をくぐり校舎へと向かう。
アメリカ式のジュニアスクールの為、靴は履き替えずアリアは自分のクラスの教室へ歩く。廊下には同じくらいの年頃の子供たちが友人と会話をしてり駆けたりし、それを教師が叱るのを見ながらアリアは教室へ辿り着くと扉を開け、中へと入ると。
「おはようアリアちゃん!」
天真爛漫といった様子の少女がアリアへと声を投げかけ、アリアもそれに返す。
「おはようございます、ミアさん」
「今日もお父さんのところにご飯を渡しに行ったの?」
「はい、よく分かりましたね」
「そりゃ、いつも校門に軍の車が止まるの見てるからね。同じくらいなのにアリアちゃんは凄いね〜」
クラスメイトの少女、ミアとアリアは朝のホームルームが始まり前の時間に他愛のない会話を咲かせる。
「父さんはいつも夜遅くまでお仕事を頑張ってますし、兄さんは趣味に集中しすぎて食事を忘れてしまうので。
それに、私にはこれくらいしか出来ないですから」
「そうかなー? アリアちゃんクラスで1番かけっこ早いし勉強できるよ?」
「そう、でしょうか?」
「そーそー」
首を傾げるアリアにミアがくすくすと笑っていると、不意に微かな振動を感じ取る。
「なにが……」
そう呟いた瞬間、とてつもない爆音が響いた。
「キャッ!? な、なに!?」
「ッ、ミアさん一応机の下に移動を」
「う、うん」
振動と空気を震わせる爆発音に声を上げ、教室の中にいた子供たちは悲鳴をあげる横でアリアはミアに促した所でアナウンスが響き渡る。
『緊急事態が発生しました! 皆さん、急いでシェルターに避難をしてください! 繰り返します。緊急事態が発生しました! 皆さん、急いでシェルターに避難をしてください!』
そのような内容が響いた瞬間、学校の至る所で悲鳴や怒声があがる。
アリアのいる教室でも似たような狂騒が発生しそうになったが、既のところでアリアは声をはりあげた。
「皆さん、先生の指示に従って静かに、けれど急いでシェルターに!」
自慢では無いが、アリアはこのクラスで学級委員長のような事をしており教師からの信頼も厚い。
緊急事態だとしても殆ど動揺した様子の見えない彼女を見て、クラスメイトたちはある程度は落ち着きを取り戻し、泡を食ったように教室に駆け込んできた教師の誘導に従って歩き出す。
「な、何が起きたのかな……」
「……ジオンが攻めてきたんだと思います」
「な、なんでそんなことがわかるのアリアちゃん」
「……あまり詳しくは話せませんが、このコロニーでは連邦の起死回生の1歩となる兵器の開発をしています。恐らくですが、ジオンがそれを察知しその発明の奪取または破壊を目的としているのでしょう」
肉親がそれに携わっていることを知っているのに加え、現在の世界情勢や今朝のニュースの情報を組み立て推測した内容をミアへと話すが、まだ幼い彼女にとってアリアの内容は上手く呑み込めてない様子だ。
そんな様子に暫し思案した後、アリアは簡潔に伝える。
「取り敢えずは『ジオンはクソ』ということです」
「なるほど……アリアちゃんってば賢いね」
「ありがとうございます……伏せて!!」
「キャッ!?」
咄嗟にミアに被せるように伏せれば、次の瞬間にすぐ近くで何かが落下し突風が吹き荒れ土煙が辺りを覆い隠した。
「げほっ、ごほっ……ミアさん、無事ですか?」
咳き込み、体を起こして呼びかけると伏せる時に頭を打ったのか少しだけ痛みに悶えた様子のミアが答える。
「けほっ、う、うん……アリアちゃんは……頭から血が出てるよ!?」
目を見開き、アリアに詰め寄るがそれを手で制して額から零れる血液を服の袖で拭う。
「どうやら石かなにかの破片で額を切ったようですね……。見た目は派手ですがなんともありませんよ」
「なんでそんなに普通にしてるの!? 絆創膏、絆創膏どこ!?」
「ミアさん落ち着いてください。今はとにかくシェルターへ」
傷ができたばかりで血が止まらず、仕方なしにワンピースのスカート部の端を引き裂いて即席の包帯として手早くまきつけて手当を済ませるとミアの手を引いて走り出した。
今は一分一秒が惜しい。くだらない話をしてる暇は無く、逃げ惑う人々を掻き分けてシェルターへ向かう。
「ひぐっ……うぅ……パパァ、ママァ……」
「……」
周りとは違うアリアとは別にミアは普通の少女だ。既に受け入れられるキャパはオーバーしており、感情を抑えきれずに嗚咽を零し目尻に浮かぶ雫を空いている手で拭った。
