国連外交のうえで、コートジボワールが、日本以上に気を遣う国があるとすればどこだろう。
国連総会での投票結果:
(反対)インド、北朝鮮
(棄権)中国、フランス、イラン、イスラエル、ミャンマー、パキスタン、キューバ、ブータン
一覧表には、そう記されている。これは、国連総会の投票に先立つ、第一委員会での投票でも同じである。これだけ並んだ国の中に、コートジボワールの外交に、影響力を持ちうる国が、確かにあるのだ。インド、中国、フランス、イスラエルの4ヶ国である。
一番ありうるのは、フランスということになろう。それにフランスは、昨年の「賛成」をやめて、今年「棄権」となっている。他にアフリカで「欠席」した国があって、その中にはガボン、チャド、中央アフリカなどが含まれる。皆、フランスを旧宗主国とする国々であり、フランスの影響力が強い国だ。でも、フランスが、コートジボワールに賛成しないように同調を求めるほど、この決議案に強い危機感を持っているとは思えない。これは謎だ。
イスラエルは、昨年「反対」していたのが「棄権」に、つまり好意的に変化している。だから、コートジボワールがイスラエルに同調した、という仮説はありえない。
インドと中国は、それぞれ「反対」、「棄権」で、これは今年に始まった話ではなく、もうずっと前からこの立場で変わりはない。それでも今年の投票の機会に、コートジボワールがこれらの国にメッセージを送った可能性を排除することはできない。日本が気を悪くするかもしれない態度を、コートジボワールとして敢えて取ったわけである。日本との関係を害する危険を冒しても、貴方に気遣いをしていますよ、というメッセージとなる。
私は、いろいろと推論をめぐらしながら、外務省に向かった。ひとつここは、しっかり裏の動きを探り出してやらなければならない。場合によっては、日本とコートジボワールの関係の、軽重が問われる話になるかも知れない。その時には、日本の立場をきちんと尊重するように、断固申し入れをしなければならない。私は、日本大使としての矜持を正しつつ、目をつり上げている。
コナン外務次官は、執務室でいつものとおり、満面の笑みをたたえて、私を迎えてくれる。私はさっそく、投票態度の一覧表をとりだして、コートジボワールが日本の「核廃絶決議案」に「欠席」とは、一体全体どういうことですか、と談判に入る。
「あれ、本当ですね。コートジボワールが「欠席」になっていますね。」
と、コナン次官は、一覧表を見ながら明らかに驚いている。
「日本の核廃絶決議に、コートジボワールは毎年賛成してきているのに、今年「欠席」とは、おかしいですね。そういう立場変更の決定をしたなら、次官の私が知っているはずだし、「欠席」したという事実さえ、報告を受けていないのです。ちょっと、国際機関局に聞いて、後ほど調査結果をご連絡しましょう。」
次官が驚いているので、私も驚いている。この決議は、日本国民の願いを反映した決議ですから、もし間違いであるというのなら、早急に訂正してください。そうでないと、日本と日本国民に、たいへん困ったメッセージを残すことになる。そうコナン次官に伝えて、私は外務省を辞した。
どうも単なる間違いかもしれないとは。気負っていたのに、拍子抜けだ。私は、さらに確認をするために、今度はジェジェ国連大使のところに出かけた。ジェジェ大使は、国連大使だからニューヨークにいるはずなのだけれど、バグボ大統領の外交顧問をやっているものだから、こうしてアビジャンにいる。ジェジェ大使も、投票態度の一覧表を見て、一言で言った。
「何かの間違いですね。私もバカヨコ外相も、この決議案の賛成に、何らの異論もなかったですから。」
そして、手元の電話で、すぐにニューヨークに電話した。
しばらく、ニューヨークのコートジボワール代表部と、電話でやりとりした後、ジェジェ大使が言うには、
「やはり間違いです。わが代表団は、採択の時に「賛成」のボタンを押したのに、国連総会事務局のほうで記録してくれなかったようです。それで、代表部からは、事務局の方に訂正を求めているということです。」
まあ、大使としては、ひとまず胸をなで下ろした。それにしても、こんなに人騒がせな「間違い」というのが、天下の国際連合にかぎってあるのか。私からいろいろ疑いをかけられたコートジボワールこそ、いい迷惑というところだ。ともあれ、幸いにして、私の独り相撲だったようだ。あとは、国連総会の事務局が、コートジボワールからの訂正申し入れを受領して、わが「核廃絶決議」への賛成国数を、1つ増やすのを待つだけである。
