一昨年12月のガーナの大統領選挙では、接戦で勝ちを収めた野党候補に、与党の候補が粛々と政権の座を譲った。そして、新政権になってから後も、国民の間に混乱もない。一連の見事な政権交代は、アフリカの人々にも、民主主義への自信を与えた。オバマ大統領は、さっそくガーナを訪問し、人々の心に訴える演説を行った。
さて、新しいガーナ大使が着任し、私のところに挨拶に来た。前任のガーナ大使は、一昨年の選挙でアッタ・ミルズ大統領が勝利するや、離任していた。退陣したクフォー大統領の政党に所属していたからだ。新任のガーナ大使は、以前ローリングス大統領の政権の時に、国防相を務めていた。だから、クフォー政権下では、野党の地位にあった。このたびの政権交代で、再び公職に戻ることになり、在コートジボワールの大使に任命されたというわけである。
私は、ガーナの大統領選挙の話題を持ち出して、見事な政権交代は、多くのアフリカ諸国にいい手本を示すことになりましたね、コートジボワールでもガーナに負けないような、成熟した大統領選挙をしてみせてほしいものです、と話す。そして、残念ながらケニアで見られたように、アフリカの多くの国では、一部の国民が選挙結果を受け入れず、新たな国内騒動に繋がることが多いのに、ガーナでは対立勢力同士が争うということもない、これはどうしてですか、と問うた。
「ガーナの人々は、もともと争いを嫌う、温和な国民性なのです。それに、自分と違う文化や部族に、まず敬意を払うという伝統があります。だから、たとえば国連平和維持活動でも、ガーナ軍がいつも一番評判がいい。派遣された先で、人々や文化に敬意を払いますからね。それで世界中で、ガーナ軍の平和維持軍が歓迎されています。」
元国防相らしい回答である。
しかし、国内には沢山の部族があるでしょう。政治の主導権をめぐってはともかく、生活の利益をめぐってとか、対立はしないのですか。
「部族意識はあるのですよ。最大部族のアカン族ほか、モシ・ダゴンバ族、エウェ族、ガー族、その他いろいろです。なかでも、アカン族は、もともと王国(アシャンティ王国)でしたし、東のコートジボワールに住む同系のアカン系部族とともに、分離独立を企てたくらいです。独立後間もないころの話です。でも、エンクルマ大統領が、これを何とか説得して阻止した。それ以降、国内の分離独立の動きが出てこないように、エンクルマ大統領は手を打った。手を打ったといっても、武力弾圧によったのではありません。学校によったのです。」
ほほう、学校ですか。
「そう、学校で、あらゆる部族からの生徒を、一緒に教育した。そして、一人一人に、ガーナの国民であるという意識を教えました。また、高等教育の寄宿舎などで、地方からの生徒たちを、部族の垣根をつくらせず、まぜこぜにしたのです。そうして国民一体の教育を行った。それから、結婚です。エンクルマ大統領は、異部族間の結婚を、おおいに奨励したのです。私自身も、妻の出身部族は異なりますしね。そうして半世紀もやってきましたから、ガーナ国民という国民意識が、出身部族の意識を凌駕しています。」
それは国として、貴重な財産ですね、と私は言う。コートジボワールでは、同様に国民一体性を築く努力をしてきたのに、政治と言うと部族の意識が出て来る。バグボ大統領も、私にそのことを嘆いていた。学校教育や、結婚などを通じ、そうした地道な努力を重ねて、国民意識がはぐくまれるのだ。それなのに、コートジボワールでは、むしろ国民性の意識つまり「象牙性」の概念が、政治的に独り歩きし、かえって政治対立を引き起こしている。
コートジボワールの大使をしていると、少しくやしいのですよ、と私。日本の人々の中で、コートジボワールの国名を知る人は少ないのに、ガーナというと皆知っている。なぜって、どこのスーパーやコンビニに行っても、かならず「ガーナ」という表示にお目に罹る。赤い包み紙のチョコレートです。
「はあ、チョコレートですか。」
そうです、コートジボワールの方がカカオ生産国としては第一なのに。ガーナのほうが有名なのです。
「それは、ガーナのカカオが、世界一の品質だからですよ。」
