「中国人ですか」いいえ、日本人です。「日本の首都は、ペキンでしたっけ」いや、東京です。
こちらに来ている日本の人なら、何度も経験しているやりとりである。街中で、東洋人とみると、たいがいは中国人である。中国製の商品は、衣類から雑貨から、市場を席捲しているし、中華料理屋はそこかしこにある。相当の奥地の村に行っても、「中国薬局」なる看板が見られる。中国の存在感は、アフリカでは日増しに高まっている。
中国は、その巨大な経済の成長とともに、今や上り調子の国である。そして、そのエネルギーはアフリカにも溢れてきている。中国人、中国製品は、アフリカにも押し寄せてきている。そして、経済協力の分野でも、中国の勢いは目覚ましい。かつて他国から経済協力を受けてきた中国は、いまや経済協力を行う側の国になった。アフリカでも、いくつかの国で、大きな経済協力案件を仕上げている。
ベナンに行って、外務省に出かける。エウズ外相に対して、いろいろと働きかける用事がある。そのベナン外務省の建物は、せいぜい2階建くらいの他の省庁の建物に混じって、ひときわ立派な5階建てである。現代的なデザインの建物が、夜間はライトアップされ、コトヌの街の中でひときわ目立つ。この建物は、中国が経済協力で建設、提供したものなのだ。
建物に入ると、ロビーは大理石張りで広く、各国の国旗が並んでいる。エレベーターに向かい、ボタンを見る。そこは地上階だけど、「1」と書いてある。ベナンはフランス式なので、通常は地上階の表示は「RC」となっているはず。こちらで「1」というのは、日本でいう2階の表示なのだけれど、構わない。中国が提供したエレベーターなのだから、中国式で「1」なのだ(日本と同じ)。エレベーターを降りると、廊下の壁面に消火設備が埋め込んである。漢字で「消火栓」と表示。さすが中国、相手の方式にあわせることはしない。
「先日のコペンハーゲンの気候変動会議(COP15)で、アフリカ諸国はどうして、日本や欧州の立場に同調してくれないで、中国と一緒になって合意成立に反対したのですか。」
外相に会ったら、私はそういう質問をしようと、案内された待合室で考えている。でも、待合室の応接椅子に付いている、龍の彫り物がどうも気になる。冷房機も中国製、カーテンにも中華風の房が並んで付いている。
コトヌの海岸通りに面し、大統領府の反対側に、国際会議場(Palais des Congrès)がある。現代的で斬新な、白い建築物が威容を誇っている。これも中国がベナン政府に提供したものである。行ってみると、大会議室を囲んで、2つの小会議室が、空中の廊下でつながっている。廊下の電源設備が、皆漢字で表示されているのは、こちらの人々に理解できるのだろうか。ここでも、消火設備には、漢字で「消火栓」と書かれてある。
さて、コトヌから郊外に出る道路を辿る。西に向かう幹線道路と、北に向かう幹線道路とが分岐する場所では、前から交通渋滞がひどかった。今は、この渋滞解消のために立体交差を建設中であり、人々はその完成を心待ちにしている。そして、この立体交差も、中国の経済協力で建設している。現場に行ってみると、既に基礎工事が終わり、建てたコンクリートの大きな柱に、橋げたを乗せる段取りをはじめていた。中国人の技師が、中国の建設機械を使って、工事を進めている。見たところ、鉄筋をしっかり組んで、ずいぶん綿密な工事を行っているようだ。
そしてベナンの人々が、スポーツを楽しむとすれば、サッカーである。大きな試合ごとに、コトヌの人々は、国立競技場に集まる。ここは「友愛競技場(Stade d’Amitié)」と呼ばれて、これまた中国からの提供である。行ってみると、サッカーと陸上競技が行われる、大きな楕円形のスタジアムと、球技が行われる屋内球戯場が、広い敷地に併設されていた。敷地の入り口にある待合場所の建物は、中国風の瓦屋根をつけている。この競技場全体が中国の協力によって完成したことを、訪れた人々に自然に知らせるようになっている。中国は、隣接した敷地に、選手たちの合宿所も建設した。
ベナンでは日本だって負けてはいない、と私は「ラギューン母子病院」への協力を誇る。しかし、中国が国を挙げて行っている経済協力は、大したものであると、これは認めざるを得ない。それに、日本の経済協力は、今どんどん先細りになっている。2000年まで世界第1位だった経済協力の額が、すでに世界第5位にまで落ちている(2007年実績)。一般会計の経済協力予算は、過去10年ほどの間に、約4割削減されてしまった。残念ながら、これが挽回していくという見通しはない。その一方で、中国はこうしてどんどん、見事な経済協力を仕上げていっている。
アフリカ諸国は、日本の経済協力について、質が高くて真に人々の必要に応えるものであると、高く評価し、感謝してくれている。日本の協力とともに、中国の協力が加わって、一緒にアフリカの発展を助けるものとなることは、これは大変結構なことである。しかし、中国の方がどんどん目に見える立派な協力を進めていくと、日本の協力の影がそれだけ薄くなる。これも事実である。
2005年に、日本が国連安全保障理事会の改革をめざして、国連総会決議案を通そうとしたことがあった。この時、中国をはじめ、日本が新たに安保理の常任理事国になるというような話は面白くないと考える国も、いくつか出てきた。そして日本の決議案が、アフリカ53カ国の票を取り込むことが出来るかどうかが、その成否の鍵を握るものとなった。アフリカ諸国が、日本の立場を選ぶか、中国など日本提案に反対する側の立場を選ぶか、それが外交の勝負を決するようになった。結局、アフリカ諸国の日本案支持は、さまざまな切り崩しに遭った。日本は、安保理改革の決議案を、投票に持ち込むことが出来なかった。
国連改革だけでなく、北朝鮮問題、軍縮問題、領海問題、環境問題など、中国の立場と日本の立場が、食い違ってくることがある。国際会議などの場で、そうした問題が争われる時に、国際社会の中で味方を探さなければならない。そしてアフリカは、53票を擁する大票田である。だからアフリカ各国において、中国の姿がだんだん大きく見えるようになっていることは、日本外交としてとても足元不如意だ。日本として経済協力を大きく回復する見通しがなく、一方で勢いに乗る中国が開発への協力を進める中では、アフリカ諸国の心が日本から離れていくことがありうると、これは冷徹に覚悟しなければならない。 中国が建てた、ベナン外務省の立派な建物
国際会議場も、中国の経済協力で建った。
漢字で書いてある。
「消火器」と漢字で表示。火事の時、読めるのかな。
電源も漢字で表示してある。
中国が建設中の立体交差
建設機械も、中国から持ってきている。
中国が建てた、国立競技場
競技場の中。陸上競技もサッカーもここで行う。
隣接して、球技場も中国が建てた。
選手たちの合宿所も提供。
中華風の待合所を造っている。
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