昨年末に、バグボ大統領が本を出した。「平和を築く~民主主義と繁栄の上に」と題されている。来る大統領選挙に向けて、バグボ大統領の政策構想が論じられているのだという。こういう本は、ちゃんと自分で手にして読んでおかなければならない。基本資料や文献の、原典に当たっておくことは、情勢分析の基本である。
それで、本屋に行ったら、ちゃんと売りに出ていて、店先に山積みになっていた。1冊3千フラン(600円)で購入。210頁もあるので、これを読むのはけっこう面倒だな、でもこれも仕事である。年末年始の休暇の間を利用して読み上げようと、最初から頁を繰って読み始めた。そうしたら、予想に反して、面白い。
面白い、というのは、冗談などが書いてあって、読み物として楽しいということでは、決してない。この本は、いたって真面目な書きぶりである。この本には、バグボ大統領が、コートジボワールの政治・経済・社会の、どこに問題を感じているか、その問題のどこに原因があると考え、どう対処していきたいと考えているか、それらが記述してある。面白いのは、その内容が、私がこれまで秘かに考え、自分で動かしてきたこととぴったり符合していることである。
最初に、「序章」があって、いわば総論部分である。ここに、あの年末挨拶でも触れられている、「一党支配の政治文化からの脱却」論がより詳しく、展開されている。かつてコートジボワールが享受してきた平穏と繁栄は、3つの要素があってこそのものであったと分析する。
第一に、政治の面では、ウフエボワニ大統領による一党支配が機能していた。官公庁・公的企業のどの役職も、この一党支配の中で、分配されてきた。第二に、経済の面では、「プランテーション経済」と彼が名付ける、単純で安直な経済政策が可能であった。つまり、人口の割に農産品資源は豊富にあったし、経済開発は、外国から湯水のように借金をした上で進めてきても、だれも問題と思わなかった。第三に、国際関係の面では、フランスの協力と庇護があった。
これらの3つの要素は、今やどれも立ちゆかなくなっている。えこひいきの公務員採用は、国内での不公平感を生んだ。カカオ、コーヒーなどの商品作物を作っているだけでは、もはや食糧を輸入するための収入を生み出すには、とても足らない。過去に重ねた借款は、多大な重債務となって国にのしかかっている。
だから、昔のウフエボワニ時代に、郷愁を持ってはいけない、という。時代は変化したのだ。平穏と繁栄を求めるなら、新しい時代の条件を見据えて、それに応じて築いていかなければ。そのようにバグボ大統領は論じている。
日本で言うと「親方日の丸」で、とにかく公務員に就職して国からの利益分配にあずかろうとする国民気質。商品作物のカカオやコーヒーだけを作るという農業に、疑問を持ってこなかった農民たち。何でも良いことも悪いことも皆フランス、という精神構造。どれも、私がここに赴任して以来、気になっていたことばかりだ。
バグボ大統領の目にも、これはいけない、そこから脱皮しなければいけないと、そういうふうに映っているのである。私は本を読みながら、ひとつひとつ頷いている。国民の気持ちを、新たな正しい方向に向けるというのは、政治家の責務としては最も崇高ながら、これはなかなか難しいだろうな。
さて、総論部分に引き続く「第一部」は、「国民への私の約束」と題されている。バグボ大統領が、国民への施策として、具体的に何を進めたいと考えているかが書かれている。その最初が、「学校」である。誰にも均等な教育の機会を用意しなければならない。次に、「医療」である。全ての国民が、質の高い医療を受けられるようにしなければならない。頁をめくると、「女性の地位向上」。ふむふむ、さらにその次には、「若者の期待に応える」となっていて、職業訓練を整備しなければ、と書いてある。
私は、読みながら思わず手をたたく。これらの分野はみな、こちらに赴任してから手がけてきたことばかりだ。手探りでいろいろな協力案件を見つけては、実施に移してきたけれど、どうやらバグボ大統領の優先順位と、ぴったり一致していたのだ。
この間、バグボ大統領と会って話したら、日本は大事な分野でいろいろ小さな案件を手がけてくれていてありがとう、と言われた。そのときは外交辞令とも思ったけれど、実は本心からで、日本の具体的な協力が、大統領にとって痒いところに手が届くようなものだった、ということだったのかもしれない。私は密かに、試験で満点を貰ったような気分になっている。
(続く)
バグボ大統領の本
題名:「CÔTE D’IVOIRE
Bâtir la paix sur la démocratie et de la prospérité」
出版:NEI-CEDA (Abidjan), 2009
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Miya(匿名で失礼します。)