もう一つの案件は、コトヌから西に160キロ離れたトビクラン町(Toviklin)の案件である。トビクラン町の周辺5ヶ村のそれぞれに、農作物倉庫と、農作物の加工場・乾燥場を建設する事業で、これも地元の女性団体「フェナテル(FE-NATEL)」が、事業への協力を申請してきた。
農作物の生産は、自然条件に大きく左右される。ベナン南西部は、乾季と雨季の極端な気候の変化があり、雨季に育てた作物を収穫して、それを乾燥・保管して、乾季の数ヶ月の食料にする。そのための農作物の乾燥場・倉庫が必要である。また、農作物の価格は、季節により極端に変化する。収穫期には農作物が市場に豊富なので、価格は安い。これをうまく加工・保管して乾季に売れば、はるかに高い価格で売り捌くことが出来る。
農家のおかみさんたちは、トウモロコシ、キャッサバ、玉ねぎなどの作物を、出来るだけ家で乾燥・保管して、価格が高くなってから売りに出すように試みてきた。しかし、椰子の葉で建てたような自宅の倉庫で保管しても、湿度の高い気候の中では、カビや腐敗などで劣化してしまう。またネズミなどの被害にも遭う。収穫物の4割方は駄目になり、また市場価値も下がってしまう。加工処理、乾燥にしても、各戸の竈での加工、地面に広げての乾燥では、質が落ちる。作業効率も悪く、天候に左右される。
そこで、5ヶ村に、倉庫兼加工場・乾燥場の建物を建設して、質の高い保存食料を、もっと効率良く仕上げることができるようにしようというのだ。生産能力は、5ヶ所の施設の合計で150トン。この施設を使えば、女性たちの手による農作物加工品の生産が飛躍的に増大し、安定した食糧備蓄が出来るようになる。それとともに、農作物加工品の販売により、見積もりではおよそ50倍の収入増につながると考えられている。日本の協力は、「農作物倉庫・乾燥場建設計画」:総額5万8千ユーロ(約1千万円)として始まった。これも今年の4月に合意署名してから、半年余りで建設が完了した。
ベナンに出張した機会に、私は丸一日を割いて、「女性研修センター」と「農作物倉庫・乾燥場」の2つの案件の現場を順に訪れて、完成式を取り行ってきた。どちらの施設も、真新しく仕上がっていて、私はたくさんの女性組合員たちに囲まれて、大歓迎を受けた。そして、テープカットを行い、喜びにあふれる農家のおかみさんたちと一緒に、愉快な時間を過ごした。女性たちは、新しい施設を使って、新たな活動の次元が広がることに、皆が大きな夢を語っていた。
私は、双方の会場で、挨拶の言葉として述べる。
「アフリカの農村では、男も女も働き者です。でも、女性の方がもっと働き者です。夫婦揃って畑に出て、一日働いて、家に帰ってくる。夫は、ラジオを聞いて、一杯ひっかけて、それで寝ます。でも、妻のほうは、それからまだ働くのです。料理して、掃除洗濯をして、子供の面倒を見なければならない。」
そうだ、そうだというように、参集の女性たちが鐘を打ち鳴らす。
「私は、女性団体の事業だ、と聞くと、任せて大丈夫だ、と思うのです。それは、第一に女性が働き者だからです。第二に、女性は家の切り盛りをしているから、経営の何たるかを知っているからです。第三に、女性は家の掃除をしているから、維持管理に長けているからです。だから、安心できる。日本が協力して建てた施設を、女性組合ならばこそ、ちゃんと有意義な活動に、そして末永く大事に使ってくれるでしょう。」
鐘がじゃんじゃん打ち鳴らされる。
一緒に式典に参加した、ベナン政府の家族・女性問題省の局長は、今回の日本の協力は、女性たちを対象としているゆえに、開発や社会問題解決に一層大きな意義があるのだ、と私に話す。
「女性の識字教育などは、ほんとうに重要なことなのです。私たちベナン政府の社会開発担当の諸機関が、地方に出かけていろいろな啓蒙活動を行うにしても、対象の女性たちの側に読み書きの能力がなければ、効果は極めて乏しいし、持続しない。教えられたことを、家族に持ち帰って実践するのは、結局は女性なのですから。研修センター新築のおかげで、多くの研修活動が可能になり、女性たちの知的手段が向上すれば、政府の事業にも大いに助けになります。」
研修センターを活用して、女性たちの意識や生活がこれから変わっていくことこそが、ほんとうの成果である。
さらに、局長は続ける。
「ベナンの地方の村落では、まだまだ女性への抑圧が強いのです。女性への差別、暴力、そして強制結婚などが、頻繁に見うけられます。だから、子供の養育などで、より多くの現金を必要とする女性の側が、しっかりした収入源を見出すことは、女性の地位向上にたいへん大きく寄与します。」
加工・乾燥・貯蔵により、農作物を町に商品として売りに出すことが出来るようになるというのは、女性にとって、単に生活に余裕が出来るという以上の意味がある。
「女性抑圧の悪循環という現象があります。とくに夫との死別や離婚などで寡婦になってしまうと、子供が育てられなくなる。そうすると母親は仕方なく、娘を売りに出す、つまり強制結婚に出したりしてしまう。そうして、また新たに、女性抑圧の被害者を生んでいくのです。もし女性に、自活収入の道があれば、そういう悲劇の悪循環は避けられます。」
女性には大きな能力がある一方で、社会のなかでは脆弱なゆえに、多くの陥穽がある。このたびの経済協力案件は、そうした女性の弱さを補い、自立を助けるものなのだ。日本が協力した施設が、女性の地位向上に寄与するだけでなく、社会に根強く残る女性への抑圧を防止することに役立ってほしいと願う。 穀物保存のための倉庫
農作物の乾燥所
乾燥所内のこの釜で穀物を乾かす
釜を温める外の焚き口
右は「フェナテル」代表のナタブさん 歓迎の農村女性陣
リズムとともに踊りだす
お揃いのTシャツ
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