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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

大統領の溜め息

2009-12-28 | Weblog
東京の外務本省で、アフリカ大使会議(12月16-17日)が開かれた。アフリカに駐在する日本の大使が、一堂に会して、アフリカの各国に共通の問題について、情報や意見を交換する。また、本省から、政府の政策の方針や、さまざまな連絡事項の伝達がある。この大使会議は、日本を離れて仕事をしている大使にとって、本省側の担当者や、仕事で関係する諸方面の方々と直接面談して、いろいろな打ち合わせをする、とても貴重な機会である。

そして、私は大使会議が開かれる前に、バグボ大統領に会いに行く。大使会議で、コートジボワールのことを話す時に、私の見方はコートジボワールの首脳陣とも意見交換をした上でのものなのだ、と言えるならば説得力が増す。大使というのは、外交使節であり、メッセージの伝達者である。先日ジェジェ大統領顧問のところに、核廃絶決議案の話をしにいったときに、そう耳打ちしておいた。バグボ大統領も、大使会議で大使が帰国することの意義は重々承知で、だから、すぐに応じてくれた(12月11日)。

大統領府に赴いて、大統領執務室に入ると、バグボ大統領がジェジェ大統領顧問と一緒に待っていた。握手をし、挨拶を交わして、応接椅子に座ると、いつものとおり、しばらくは報道関係者が写真撮影。私は、先日の天皇誕生日祝賀会の祝辞を、一部封筒に入れて持ってきているので、それを大統領に渡すしぐさをしてみせる。

報道関係者が退室すると、バグボ大統領はいきなり言う。
「大使、私の母にお会いいただいたんですってね。」
ああ、そうそう。職業訓練学校の視察旅行のときに、バグボ大統領の故郷に立ちよって、ご母堂にお会いした
「ええ、母上殿には、祝福をしていただきました。ご健在で何よりです。それから、ジャネットさんにご自宅に呼んでいただいて、大いにおもてなしを受けました。」
「ジャネットはね、私のたった一人の妹なんですよ。」
目を細めて、大統領が言う。

私は、大統領の地元の村に、日本の資金協力で、中学校を開校した話をする。先日、ここに同席のジェジェ顧問と一緒に、お祝いの式典をしてきたところです。
「いや、本当にありがとう。日本にはとても感謝しています。日本は、教育とか医療とか、いつも一番大事なところに協力してくれる。日本大使の貴方自身が、あちらこちらに出かけて、小さな協力案件をこつこつ手掛けておられることを、知っていますよ。たいへん結構なことだ。大統領として、感謝と敬意を表します。」

協力案件などを通じて、大統領の出身の村や地域に関わり合って来たことは、こうして大統領と話すときに助けになる。しかし、限られた時間をそれだけの話で済ませてはいけない。さて、と私は話を切り替える。大使会議で東京に帰ります。大統領選挙はもう目前です。それが終われば、いよいよ日本とコートジボワールの関係を、大きく再出発したいと考えています。そのための、根回しをしてこようと考えています。

そして、私は日本で政権交代が起こり、民主党政権による政策の見直しが行われているけれども、鳩山総理も岡田外務大臣も、アフリカに対する政策は変えない、TICADで表明された約束は、きちんと履行するのだ、という決意を表明している、という話をする。

「日本が、アフリカに向かう方針を変えない、というのは大いに安心なことです。日本は、アフリカに対して、かつて痛めつけたような過去を持たない。日本の発展に、誰もが驚異の思いと尊敬の念を抱いています。学校では、日本を見習えと教えているのですよ。」
大統領は、そう応える。鳩山総理には、またアフリカに関係する日本の指導者の人々には、大統領の私から、日本への感謝を伝えてほしい。それから、これからへの期待感も一緒に。

私は、大統領選挙への準備が進み、暫定選挙人名簿も公示され、もう最終コーナーを回ったことを喜ぶ、と述べる。あとは、コートジボワールの政治責任者たちが、選挙を平穏かつ責任を持って、成し遂げることを期待しています。

そして、天皇誕生日祝賀会の祝辞を示しつつ、こういう問題提起をした。
「来年は、独立50周年で、コートジボワールにとって、新たな歴史の章を開く年です。大統領は、歴史の先生でしたよね。だから、歴史の重要性について私から申し上げるまでもありません。私は着任以来、お国の歴史を調べて、それぞれの部族が、それぞれ豊かな歴史と文化を持っていることを知りました。歴史の認識を通じて、互いの文化を尊重することが出来れば、一つの国民として団結できるのだと思います。」

選挙は、アフリカでは、異なる部族や政党の互いの誹謗中傷を通じて、かえって国内対立をもたらしてしまうことが多い。バグボ大統領には、そうした罠に陥らないように、国の一体性について、お国の歴史を踏まえて、国民にしっかりした指針を示されることを期待する、と述べた。

バグボ大統領は、歴史の先生だったから、そうだ大使の言うとおりだ、とお墨付きをくれるかと思っていたのである。ところが、何となく神妙になって、遠いところを見ながら溜め息をついた。そして、ぽつんとこう言った。
「そうですけれどね、わが国民は、選挙というと難しくなる。部族同士の争いという側面が、どうしても避けられなくなる。」

国民和解への私の期待感と、歴史の再認識を通じて国民意識を高めるべきだという議論は、政治の荒波をくぐりぬけてきたバグボ大統領には、やはり青臭い書生論と映ったのだろうか。それでもバグボ大統領をはじめ、政治当事者の人々には、国民一人一人に訴えてほしいと、私は願っているのである。大統領選挙とは、互いに喧嘩をするためではなく、国が一つにまとまるために行うものなのだ、ということを。

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