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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

持続可能な森林保護

2010-01-26 | Weblog

木の中に分け入っていくと、そこが伐採地であった。すでに、何本かの木が倒され、男たちが発動機付きの鋸で、その木を切って、大きさを揃えていた。
「伐採するのは、カシアの木だけです。それ以外の木には、手を付けません。」
アウシさんが説明するには、カシアの木(Cassia siamea)というのは、このあたりに豊富に生えていて、木炭作りに適しているだけでなく、生命力が強くて、切ってもすぐ次が生えて来るのだという。植林をするのですね、と聞いたら、そうではない。

「切り株から、数ヶ月で芽が出てきて、それがどんどん伸びて新しい木になります。」
と言って、傍らの切り株を示す。3ヶ月前に切ったという、その木の切り株からは、すでに1メートルばかりの新芽が伸びてきている。良く見ると、伐採跡となって明るく開けたその草藪のあちこちに、新芽の伸びた切り株がある。

左右の手のひらで輪をつくったくらいの太さになったら、カシアの木を伐採する。
「だいたい、5年くらいで、その大きさになります。」
えっ、たった5年ですか。杉や檜などは、植えてから60年とかかかって、やっと材木に出来る大きさになる。私が日本で得ていた知識からは、5年で伐採というは、驚くべき早さである。

女性組合の「マレビ」は、コートジボワール森林公社から、このサンバン保護林のなかでの森林の割り当てを受けた。全部で30ヘクタール。現在は、そのうち10ヘクタールを順次伐採している。木の本数や、木が成長する速度から計算すると、最後の木を切り終えた頃に、すでに最初に切った木が、十分な大きさに成長している。だから、炭焼きを行っても森が減らない。

そして、ときどき木を切って森を掃除するというのは、カシア以外の種類の木々にとっても、成長の助けになるということである。木を切ったばかりの明るい場所に、また木々が生い茂るようになるまでの間、マニオク(キャッサバ芋)や、ピーマン、ナスなどの様々な野菜を植える。カシアの種を取って、苗木も育てている。そうして、様々なかたちで、森は生産の地になる。女性たちが、活発に働く場所である。

視察に同行してくれた、森林公社のヌゲティヤ総裁が言う。
「森林保護といって、ただ木を伐るな、森に入るなというわけにはいきません。その森林を、長年生活に使って来た村人たちは、森なしでは生きてはいけないのです。」
ところが、植民地支配の伝統では、森林を保護するということになると、人々を森から排除すればよい、という考え方になる。実際に警察や軍によってそうした措置が取られていた。その伝統を引き継いで、コートジボワールの森林保護政策は、違法伐採の取り締まりを柱に、進められてきた。

「森林資源の保護の任務は、1992年に、政府の農業省から森林公社に移管されました。森林公社が森林保護の仕事を始めようとしたら、はじめ大変な困難がありました。住民が敵対的なのです。また公権力が、自分たちの生活を脅かしに来た、と。」
住民は、非協力的であるだけでなく、監視の目を盗んでは、森林から木を伐り出すようになっていた。だから、かえって野放図な森林破壊が進んでいた。森林公社は、住民との話し合いを進め、森林資源の保護と利用の両立を説いた。

「村の人々も、森林保護の重要性を十分認識しています。森林には、木材伐採以外の、たくさんの使い道、有用性があることを、むしろ住民の方がよく知っている。だから、監視の行き届かないところで、大木などが違法伐採され、野生動物なども減少しつつあることを、住民自身が嘆いていました。」
森林公社の新しい取り組みによって、住民が率先して森林保護に乗り出すようになった。このサンバン保護林で行われる、新方式による炭焼きは、その良い成功例なのだ、という。

「もちろん、この鉄の釜は、ひとつ3百万フラン(約60万円)もするわけですから、貧しい村の人々には、簡単に手に入る代物ではない。今回の計画は、国際熱帯木材機関(ITTO)からの資金のおかげで実現しました。それでも、この鉄の釜の開発に、アビジャン工科大学が知恵を絞り、製造技術が確立するなど、次につながる良い経験が蓄積しました。ぜひとも、この方式をコートジボワール国内各地に広げていきたい。」
ヌゲディヤ総裁は、そう私に語る。

環境保護をめざすにあたって、「持続可能(sustainable)」という言葉が重要になってきている。環境を守るといっても、末永く続いていくようなかたちでなければ、いずれは破綻する。環境問題についての専門家の議論でも、「森林管理」について、森林の機能を「持続可能な方法で実現することを目指す」ことである、と定義されている(「京都議定書」に関するマラケシュ合意)。以前に、ブルキナファソでバンフォラの森を訪ねた時、住民の理解を深めながら、住民と一緒に森の活用方法を考えていくことが重要であると教わった。日本が、そのための技術協力を行っていた。

コートジボワールでも、森林公社が同じ考えに立って、森林保護活動をしている。そして、このサンバン保護林の炭焼きのように、村人たちの生活にも定着するかたちで、森林保護を実現する例が、僅かずつながらも出てきている。私は、日本がもし環境保護の政策を、開発途上国で実施していくことを望むとしたら、コートジボワールの森林公社の、こうした試みを支援することも、ひとつのやり方だな、と納得している。

 サンバン保護林の入り口

 村人たちの歓迎を受ける。

 女性組合「マレビ」の仲間たち

 カシアの林と伐採場所

 切株には数週間で若木が出る。

 5年経てばこの太さになる。

 伐採した木

 発動機付の鋸で整理

 炭焼釜まで運ぶのは女性の仕事

 森は計画的に伐採する。


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