選挙管理委員会のマンベ委員長が、詐欺を働いている、というのだから穏当ではない。しかも、バグボ大統領がそう宣言した。綸言汗の如し。これはただ事では済まなくなる。今月のはじめ(1月7日)に、バグボ大統領が、テレビに出て「こんなのは詐欺だ」と述べた。「詐欺」とはどういう話なのか。これにはちょっと、数字の説明が必要である。
大統領選挙に向かうにあたって、誰が有権者なのかを確定しなければならない。これは、誰が選挙権のあるコートジボワール人なのか、誰が選挙権の認められない外国人なのか、その両者を区別するという面倒な作業である。部族の居住区域にかかわりなく国境の線引きが行われたアフリカにおいて、しかも住民の4人に一人は外国からの移民であるコートジボワールでは、たいへん厄介な問題である。そして、その厄介な問題が政治化したところから、コートジボワールの紛争が起こった。
その面倒な作業を、遅々とした手際ながら、何とか進めてきた。全国の国民に、有権者登録に出頭するように指示し、写真と指紋を一人一人について採った上で、過去の行政文書などと突き合わせて、確かにコートジボワール人であるという認定を行って来た。そして、ようやく選挙人名簿が公示された。ただし、「暫定版」選挙人名簿である。これを「確定版」選挙人名簿にしなければならない。
「暫定版」とはどういう意味か。有権者登録に名乗り出た630万人余りのうち、まだ103万人について、本人はコートジボワール人だと言いながら、それを証拠立てるだけの書類が全く見当たらない。それで、とりあえず立証された530万人分だけを、「暫定版」として公示した。残りの人々について、さらに本人からの不服申し立てに応じて、調査を加えて照合し、救済をしようというのである。103万人の中には、コートジボワール人なのに、紛争で混乱したこの10年間の間に成人したために、行政上何らの登録がなされていないという人がいる。そう言う人々を一人一人、両親が誰かなどを調べ上げて確認し、「暫定版」の人々に加えて、「確定版」にするのである。
「暫定版」に対する不服申し立ては、1月9日に締め切られ、今はその審査の段階にある。さて、未照合の103万人のうち、何人が有権者登録に復活するのか。それが注目されていた中で、選挙管理委員会は、43万人分について、きちんと調査もしないまま、有権者のリストに不正に加えようとしていた、というのが「詐欺」の中身である。有権者のほぼ1割弱の人数であるから、事実だとすれば確かに、選挙の結果を左右するほどの大きな影響がある。
不服申し立てに対する判定結果が出されて、「確定版」が公示されれば、もうあとは選挙を行うにあたって、これ以上の段階はなくなる。いよいよ大統領選挙だ、と思われていた矢先での、「詐欺」騒動である。私は、ああそう来たか、と思った。つまり、大統領選挙行きの列車は、もう「確定版選挙人名簿の確定」という最後の通過駅を過ぎようとしている。これを過ぎれば、終着駅は目前だ。大統領選挙に行きたくない人々にとって、もう途中駅で赤信号を灯して、列車を止めるという手は効かない。ところが、選挙管理委員会という「機関車」が故障している、というのだ。これでは「列車」をしばらく止めざるを得ない。
選挙管理委員会がこっそり加えようとしていた未照合の43万人分は証拠不在の人々であり、つまり外国人である可能性が高いのではないか。そういう人々を投票に参加させるというのは、外国人の多い北部出身の人々を選挙母体にする、ウワタラ元首相を利する話ではないか。そういう疑いが出たから、人民党(FPI)の幹部をはじめ、バグボ大統領を支持する側の人々は、大いに反発した。
私は、ああこれで選挙管理委員長の辞任になり、そして選挙管理委員会の組織の作り直しやら何やらで、1ヶ月やそこらではない遅れが出て、また選挙が延期になるな、と感じた。実際に、選挙管理委員会は政治的に中立でなくて怪しからん、マンベ委員長を訴追しろ、辞任を求めろ、というような要求が紙面を賑わせ、実際にタグロ内相が検察を動員するなどと言って動きだした。
そうこうして約2週間が過ぎ、1月20日になって、選挙管理委員会が声明を発表した。内部調査の結果、次の事が判明した、という。これからの選挙準備のため、有権者リストのデータを、選挙管理委員会の地方組織に送らなければならない。その時に、43万人分のデータについても、一緒に付けて送られようとしていた。その送付作業は、委員会の作業を監督している監督官の知らないところで、行われようとしていた。これは、重大な遺漏である。選挙管理委員会の声明は、そう述べた上で、すでに43万人分のデータは回収され、未照合の人々が有権者として扱われることは、もはやあり得ないと、宣言した。
そしてどうも、この選挙管理委員会の「詐欺」事件は、この宣言を以て沙汰止みにしようとの気配だ。大統領が「詐欺だ」と言ったら、もう引っ込みの付けようがないはずなのに、それで引っ込めるようである。どうも大統領周辺が、大統領発言の余りの重大さに気がついて、慌てて火消しに走ったような動きがある。大統領発言の翌日以降の新聞に、この「詐欺事件」について、大統領が発言したのだという事実が報じられない。報道各社に、大統領の発言として報じないように、強く働き掛けたとしか思えない。
いずれにしても、大統領選挙が2月末から3月初旬に行われるという日程は、多少の遅れが出るとしても、まだしっかり維持されているようである。それが確保されるなら、まあ大統領発言は「無かった」ことにしてもいい。ここコートジボワールでは、綸言汗の如くない、という話である。