そんな友人にアリアは言葉をかけようとするが、今は何を言っても状況が好転する訳では無いと他人事のように考え、無心で手を引いて走る。
そんな時に、離れた場所にあるビルの間から深緑の巨人……ジオンの大型機動兵器ザクが姿を表す。
それが2機、うち片方が徐に手に持った銃を構えたかと思えば背筋が寒くなるほどの轟音を響かせ、弾丸を放ったでは無いか。
「ひゃぁ!?」
「コロニーの中で銃を撃つなんて……! しかも、これだけ近いとシェルターにいても……」
悲鳴をあげるミアを落ち着かせつつ、アリアは冷静に現状の最善手を考えた。
「……軍の港なら安全かもしれませんね。ミアさん、いいですか?」
「な、なにアリアちゃん……?」
しゃがみこんでしまったミアと目線を合わせ、アリアは有無を言わせずな彼女へ告げる。
「シェルターへ向かうのは危険と判断しました。なので、軍港へ向かってください。
恐らくホワイトベースという軍艦があるはずですから、そこでテム・レイの関係者といえば乗せてくれるでしょう」
「アリアちゃんはど、どうするの!?」
「私は……」
ミアに聞かれ、アリアは徐に立ち上がるとある方向へ視線を向けた。
「成すべきことを成します」
「はぁ、はぁ……」
街中を1人、アリアは駆ける。目的地はテムのいた軍の施設だ。
瓦礫を飛び越え、倒れたフェンスを跨いでアリアは目的の存在をみつけ、足を止める。
「えっと、これは確か父さんの言っていた……ガンダム……でしたっけ?」
赤く重厚な装甲と何処か愛嬌を感じられる頭部、肩から生えた2つの砲門のあるロボット……モビルスーツを見つけアリアは周囲を見渡し危険がないことを確認すればモビルスーツへ駆け寄る。
ザクの攻撃によってかモビルスーツは寝かされていたトレーラーから落下し、その上には瓦礫が被さっていたが幸いにもコクピットであろう胸部は無事らしい。
「操作盤は……」
小さな手のひらで赤い装甲表面を叩き、感触を確かめていると他とは違う音を放つ部分があり、そこを強く叩いた。
装甲の一部が開くとそこには幾つかのボタンがあり、ハッチ開閉を行うボタンを押す。
アリアはコクピットが開放されたのを確認し、その中を窺うように入り込んだ。
「やっぱり、ACとは違うか」
自分が知っているレイアウトとはかけ離れた内装を見ながらシートへ座り、体を固定するためのベルトを閉めハッチ開閉ボタンを押す。
ハッチが閉じたために外からの光が途絶え、暗くなった空間でアリアは計器類をざっと見つめて呟きをこぼした。
「……久しぶりだし、強化人間じゃないけど、やれるはずだ」
幸いなことにこの機体はアイドリング状態で待機していたためにアリアが操縦桿を握ると起動状態へ移行し、モニターに光が灯り、周囲の風景を映し出した。
「……行こう」
アリア・レイは異なる人生を送った記憶がある。宇宙世紀とは異なる歴史を辿り、遙か外の宇宙へと踏み出した人類史の記憶が。
辺境の惑星で身体機能の大半を喪失し、とある機械を動かすだけの生体パーツとして生きた記憶がアリアの中にはある。
この記憶を思い出したのは、まだアリアがキンダーガーテンに通っていた年頃にまで遡る。その日は工業コロニーへ行事の遠足へ向かうシャトルへ乗っていたアリアは運悪くシャトルの事故に合う。
生死の境を彷徨うほどの大怪我を負うことになったが、医師の懸命な治療や父と兄の呼びかけで無事に意識を繋ぐことになった。
そして、その時の臨死体験で過去の記憶を追体験をしアリア・レイと強化人間C4-621は混ざり合い、今の
ふたつの記憶が混ざったせいか、それとも後遺症かは定かではないが、アリアは感情の起伏が乏しい少女になってしまった。
全く笑わず、泣かず、年相応に過ごさないアリアは酷く不気味に映ったはずなのに、それでも父と兄のふたりは幼いアリアを不器用ながらも愛する。
忙しい間を縫って父は学校の行事に参加し、兄は誕生日には手製のマスコットロボットを贈ってくれた。
そんな2人のためにアリアは軍の仕事であまり家にいない父と私生活のだらしない兄に変わって家の家事を率先して行うことで2人の愛に応えるようにした。
そんな日常を壊したジオンに対して珍しくアリアは感情を顕にし、強くペダルを踏み込む。
モビルスーツ、ガンキャノンはアリアの指示に素直に従い各部のスラスターを噴射させ伏せていた状態から立ち上がり、勢いよく地面へとその2本の足で立つ。
「バランサーは問題なし、火器管制システムもOK、武器は……内蔵火器がバルカンと肩のキャノンか。機体名はガンキャノン? ガンダムとは別の機体だったのか。
