goo blog サービス終了のお知らせ 

コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

是々非々の姿勢

2010-02-10 | Weblog
ニジェールに出張して来た。日本は、毎年ニジェールに対して、食糧支援を行ってきている。今年(2009年度)も既に、総額5億7千万円の支援を決定している。それで、私は首都ニアメに出かけ、ミンダウドゥ外相との間で、2009年度食糧援助計画の交換公文を締結してきた(2月4日)。大使として、年度末までに片付けておかなければならない、宿題の一つをこなしてきた、ということなのであるが、ことニジェールに限って、かなり神経を使った。つまり、間違ったメッセージを出さないように、是々非々の姿勢で対応するということである。

ニジェールのタンジャ大統領は、昨年の年末には、大統領の任期を終えているはずであった。憲法は、タンジャ大統領が大統領を務められるのは、2期までだと規定していた。そして、昨年年末で、その2期目が満了してしまうのであった。ところが、タンジャ大統領は、その憲法がいけない、という主張をした。それで昨年8月に、強引なやり方で憲法を改定し、あと3年は無条件で大統領を続けられるようにした。

そんな疑義のあるやり方で採択された新憲法も、タンジャ大統領が大統領として留まっていることも、野党はじめ反対勢力は認めていない。年が明けて、本来任期が切れていたはずなのに、タンジャ大統領は自分の作った憲法に従って、大統領を続けている。独立後6つめの憲法になるので、「第6共和制」と称している。反対勢力は、いや憲法改正は認められないので、まだ「第5共和制」だと主張している。両方の勢力の間で、折り合いがつかない、緊張した関係が続いている。

国内でぎくしゃくしているのみならず、国際社会からの批判が出ている。タンジャ大統領のやり方は、憲法政治に反している、民主主義のルールにも反していると、「西アフリカ経済共同体(ECOWAS)」が批判し、ニジェールの加盟資格を一旦停止にしてしまった。欧州諸国や米国、カナダなどは、タンジャ大統領を強く非難して、人道分野を除く経済協力を止めた。日本も、外務報道官談話を出して、対話による解決と、民主主義の強化への努力を求める立場を表明していた。

そういうなかで、日本が新規の食糧支援を大々的に打ち出すと、どういうふうに映るだろうか。国内で民主化を訴えている人々や、国際社会から、日本はタンジャ大統領のやり方を大目に見ているな、と受け取られかねない。日本は、立憲政治や民主主義が危機に曝されているということに、無神経である国ではないか、と言われてはいけない。

日本の考え方は、ちゃんと筋が通っているのである。日本がこれまで行ってきて、またこれから行っていくのは、ニジェールの人々に届けられる、直接の協力である。貧しいニジェールの人々にとって、日々の生活を左右する、ほんとうに必要な支援なのだ。人々が人間として尊厳ある生活をするため、手助けをする協力なのだ。こうした支援は、政治の動向に、影響を受けてはいけない。

もし、タンジャ大統領のやり方への批判や不服を表すために、食糧、医療、給水、基礎教育といった分野の経済協力を止めたら、どうなるだろう。困るのは、ニジェールの一般市民たち、貧しい地域でぎりぎりの生活をしている村人たちである。そういう人々を苦しめても、タンジャ大統領の政治への圧力にはならず、タンジャ大統領が方針を変えるとは思えない。いわば、兄のお行儀が悪いからといって、妹の頬をはたくようなものである。それはむしろ、不正義だ。

米国やカナダは、経済協力を止めたといっても、人道分野での協力は続けるとしている。欧州連合は、これまでニジェール政府機関への直接の財政支援や、道路などのインフラ整備の経済協力を行ってきたのを止めたけれども、やはり人道分野での支援は継続する。だから、日本がさらに食糧援助を行うことは、欧米の基準からみても、決しておかしなことではない。

とはいっても、私が大使としてニアメに現れ、食糧支援の交換公文に署名するということは、テレビなどを通じて報じられるはずだ。そうすると、日本の協力の位置づけが如何にちゃんと説明できようとも、日本がタンジャ政権には何らの問題を感じることなく付き合っているのだ、という宣伝に、利用されてしまうかもしれない。だから私は、そうした誤解を与えないように、是々非々をはっきりさせて振舞うことにした。

まず、日本が経済協力を継続するのは、ニジェールの人々に対する直接の協力だからであることを、しっかり強調するということである。そして、もう一つ。日本は、ニジェール政府の人々や政治指導者たちに対して、民主主義の立場から言うべきことは言う。反発を援助の停止などの制裁などで表すより、懸念を直接伝え、適切な助言をすることのほうが、大事ではないか。

だから、食糧援助の交換公文を締結するにあたって、私は次のように演説した。
「ニジェールは、真に開発を必要としています。そして経済発展は、民主主義と政治的安定なくしては、達成できないのです。友人として、率直に申し上げましょう。ニジェールでの最近の政治動向を、日本はたいへん心配しております。現在の政治的危機に出口を見出すために、関係当事者たちの間で、対話を通じた解決を図っていくべきことを、申し述べておきます。」

そして、現在行われている「ECOWAS」による調停努力について触れ、この調停がニジェール国民の幸福につながるような解決をもたらすことを期待すると述べた後、次のように締めくくった。
「ニジェールのすべての政治指導者たちが、国民の平和を守るために、国民和解を果たすことを強く期待します。」
かなりはっきりと、日本は今の状態は問題であって、政治解決が必要と考えている、と述べたのである。

さて、署名式典のあと、いつもだったら私は報道関係者に取り囲まれて、いろいろな質問に答える。それは、テレビでも流れるし、新聞記事にもなる。ところが、この日は、交換公文署名がすんだら、ミンダウドゥ外相は私と別れの握手だけして、会談もしないで執務室に消えた。一同はそのまま流れ解散になった。報道関係者は、私への取材もしなければ、名刺さえ取りに来ない。どうも、この日本大使に下手に取材をすると、聞きたくない科白が出て来ると思われたのかもしれない。

翌日の新聞には、日本が食糧支援の新たな交換公文を結んだという記事が大きく出た。しかし、私が今のニジェールの政治を心配し、民主主義と政治安定の観点から、対話による解決を期待すると述べたところは、一言も載っていなかった。今のニジェールでは、報道も自由ではない。日本大使がそういう内容を話したということは、タンジャ大統領をはじめ政府の人間を困惑させる。だから、報道の自主規制で、載せなかったのだろう。このような事情を抱えた国において、是々非々の姿勢で適切に振舞うというのも、実際にはなかなか簡単ではないところがある。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。