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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

燻製加工場を建てる

2009-12-26 | Weblog

南大西洋でも、たくさん魚が獲れる。漁港に行くと、水揚げされた新鮮な魚が手に入る。ところがアフリカでは、こうした魚を食べることは、少し内陸部に入るだけで、もう難しくなる。電気がないか、あっても供給が安定していないから、冷蔵ということが難しい。また、流通に時間がかかる。新鮮な魚を、内陸部に届けることは、極めて困難だ。

その一方で魚は、とても重要な蛋白源として、大きな需要がある。そこで、海で獲れた魚を、燻製加工する。燻製にすると、保存も運搬も容易になる。アフリカにおいて、燻製はとても重要である。さらに魚を燻製にすると、これはこれで、とてもおいしくなる。油椰子のソースで焚きこまれた燻製魚の料理は、濃厚な味が出て絶品である。日本だと、鰹節にあたるのだろうか。

燻製加工は、女性たちの仕事である。魚を水揚げする浜辺で、たいがいは、ドラム缶などの鉄製の釜の上に金網をかけ、その上に魚を並べて、じりじりと燻す。浜辺に出かけると、暑い日中に、火を付けたドラム缶のそばで、女性たちが魚を表裏返している光景に出合う。

この燻製加工を、もっと効率良く進めよう。そう考えた女性たちが、組合を作った。ドラム缶ではなくて、専用の燻製釜を築いて、そこで魚を大量に加工していこうというのだ。地元の産業開発であり、雇用創出につながる案件だということで、地元のNGOを通じて、国連工業開発機関(UNIDO)に話が持ち込まれた。

UNIDOの監督のもとで、日本の「マノ河同盟」若者雇用支援の資金をつかって、この組合に、燻製加工場を建設することになった。工費は、約8百万フラン(160万円)。そして、アビジャンの東30キロの海岸にある、ここグランバサム市(Grand Bassam)に、燻製加工場が完成した。今日は、その引き渡し式典がある。

燻製加工場には、「改良燻製釜」と名付けられた新しい釜が並ぶ。「チョーコー型(Chorkor)」と呼ばれるこの新型の釜は、これまでのドラム缶と大違い。コンクリートでしっかりと築かれ、薪の熱や煙を逃がさないで魚に送る。とても効率よく燻製魚を仕上げることができる。燃費は三分の一。そして、従来のドラム缶だと、一回に5~6キロしか燻製にできないのが、この釜だと一度に60キロできる。しかも、従来4~5時間かかっていた加工時間が、わずか1~2時間で仕上がる。掛け算すると、数十倍の生産効率になる。

そうした「改良燻製釜」が、この加工場に10ほど並んでいるから、女性たちは、たいへんな生産能力を獲得したわけである。組合員の女性たちは、お揃いの青い制服を着て、大いに意気が上がっている。なにしろ、これからは、浜辺でドラム缶相手に一日中魚をひっくり返すのではなく、加工場で効率よく燻製魚を作れるのだ。収入も生活も、格段に向上するに違いない。

おまけに、この燻製加工場の建設を通じて、「改良燻製釜」の製造技術が地元に定着した。これらの「改良燻製釜」は、地元の5人の若者がチームで作った。彼らは、覚えた技術を使って、これから近隣の他の浜辺に出かけて、同じ燻製釜をどんどん作っていこうと考えている。その分だけ、女性たちの生産力を上げ、生活を向上させることになる。

私は、主賓として、引き渡し式典に出席している。挨拶の言葉を求められた。
「この釜ですけれど、名前に「改良」と入ってますよね。それに、先ほど組合の方の演説の中で、これから「良い品質」の燻製魚を作っていきたい、という宣言がありましたよね。この、「改良」とか、「良い品質」とかいう言葉に、とても勇気づけられます。」
と語りはじめる。

「みなさん、日本という国は、豊かな国とお思いでしょう。ところが、そうではないのです。石油も出ない、ろくな天然資源はない。国土の8割以上が山岳などで、耕作不可能です。おまけに戦争で負けて、60年前は国中が焦土でした。」
この話は、もういろんな機会に何度も繰り返している。日本は、働いて豊かになった、という結論である。

「日本はもとから豊かな国なのではない。そう、働いて豊かになった国なのです。そして、人々が働くときに、常に目指したのが、「改良」であり、「より良い品質」だったのです。それが世界に冠たる、日本の工業製品を作りました。」

日本の強さは、「改善」という言葉に現れるように、常に高い品質を求める努力にあった。ところで、これが日本だけの独占物かと思ったら、コートジボワールでも、そういう気持ちを持った人々に出会う。工夫と努力で、よりよい物を、より効率良く作ることができる。そうした余地は、今は日本よりもむしろ、発展途上にある地域の人々のほうが、より強く実感しているかもしれない。

女性の組合員たち、そして「改良燻製釜」を築いた若者たちは、新調の制服を着て、目を輝かせている。10名の女性組合員たちは、10の「改良燻製釜」を一つずつ管理して、誰が一番良い品質の燻製を作るか、皆で競うのだと言っている。組合全体で、生産力と品質を上げるということに、並々ならぬ意欲を見せている。日本の資金が、零細な地場産業に、工業生産への道を開いたようである。

「皆さんも、この改良燻製釜を使って、ぜひ最高の品質の燻製魚を生産してください。」
私はそう締めくくって、演説を終えた。

 燻製加工場が完成した。

 女性組合員のあいさつ

 「改良燻製釜」を築いた若者たち

 テープカットを前に

 これが「改良燻製釜」

 燻製加工場に並ぶ「改良燻製釜」

 魚の燻製ができた。


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