国連総会での投票結果:
(反対)インド、北朝鮮
(棄権)中国、フランス、イラン、イスラエル、ミャンマー、パキスタン、キューバ、ブータン
一覧表には、そう記されている。これは、国連総会の投票に先立つ、第一委員会での投票でも同じである。これだけ並んだ国の中に、コートジボワールの外交に、影響力を持ちうる国が、確かにあるのだ。インド、中国、フランス、イスラエルの4ヶ国である。
一番ありうるのは、フランスということになろう。それにフランスは、昨年の「賛成」をやめて、今年「棄権」となっている。他にアフリカで「欠席」した国があって、その中にはガボン、チャド、中央アフリカなどが含まれる。皆、フランスを旧宗主国とする国々であり、フランスの影響力が強い国だ。でも、フランスが、コートジボワールに賛成しないように同調を求めるほど、この決議案に強い危機感を持っているとは思えない。これは謎だ。
イスラエルは、昨年「反対」していたのが「棄権」に、つまり好意的に変化している。だから、コートジボワールがイスラエルに同調した、という仮説はありえない。
インドと中国は、それぞれ「反対」、「棄権」で、これは今年に始まった話ではなく、もうずっと前からこの立場で変わりはない。それでも今年の投票の機会に、コートジボワールがこれらの国にメッセージを送った可能性を排除することはできない。日本が気を悪くするかもしれない態度を、コートジボワールとして敢えて取ったわけである。日本との関係を害する危険を冒しても、貴方に気遣いをしていますよ、というメッセージとなる。
私は、いろいろと推論をめぐらしながら、外務省に向かった。ひとつここは、しっかり裏の動きを探り出してやらなければならない。場合によっては、日本とコートジボワールの関係の、軽重が問われる話になるかも知れない。その時には、日本の立場をきちんと尊重するように、断固申し入れをしなければならない。私は、日本大使としての矜持を正しつつ、目をつり上げている。
コナン外務次官は、執務室でいつものとおり、満面の笑みをたたえて、私を迎えてくれる。私はさっそく、投票態度の一覧表をとりだして、コートジボワールが日本の「核廃絶決議案」に「欠席」とは、一体全体どういうことですか、と談判に入る。
「あれ、本当ですね。コートジボワールが「欠席」になっていますね。」
と、コナン次官は、一覧表を見ながら明らかに驚いている。
「日本の核廃絶決議に、コートジボワールは毎年賛成してきているのに、今年「欠席」とは、おかしいですね。そういう立場変更の決定をしたなら、次官の私が知っているはずだし、「欠席」したという事実さえ、報告を受けていないのです。ちょっと、国際機関局に聞いて、後ほど調査結果をご連絡しましょう。」
次官が驚いているので、私も驚いている。この決議は、日本国民の願いを反映した決議ですから、もし間違いであるというのなら、早急に訂正してください。そうでないと、日本と日本国民に、たいへん困ったメッセージを残すことになる。そうコナン次官に伝えて、私は外務省を辞した。
どうも単なる間違いかもしれないとは。気負っていたのに、拍子抜けだ。私は、さらに確認をするために、今度はジェジェ国連大使のところに出かけた。ジェジェ大使は、国連大使だからニューヨークにいるはずなのだけれど、バグボ大統領の外交顧問をやっているものだから、こうしてアビジャンにいる。ジェジェ大使も、投票態度の一覧表を見て、一言で言った。
「何かの間違いですね。私もバカヨコ外相も、この決議案の賛成に、何らの異論もなかったですから。」
そして、手元の電話で、すぐにニューヨークに電話した。
しばらく、ニューヨークのコートジボワール代表部と、電話でやりとりした後、ジェジェ大使が言うには、
「やはり間違いです。わが代表団は、採択の時に「賛成」のボタンを押したのに、国連総会事務局のほうで記録してくれなかったようです。それで、代表部からは、事務局の方に訂正を求めているということです。」
まあ、大使としては、ひとまず胸をなで下ろした。それにしても、こんなに人騒がせな「間違い」というのが、天下の国際連合にかぎってあるのか。私からいろいろ疑いをかけられたコートジボワールこそ、いい迷惑というところだ。ともあれ、幸いにして、私の独り相撲だったようだ。あとは、国連総会の事務局が、コートジボワールからの訂正申し入れを受領して、わが「核廃絶決議」への賛成国数を、1つ増やすのを待つだけである。