ライフルとブレードはどこに────チッ!」
咄嗟に感じた悪寒に脚部のブースターを吹かすことで跳躍させ、つい先程までいた場所に幾つもの弾痕が作り出される。
素早く着地させ、ガンキャノンの頭部を向けたそこには硝煙登るマシンガンを構え、こちらを睨みつける深緑の単眼巨人、ザクが見えた。
「ふぅ……」
操縦桿の感触を確かめた後に小さく息を吐き出し、アリアは意識を切替える。ただの少女から戦う戦士へと。
「ッ!!!」
ペダルを踏み込み、操縦桿を勢いよく押し倒す。ガンキャノンは膝を曲げ、姿勢を低くし背部と脚部のブースターから推進剤を放出させると同時に仮初の大地を踏み砕く。
全身のモーターを駆動させることによる生じた運動エネルギーは無駄なく伝達し、ガンキャノンの巨体をひとつの砲弾のように打ち出しザクへと突き進む。
『ッ!!』
ザクはマシンガンの引き金を引き絞り、重々しい音を立てて巨大な弾丸を吐き出しガンキャノンへと放たれた。
空気を引き裂き、これまで全ての物を貫いてきた弾丸をザクのパイロットは今回も難なく目の前の存在を貫くと思っていた。だが、その予想は容易く裏切られることとなる。
「その程度で!」
両の手を交差させ、脆弱なセンサーを守る即席の盾とすると同時にザクマシンガンの弾丸はガンキャノンの装甲を叩いた。
凄まじい音と衝撃が響くが、弾丸はガンキャノンの装甲を僅かに凹ませる火花を散らすだけに留まり疾走を止めるに至らない。
初めての経験による動揺がザクがその身をすくませながらも滅多矢鱈にザクマシンガンを打ち続ける。
「ハァァッ!!」
ひときわ強く地面を踏み締め、腰をひねり、ガンキャノンは腕を振りかぶり勢いを乗せた拳が突き刺さった。
『うぉおおおおぉっ!!?』
接触回線による叫びがスピーカーから聞こえ、ザクの巨体と何かの破片とパーツがコロニーの空を舞い、立て続けに局所的な地震が発生する。
地面を何度もバウンドし、ボールのように転がるザクは山の斜面にぶつかるとようやく止まり、それっきり動かない。
「ふぅ、久しぶりにしては上出来かな?」
一応トドメを刺すか考えたが、万が一動力炉が爆発した場合のコロニーへのダメージを考えたアリアは動かないことを確かめた後に関節を踏み砕き、コクピットハッチを潰すことで完全に無力化。一応近くに転がっていたザクの近接兵装の斧を回収し、残りは捨ておくことにした。
「えっと、ほかのザクは……」
そう呟いたところで、凄まじい爆発の音が聞こえたかと思えば途轍もない力でガンキャノンが引っ張られたでは無いか。
「何が!?」
モニターへ目を走らせればそこまで距離が離れていない場所にかなりの大きさの穴が見えた。どうやらコロニーに穴が空いたらしいことがわかり、アリアの顔が青く染まる。
「くっ……吸い、こまれるっ!!」
なんとかガンキャノンを吸い込まれないよう姿勢を低くさせるが、ジリジリと穴へと引っ張られていく。
「シャフトはまだ!?」
コロニーには外壁に損傷が生じた場合、安全装置として隔壁が降りるようになっている。アリアはそれが作動するのを待っているが、何か不具合が発生しているのか待てども隔壁が降りてくることは無い。
爪先を食い込ませ、指先を引っ掛けもう片方の手の斧を地面へ突き刺してどうにかしていると不意に機体全体に衝撃が走ったかと思えば、機体が宙へと浮かぶ。
「何がっ……!?」
どうやら飛んできた大きな瓦礫がガンキャノンにぶつかり、それによって体勢が崩れたらしい。
ガタガタと酷い揺れに顔を顰めながらも宇宙へ投げ出されるのを察したアリアは機体を丸める体勢を取らせ、ぶつかった場合に生じるであろう被害を最小限にさせた。
そして、アリアの駆るガンキャノンは広大な宇宙へと投げ出される。
うるさいくらいに警告音が響く中でグルグルと回転する機体の四肢を開き、各部位のブースターを吹かし反動を制御することでガンキャノンの体勢を調えアリアはモニターを見た。
「チッ、離されたか……」
モニターに映るコロニーの大きさからそれなりの距離を投げ出されたことを察し、アリアはようやく安全装置が作動し閉じ始めた隔壁が完全に閉まる前に前にガンキャノンを進ませる。
ブースターがガンキャノンを加速させ、コロニーへ真っ直ぐに飛んでる中で不意にセンサーが反応を示した。
「……救難信号?」
進路上からそれた位置に救難信号があることをセンサーが拾い、アリアは先の大穴で宇宙へ投げ飛ばされた遭難者がいることを察する。