と、ここでガーナ大使は、しっかりとガーナの国民意識を見せつけてくれた。
さて、新しいガーナ大使が着任し、私のところに挨拶に来た。前任のガーナ大使は、一昨年の選挙でアッタ・ミルズ大統領が勝利するや、離任していた。退陣したクフォー大統領の政党に所属していたからだ。新任のガーナ大使は、以前ローリングス大統領の政権の時に、国防相を務めていた。だから、クフォー政権下では、野党の地位にあった。このたびの政権交代で、再び公職に戻ることになり、在コートジボワールの大使に任命されたというわけである。
私は、ガーナの大統領選挙の話題を持ち出して、見事な政権交代は、多くのアフリカ諸国にいい手本を示すことになりましたね、コートジボワールでもガーナに負けないような、成熟した大統領選挙をしてみせてほしいものです、と話す。そして、残念ながらケニアで見られたように、アフリカの多くの国では、一部の国民が選挙結果を受け入れず、新たな国内騒動に繋がることが多いのに、ガーナでは対立勢力同士が争うということもない、これはどうしてですか、と問うた。
「ガーナの人々は、もともと争いを嫌う、温和な国民性なのです。それに、自分と違う文化や部族に、まず敬意を払うという伝統があります。だから、たとえば国連平和維持活動でも、ガーナ軍がいつも一番評判がいい。派遣された先で、人々や文化に敬意を払いますからね。それで世界中で、ガーナ軍の平和維持軍が歓迎されています。」
元国防相らしい回答である。
しかし、国内には沢山の部族があるでしょう。政治の主導権をめぐってはともかく、生活の利益をめぐってとか、対立はしないのですか。
「部族意識はあるのですよ。最大部族のアカン族ほか、モシ・ダゴンバ族、エウェ族、ガー族、その他いろいろです。なかでも、アカン族は、もともと王国(アシャンティ王国)でしたし、東のコートジボワールに住む同系のアカン系部族とともに、分離独立を企てたくらいです。独立後間もないころの話です。でも、エンクルマ大統領が、これを何とか説得して阻止した。それ以降、国内の分離独立の動きが出てこないように、エンクルマ大統領は手を打った。手を打ったといっても、武力弾圧によったのではありません。学校によったのです。」
ほほう、学校ですか。
「そう、学校で、あらゆる部族からの生徒を、一緒に教育した。そして、一人一人に、ガーナの国民であるという意識を教えました。また、高等教育の寄宿舎などで、地方からの生徒たちを、部族の垣根をつくらせず、まぜこぜにしたのです。そうして国民一体の教育を行った。それから、結婚です。エンクルマ大統領は、異部族間の結婚を、おおいに奨励したのです。私自身も、妻の出身部族は異なりますしね。そうして半世紀もやってきましたから、ガーナ国民という国民意識が、出身部族の意識を凌駕しています。」
それは国として、貴重な財産ですね、と私は言う。コートジボワールでは、同様に国民一体性を築く努力をしてきたのに、政治と言うと部族の意識が出て来る。バグボ大統領も、私にそのことを嘆いていた。学校教育や、結婚などを通じ、そうした地道な努力を重ねて、国民意識がはぐくまれるのだ。それなのに、コートジボワールでは、むしろ国民性の意識つまり「象牙性」の概念が、政治的に独り歩きし、かえって政治対立を引き起こしている。
コートジボワールの大使をしていると、少しくやしいのですよ、と私。日本の人々の中で、コートジボワールの国名を知る人は少ないのに、ガーナというと皆知っている。なぜって、どこのスーパーやコンビニに行っても、かならず「ガーナ」という表示にお目に罹る。赤い包み紙のチョコレートです。
「はあ、チョコレートですか。」
そうです、コートジボワールの方がカカオ生産国としては第一なのに。ガーナのほうが有名なのです。
「それは、ガーナのカカオが、世界一の品質だからですよ。」
と、ここでガーナ大使は、しっかりとガーナの国民意識を見せつけてくれた。
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