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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

首相の商談

2009-12-03 | Weblog
さて、日本の国祭日、つまり天皇誕生日の祝賀会が近づいてきた。昨年に続いて、今年も盛大に出来るだろうか。昨年来てくれたソロ首相のところに出かけて、今年も来てくれないか、と頼みに行くことにした。ちょうど大統領選挙の期日をやり過ごした直後でもあり、ソロ首相の出席があれば、昨年同様に新聞に取り上げてもらえるだろう。もし出席可能なら、ぜひ少し演壇でしゃべってもらうことも提案しよう。

意気込んで、私は首相官邸に出向く。接客室に先に入って待っていたら、ソロ首相が現れた。私は、挨拶をした後、選挙準備に重要な進展があり、特に暫定版の選挙人名簿が公示されるに至ったのは、ソロ首相の尽力の賜物だ、大いに喜ばしいと述べる。選挙行きのバスは、ゆっくりだけれど、着実に目的地に向かっている。しかも、このバスには関係する政治当事者が全員乗っている。このまま進んで、明年早々には、選挙が行われるように、見通しが示されることが重要と考えている。そう話す。

そして、本題だ。天皇誕生日の祝賀レセプションを行うのですが、昨年同様にいらしていただけますか。そう言ったあと、懐から招待状を取り出して、首相に渡す。
「ああ、そうですね。昨年は、お邪魔しましたね。今年も、出かけたいのはやまやまだが。」
招待状を眺めながら、ソロ首相は言いよどむ。
「12月3日でしょう。ちょうどワガドゥグで、協議継続枠組の会合が開かれる予定なのです。お招きにお応えできないのは、たいへん申し訳ない。」

ああ、そうなのか。そういう日程だったか、と私はがっかりだ。この「協議継続枠組み(CPC)」とは、コートジボワールの政治当事者全員が、ブルキナファソのコンパオレ大統領のところに集まって、大統領選挙にむけて相談をする重要な会議である。ソロ首相は、この会議に必ず出席しなければならないから、私の祝賀会には出られない。本来は11月24日に開催される予定だったのが、暫定版の選挙人名簿の公示が、遅れに遅れた結果、12月3日にまで延期されてしまったのだ。選挙日程の遅れが、このような形で、私にも悪影響を及ぼすとは。

失望を顔に表した私をみて、ソロ首相が言った。
「ちょうど、日本大使にご相談したいと思っていた話があるのです。政府では、アビジャンの交通事情の改善のために、通勤電車を新たに走らせる計画が持ち上がっています。この計画に、日本の企業で関心を持ってくれるところはないでしょうか。」
と、首相が突然言い出した話に、私は目を輝かせてしまう。

こういう計画がある話は、前に聞いたことがある。アビジャン市民にとって、通勤の足といえば自家用車かバスである。地下鉄や路面電車や通勤電車は、存在しない。そのため、朝夕はひどい交通渋滞だ。そしてバスで通う人々は、交通渋滞に巻き込まれる。暑い日差しの中を、朝夕の通勤帰宅のバスの中で、息を詰まらせながら過ごさなければならない。もし、通勤電車が出来れば、多くの人が自家用車から、乗り心地のいい電車に乗り換えるので、交通渋滞も緩和されるはずだ。

鉄道案件というと、大がかりな事業を予想するけれど、実はアビジャンには、市内を縦断する鉄道がすでにある。アビジャン発ワガドゥグ行の長距離鉄道の、アビジャン市内部分と、その延長の港への引き込み線などだ。この鉄道線を整備して活用すれば、通勤用の車両と、車両運行のシステムを導入するだけで、通勤電車は実現可能である。

日本は、鉄道分野で強みがある。新幹線はもちろんながら、在来線の鉄道についても定評がある。優秀な鉄道車両を造る能力があるだけでなく、そうした車両を定時運行させるシステムを確立している。日本の持つ総合的な鉄道建設能力が評価され、近年日本の民間関連企業が受注する、鉄道関連の大型プロジェクトが数多くある。私のかつて勤務したインドでも、首都デリーの地下鉄を、日本が建設した。

「重債務国であるコートジボワールですから、新たな借款をお願いすることは出来ず、したがって政府に資金協力を求めるというのではないのです。民間契約ベースで、鉄道建設の工事に関心を持ってくれる、日本の企業を探しているのです。」
ソロ首相がそう言うのは、日本の企業に、鉄道分野での優位性があるということを、よく知っているからかもしれない。近々、大統領選挙が行われれば、民間貿易・投資が活発になるであろう。そうした時に、日本の企業がこのコートジボワールに進出するきっかけとして、通勤電車の案件に参加していくというのは、たいへん面白いではないか。

首相自ら持ちかけてきた商談である。私は、日本の民間企業側に伝達すると述べた。ソロ首相は、ワガドゥグの会議から戻ってきたら、またゆっくりお話ししたい、と言った。国祭日の祝賀会にソロ首相の出席を得る、という目的は果たせなかったけれど、どうももっと大きな課題を手に入れたようである。

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