goo blog サービス終了のお知らせ 

コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

核廃絶決議の採択(3)

2009-12-10 | Weblog
「何ということだ、これは。」
と私が驚愕したのは、公電の本文に添付された、各国別の投票結果の一覧表を見たときである。国連加盟国の名前が、一枚紙に並んでいて、各国別にどういう投票態度だったか、賛成なら「Y」、反対なら「N」、棄権なら「A」と記してある。

私は、何の気なしに、コートジボワールのところを見たのだ。当然「Y」だろう。ところが、驚いたことに、「Y」でないだけでなく、「N」とも「A」とも書いていない。なんと空欄である。これは何を意味するのか。投票に欠席していた、ということなのだ。

平和と安全保障に関する問題についての決議案は、国連総会での審議にかけられる前に、第一委員会で採択される。「核廃絶決議案」も同様で、10月30日にすでに第一委員会での採択に付されていて、ほぼ同じ投票結果で採択されていた。その時には、コートジボワールは賛成票を投じている。それが、そのまま、国連総会に上がっただけなのに、どうして「欠席」などということになったのか。

ニューヨークの代表部に1人くらいしか外交官がいないような、小さな国の場合なら、他の用事があって投票に参加が出来なかった、という事情がありうる。しかし、ことコートジボワールほどのちゃんとした国に及んで、そういうことはあり得ない。第一委員会で日本の決議に「賛成」し、国連総会で同じ決議に「欠席」する。いったい、どういう意思表示なのか。私は、大使としてたいへん混乱する。

コートジボワールが、日本の決議案の内容に不服を感じているわけはない。第一委員会の採択では、「賛成」を投じているのだから。それでは、国連総会での投票態度を使って、日本に対する、何らか他の点での不服を、伝えてきているのだろうか。「核廃絶決議」は、日本国民の平和への願いがこもった、日本にとって重要な決議であることは、コートジボワールも知っている。あえて、その決議で「欠席」との態度を取って、日本政府に不満を表明しているのだろうか。

そうだとすれば、重大だ。大使としてはいち早く、その不満のもとが何かを探らなければならない。でも、不思議なのは、二国間関係で、コートジボワール側が不満を持つようなことを、最近日本が行ったということがあるのか、全く思い当たらない。

だいたい、国連総会での採択(12月2日)に先だって、11月18日に、私はコートジボワール外務省にコナン外務次官を訪ねている。コナン次官には、第一委員会で賛成を投じてくれたことに感謝しつつ、今度の国連総会でも引き続きよろしく、と伝えた。その時に、コナン次官の応答や態度に、日本側に何かしら留保があるような気配は、全く見られなかった。

11月26日には、バカヨコ外相との間で食糧支援の交換公文署名を行ったときに、外相の執務室で2人だけで話をしている。その時にも、何か日本に対して問題を感じているというような話は、一切出なかった。むしろ、外相は日本の数々の協力に感謝している、今度自分の出身地である北部のセゲラという町に、ぜひ私を招待したい、と極めて和気合々の雰囲気だったのだ。

そうなると一つありうるのは、日本に対しては不満とかそういう問題はないのだけれど、この「核廃絶決議」に支障を感じている国から、何らかの働きかけを受けて、困った挙げ句に、そういう妙な態度を取ったという可能性である。日本の決議に、反対したり棄権したりしている国がいくつかある。そういう国のどこかに、日本には賛成するなと言われたのだろうか。それならそうで、日本に対して、何らかの説明があってしかるべしだ。とにかく、今度のことは、私にとっては、全くの謎である。

外交に謎はつきものながら、謎をそのままにしておくわけにはいかない。コートジボワールが何らかのメッセージを籠めているのなら、それを正しく読みとらなければならない。そして外交において、投げられた球は、きちんと打ち返すということが必要だ。つまり「欠席」というコートジボワールの態度に、日本としては不満があるということも、記録に残るかたちで伝えておかなければならない。

ここはひとつ、直接、外交の責任者に談判に行くしかないようだ。久々に、日本の立場を守るという、外交の出番である。私は、鼻息を荒くしてコナン外務次官に面会を申し込んだ。

(続く)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。