大統領選挙に向かうにあたって、誰が有権者なのかを確定しなければならない。これは、誰が選挙権のあるコートジボワール人なのか、誰が選挙権の認められない外国人なのか、その両者を区別するという面倒な作業である。部族の居住区域にかかわりなく国境の線引きが行われたアフリカにおいて、しかも住民の4人に一人は外国からの移民であるコートジボワールでは、たいへん厄介な問題である。そして、その厄介な問題が政治化したところから、コートジボワールの紛争が起こった。
その面倒な作業を、遅々とした手際ながら、何とか進めてきた。全国の国民に、有権者登録に出頭するように指示し、写真と指紋を一人一人について採った上で、過去の行政文書などと突き合わせて、確かにコートジボワール人であるという認定を行って来た。そして、ようやく選挙人名簿が公示された。ただし、「暫定版」選挙人名簿である。これを「確定版」選挙人名簿にしなければならない。
「暫定版」とはどういう意味か。有権者登録に名乗り出た630万人余りのうち、まだ103万人について、本人はコートジボワール人だと言いながら、それを証拠立てるだけの書類が全く見当たらない。それで、とりあえず立証された530万人分だけを、「暫定版」として公示した。残りの人々について、さらに本人からの不服申し立てに応じて、調査を加えて照合し、救済をしようというのである。103万人の中には、コートジボワール人なのに、紛争で混乱したこの10年間の間に成人したために、行政上何らの登録がなされていないという人がいる。そう言う人々を一人一人、両親が誰かなどを調べ上げて確認し、「暫定版」の人々に加えて、「確定版」にするのである。
「暫定版」に対する不服申し立ては、1月9日に締め切られ、今はその審査の段階にある。さて、未照合の103万人のうち、何人が有権者登録に復活するのか。それが注目されていた中で、選挙管理委員会は、43万人分について、きちんと調査もしないまま、有権者のリストに不正に加えようとしていた、というのが「詐欺」の中身である。有権者のほぼ1割弱の人数であるから、事実だとすれば確かに、選挙の結果を左右するほどの大きな影響がある。
不服申し立てに対する判定結果が出されて、「確定版」が公示されれば、もうあとは選挙を行うにあたって、これ以上の段階はなくなる。いよいよ大統領選挙だ、と思われていた矢先での、「詐欺」騒動である。私は、ああそう来たか、と思った。つまり、大統領選挙行きの列車は、もう「確定版選挙人名簿の確定」という最後の通過駅を過ぎようとしている。これを過ぎれば、終着駅は目前だ。大統領選挙に行きたくない人々にとって、もう途中駅で赤信号を灯して、列車を止めるという手は効かない。ところが、選挙管理委員会という「機関車」が故障している、というのだ。これでは「列車」をしばらく止めざるを得ない。
選挙管理委員会がこっそり加えようとしていた未照合の43万人分は証拠不在の人々であり、つまり外国人である可能性が高いのではないか。そういう人々を投票に参加させるというのは、外国人の多い北部出身の人々を選挙母体にする、ウワタラ元首相を利する話ではないか。そういう疑いが出たから、人民党(FPI)の幹部をはじめ、バグボ大統領を支持する側の人々は、大いに反発した。
私は、ああこれで選挙管理委員長の辞任になり、そして選挙管理委員会の組織の作り直しやら何やらで、1ヶ月やそこらではない遅れが出て、また選挙が延期になるな、と感じた。実際に、選挙管理委員会は政治的に中立でなくて怪しからん、マンベ委員長を訴追しろ、辞任を求めろ、というような要求が紙面を賑わせ、実際にタグロ内相が検察を動員するなどと言って動きだした。
そうこうして約2週間が過ぎ、1月20日になって、選挙管理委員会が声明を発表した。内部調査の結果、次の事が判明した、という。これからの選挙準備のため、有権者リストのデータを、選挙管理委員会の地方組織に送らなければならない。その時に、43万人分のデータについても、一緒に付けて送られようとしていた。その送付作業は、委員会の作業を監督している監督官の知らないところで、行われようとしていた。これは、重大な遺漏である。選挙管理委員会の声明は、そう述べた上で、すでに43万人分のデータは回収され、未照合の人々が有権者として扱われることは、もはやあり得ないと、宣言した。
そしてどうも、この選挙管理委員会の「詐欺」事件は、この宣言を以て沙汰止みにしようとの気配だ。大統領が「詐欺だ」と言ったら、もう引っ込みの付けようがないはずなのに、それで引っ込めるようである。どうも大統領周辺が、大統領発言の余りの重大さに気がついて、慌てて火消しに走ったような動きがある。大統領発言の翌日以降の新聞に、この「詐欺事件」について、大統領が発言したのだという事実が報じられない。報道各社に、大統領の発言として報じないように、強く働き掛けたとしか思えない。
いずれにしても、大統領選挙が2月末から3月初旬に行われるという日程は、多少の遅れが出るとしても、まだしっかり維持されているようである。それが確保されるなら、まあ大統領発言は「無かった」ことにしてもいい。ここコートジボワールでは、綸言汗の如くない、という話である。
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