「助けないと!」
幸いにも隔壁が閉じ切るまでほんの少しだけ余裕がある。アリアは即断し、ガンキャノンを救難信号を飛ばす地点へ進ませた。
各種センサーの感度を最大にし、アリアは素早くモニターに目を走らせ数秒、目的の存在を見つける。
宇宙服を着た人型がふたつあり、片方は動かずもう片方は微かにもがいてるのが見えた。
ガンキャノンを近づけさせ、アリアは遭難者2人を優しく手のひらで受け止めると、そのままコクピットへと運ぶ。
手のひらでハッチを塞ぐ形にするとアリアは息を留め、ハッチ解放ボタンを押した。コクピット内の空気が外へと流れ凄まじい風がアリアを外へ投げ出そうとするが必死に堪え、遭難者の1人は慌てたようにコクピット中へもう1人を掴みながら入ってきた。
アリアは素早く開閉ボタンをもう一度押すとハッチが閉じられ、コクピット内に空気が循環するのを感じると止めていた息を吐き出す。
「プハッ……はぁ、はぁ……無事ですか?」
「ッ、アリア!? なんでお前がこの機体を!!? それより、お前怪我を……!」
「……父さん?」
アリアが遭難者に安否を尋ねれば、その遭難者の驚愕を叫びを聞いて正体を看破したアリアは目を見開く。
宇宙服のヘルメットのガラスの奥には己の父、テム・レイの顔が見え遭難者が己の父と知り、危うく肉親が宇宙の藻屑になった事実に顔を青くするが、今はそんなことをしてる場合では無いことに気が付いた。
「ッ! 話はあとでお願いします! コロニーに戻らないと!」
「っ、あぁ、そうだな……!」
テムも今の状況に気がついたらしく、口を閉じてコクピットのシートを掴む。
アリアは直ぐにペダルを踏み込み、ガンキャノンを加速させてコロニーの大穴へと飛び込んだ。
それと同時に背後で隔壁が完全に閉じられ、間一髪コロニーに戻れたことに安堵の息をこぼす。
「ッ、ガンダムが!!」
「!」
宇宙から戻ったことにより、勢いそのまま宙を舞う中でテムがモニターに映る青と白の機体の背後にザクがいることに気がつき叫ぶ。
アリアはその声を聞いて素早く操縦桿を動かし、細かくペダルを何度も踏むことで各部のブースターを吹かし、重力の薄いコロニーの空中で体勢を整えさせた。
「アリア、何を!?」
「舌をかみます! 静かに!!」
ガンキャノンの手に握られた斧を握り直し、空高く掲げ落下とブースターの加速による落下の勢いを乗せてアリアはガンキャノンを断頭台へと変化させる!
「ハァァァッ!!」
「ぬぉぉぉおっ!!?」
内臓がひっくり返るようなGにコクピット内にふたつの叫びと悲鳴が木霊し、鈍色の刃がザクの頭部へと振り下ろされた!
凄まじい勢いで叩きつけられたヒートホークはザクの頭を砕き、そのまま基部を破損させながら胴体深くめり込み小さな爆発を引き起こす。
一際強い爆発を起こすとザクは膝が折れ、そのまま倒れると動くことはなく確実に始末出来たことをアリアは理解し、小さく息を吐き出し操縦桿から手を離した。
「はぁ……疲れた……」
「無茶をする……アリア、無事か?」
「はい、多少の疲労はありますが問題ありません。父さんこそ、宇宙に投げ出されたのですからお怪我はありませんか?」
「あぁ、幸いにも……な」
額に滲む血液の混じった汗を拭い、顔を上げると心配そうにこちらの顔を除く父の顔が見えたために安心させるように薄く微笑む。
アリアから聞かれたテムはついさっきまで自分が命の危機にあったことを思い出したのか、僅かに顔を青く染めた。
そうしてると、目の前の白い機体から通信が飛んでることに気がつく。
「父さん、あの白い機体から通信が……」
「ガンダムからか? あれは友軍機だから回線を開いて問題は無いぞ」
「ガンダム……父さんの作っていたモビルスーツの名前でしたね」
今朝、テムが言っていた名前を思い出しながらアリアはボタンを押すとサブモニターに映し出された映像を見て2人して叫ぶ。
「「
『アリア!? それに、父さんも!? なんでそんなのに乗っているんだ!?』
「それはこちらのセリフです兄さんッ」
「そうだぞアムロ! いや、アリアにも言いたいが!!」
まさかの家族全員の集合に思わず叫ぶ親子であった。
後継機
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既存機体を魔改造
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オリジナル機体