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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

魚が味にうるさい話

2010-02-09 | Weblog

魚の味にうるさい、というのではなく、魚が味にうるさい、という話である。光田資(みつだたすく)さんは、大学で水産関係の勉強を終えたあと、青年海外協力隊員に応募した。水産の専門家として採用されたけれど、配属になったベナンで、行き先は海辺ではなかった。ダンボ村(Dangbo)という、ベナンの首都ポルト・ノボからさらに10キロ内陸に入った農村であった。任務は、農村部における魚の養殖の指導である。

ベナンは海に面した国であるとはいえ、沿海漁業は零細であり、とても国民全体の需要を満たすほどではない。魚の消費は、かなりの部分が輸入、つまり冷凍魚により補われている。漁業も監督しているベナンの農業省では、農村部における魚の需要にこたえるため、魚の養殖を奨励することにした。うまくすれば農家の副収入源になり、また貴重な外貨を節約できる。農業省は、木製の水槽にビニールを張って貯水し、そこで魚を飼うという方式を採用し、この方式に養魚業を農家に広める計画を始めた。

ダンボ村に赴任してきた光田さんは、農家を訪ねてまわり、養魚経営の実情を調べた。農家はそれぞれ自分の庭の水槽で、ナマズ(正確にはアフリカナマズ)を飼い始めていた。光田さんは、ナマズを飼うことそのものは、悪くない選択である、という。
「このナマズは、相当濁った水でも生活できます。口で空気を吸って呼吸するので、水中に酸素がほとんど無い澱んだ水の中でも、平気で生きていけるのです。それに、ナイジェリア(ベナンの東隣)では、人々がナマズを好んで食べるので、うまく養殖すればどんどん売れ、確実な収入をもたらします。」

さて、専門業者から稚魚を買い、水槽で飼育する。半年とか一年とかすれば、成長したナマズを別の業者に売る。事業は順調にまわっていくように見える。ところが、餌の問題があった。ため池で飼育する場合であれば、魚粉や米ぬか、トウモロコシの粕などを配合して作った粉末飼料でも、問題なく育てることができた。ところが水槽で飼うと、ナマズたちはそうした粉末飼料を食べないのである。不思議なことに、業者が販売する餌だけを受け付けた。業者の餌だと、先を争って食べる。

光田さんは言う。業者の売る餌を与えるのであれば、ナマズの飼育に意味がなくなる。
「ナマズは飼料効率が良い魚で、与えた餌とほぼ同じだけ成長します。つまり1キロの重さのナマズを育てるのに、餌は1キロほど必要です。成長したナマズは、1匹1キロのものが、約1000フラン(200円)で売れます。一方、業者が売る飼料は、1キロ1200フランなのです。もともと、稚魚が一匹100フランで、その稚魚に1200フランの餌を与える。それで1000フランでしか売れないのですから、これでは赤字なのです。」

ここに改善の余地があるし、自分の役割があると思った。つまり、業者が売る飼料でなく、自分たちで作った粉末飼料を、水槽のナマズたちが食べてくれるようになればいいのだ。飼料を安く作って自給すれば、収支が黒字になるだろう。そして光田さんはかつて、大学で魚の餌の研究をしていたのである。そのときはブリの養殖であった。今度はナマズである。魚の種類が違うだけで、魚の餌には自信と経験があった。

光田さんはさっそく、餌作りを始めた。ナマズたちはなかなか手ごわかった。研究用に準備された木製水槽に、業者から仕入れた稚魚を入れた。光田さんは、穀物や魚粉などを原料に、腕によりをかけて餌を作った。ところが、光田さんの餌には、ナマズたちは全く見向きもしない。そのうちに、飼い始めた稚魚たちのなかには、弱っていったり、共食いを始めるものさえ出てきた。

天を仰ぎながらも、光田さんは挫けない。様々な工夫を加えて、餌の開発に挑んだ。最初の業者からの稚魚は、特別な餌しか食べないように育てられているのかもしれない。そこで、別の業者からも稚魚を仕入れた。半年経って、ようやく稚魚たちは、光田さんの作った餌を食べてくれるようになった。水槽で餌を撒くと、ひげの生えた楕円形の口をぱくぱくさせて、食べに来る。しぶきを上げて食べにくる業者の餌に比べると、まだまだ食いつきが良くないが、とにかく食べてくれるようになったことは一歩前進だ。光田さんの調合した餌だと、原価が1キロ250~300フラン程度である。これであると、ナマズ養殖の採算が取れる。

「ナマズというのは雑食性で、何でも食べる、と専門書にも書いてありますからね。餌でこれだけ苦労するとは思いませんでした。ブリでもそうでしたが、魚にも味覚があり、好き嫌いがあるのは確かです。味を良くしようと、ほんとうに「味の素」まで入れたりしています。」
ナマズは意外にもグルメなのである。

光田さんは、自作の餌を農家に配って、使ってみてもらっている。そうした農家での成果を見て、さらに改良を図っている。また、光田さんが調べ上げた、地元の養魚業の実情についての調査は、水産省にとっても貴重なデータとなっている。こうして光田さんは、地元の農家の人々と、ナマズやティラピアの養殖について、日々緊密な連絡を取っている。

やはり、ナマズたちにだって、混合飼料よりも、活きのいい生餌が何より一番だ、という。
「今考えているのは、水槽に太陽光パネルを付けて、昼間に発電し、夜中に電球を点けて虫をおびき寄せ、水槽に落ちた虫を食べさせるという仕組みです。これだと、良い餌がただで供給される。」
この味にうるさいベナンのナマズたちを相手に、光田さんの挑戦はまだまだ続くようである。

 光田さんと水槽

 ナマズを入れた木製の水槽

 左が光田さんの餌、右が業者が販売する餌

 光田さんの餌をやると、寄ってきて食べる。

 業者の餌だと、こんなふうに争って食べる。

 ナマズを三枚におろす。

 切身をフライパンで照焼きにする。
弾力のある白身は上品な味。泥臭さはない。

 養魚農家を訪ねる。

 養魚池

 魚に餌を与える。


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (かじみさ)
2010-02-09 13:41:58
素晴らしい! 光田さんに声援送ります。
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!!! (もくば)
2010-02-19 22:38:27
初めての書き込みです。

光田さん。本当にお久しぶりです。
こちらでは大変お世話になりました。

素晴らしいお仕事をされてますね^^
無事帰国されるのを心よりお待ちしております^^

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