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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

女性と政治参加

2009-11-24 | Weblog
「アフリカ女性の政治についてのフォーラム」の第二回会合(11月12日)がある、というので招待された。西アフリカ地域の各国で、これからいろいろな選挙がある。その機会に、女性の政治参加を実現していこうという、各国の女性活動団体による運動であり、昨年ガーナで開催したものに続いての第二回会合であるという。会合の趣旨についてはさておき、バグボ夫人が基調演説をする、というので出かけることにした。

バグボ大統領の夫人、シモーヌ・バグボ女史は、ファースト・レディと呼ばれている。でも、いわゆるファースト・レディ、首脳の夫人というだけの存在ではない。バグボ大統領の政党である「人民党(FPI)」の、創設者の一人である。つまり、もともと政治家の女性である。党員どうしで結婚したら、たまたま夫が大統領になった、ということなのかもしれない。

だから、夫の大統領と一緒に現れることもあるけれど、別々の政治活動もしている。アビジャンのアボボ地区から国会議員になり、国会ではFPIの議員団長を務める。そして、町や村をこまめに訪問して、草の根の政治活動を続けている。若者層を中心に、根強い人気がある。演説もうまいという。そのバグボ夫人の演説を、はじめて聞く機会だ。

会場には、ガーナ、リベリア、セネガル、ナイジェリア、ケニアなどから、女性として政治に参画している人々、活動家の女性たちが、出席している。政治関係者でも、女性として見事に着飾っている。色鮮やかな衣装、大仰な頭飾りで、会場は華やいでいる。

女性の活動家から、何人も演説が続く。議員選出の女性枠拡大などの数量的な要求だけでなく、重要な職責を要求するなど質的な進出が必要だ。政治の決定過程において、女性の考え方を反映させることが重要だ。アフリカ初の女性大統領、リベリアのジョンソン=サーリーフ大統領が成功して見せることが、何より女性進出の励みになる。そうした議論が出た後に、バグボ夫人が登場した。

バグボ夫人は、女傑で偉丈夫なのかと思っていたら、意外に小柄である。そして、力強く演説するのかと思いきや、丁寧に各方面に挨拶してから、女性の政治進出は重要な課題であり、皆さんが日ごろから頑張っておられるとか、コートジボワールでは以前は女性が政治をするなど問題外だったのが、今では女性閣僚も当たり前になったとか、まあ誰でも出来るような話をだらだらしている。

ちょっと演説に退屈しはじめた頃に、バグボ夫人は少し声の調子を変える。
「女性の政治進出にとって、最大の敵は、女性自身です。」
会場がざわつく。
「女性が女性だからといって持っている、卑屈な精神こそが、最大の敵なのです。自分たちは、男には負けると、心のどこかで思っている。政治に取り組むはじめから、劣等感を持っている。それをまずはなくさなければなりません。」
会場から拍手がわく。

バグボ夫人は、皆で劣等感を克服しようという気勢をあげるつもりだな、と思っていたら、何とどんどん女性批判をはじめた。
「女性の劣等感には、理由がある。女性たちは、政治というものを理解出来ていない。政治というのは、政治家になるだけの問題ではないのです。政治家としてどう振舞うべきか、何を耐え何に力を尽くすか、人々にどう接しどう説得するか、実践を通じて身につけていかなければならない。男性はそれを、社会の中で日々行ってきている。ところが、多くの女性たちは、政治参加を要求しつつも、政治に取り組むとはそもそも何かについて、学んでいないのです。」

そうして、聴衆の女性たちを黙らせておいて、解決のための視点を投げかける。
「女性の割合を高めろといった要求をする前に、まずは政治の出来る女性にならなければならない。女性たちに、政治家になるための修練が必要です。学歴や資格を得ただけでは、政治家にはなれません。とりわけ政治過程のなかに実際に入って、じっくり政治家としての鍛錬を重ねることが、女性たちにこそ必要なのです。こうした政治家としての研修の機会を、女性たちがどうやって獲得していけばいいのか、これが一つの課題です。」

一息おいてから、もう一つ視点を提示する。
「そして、忘れてはなりません。政治というのは、単に選挙で勝って、議員になることではありません。政治家として、どういう社会を築いていくのか、どういう未来を求めるのか、将来の展望(vision)が最も重要なのです。社会がどんどん変わっていく。新しい問題がどんどん出て来る。そういう中で、政治家としてどういう答えを持っているのか、どういう解決策を用意しているのか、と人々から聞かれる時が、必ず来る。その時に、人々が希望を見出すような答えを、まさに女性だからこそ提示できるでしょう。それが、女性として政治を行う、最大の力なのです。」

わーっと声が上がって、拍手になった。ちょっと押さえつけられた感情が、突破口を与えられて喜びに変わる。さすがに勘所を得た演説であった。とくに最後の点など、男性女性の問題ではなく、政治家全体に求められる話だ。バグボ大統領も奥方からこの話を聞いているのだろうか。そう思いながら、私も大いに拍手を送った。

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