(・・・少年はヤクバとともに、さらに西に移動。ドー大統領が後述のとおりプリンス・ジョンソンに殺害された後に、旧ドー勢力が結成した「リベリア統一解放運動(ULIMO:United Liberation Movement for Democracy in Liberia)」の一派に、少年兵として加わる。ULIMOの勢力範囲は、ダイヤモンドと金の鉱山を支配下においており、少年兵たちは、その鉱山や鉱夫たちの護衛や監視の仕事を請け負って、麻薬代を稼いでいた。
いくつかの逸話のあと、少年が属している一派が、テイラーのMPFLの攻撃を受けて駆逐される。少年たちは更に南に移動して、プリンス・ジョンソンの「独立愛国国民戦線(INPFL:Independent NPFL)」に合流する。小説は、プリンス・ジョンソンが、1990年9月にドー大統領を殺害したいきさつを描く。)
ここに、3番目の盗賊、プリンス・ジョンソン(Prince Johnson, 1959-)が登場する。ジョンソンは、かなりの妄想家であった。そして、妄想家というのは、議論が出来ない相手だ。妄想家というのは、お金で取引することはできない相手だ。そのことを、ドー大統領も思い知ったのであるが、ちょっと遅すぎた。それが分かったとき、ドー大統領はバラバラにされていた。
ちょうど正午を過ぎた頃、西アフリカ平和維持軍(ECOMOG)の将官が、リベリアの首都モンロビアの港に陣取っている、ジョンソンの陣営にやってきた。ECOMOGは、国連の要請に基づいて、リベリアの兵力引き離しのために駐留している、西アフリカ諸国合同の平和維持部隊である。
ECOMOGの将官はジョンソンに、今、ドー大統領が、ECOMOG駐屯地の参謀本部に来ている、と言った。90人の護衛兵と一緒ではあるけれど、ドー大統領本人も含め、護衛兵はみな、駐屯地の入り口で武器を置いて丸腰である。それがECOMOGのきまりであるから。
ドー大統領はECOMOGの参謀長に、自分とジョンソンの間の、仲を取り次いでほしい、と頼んできたという。リベリアは、内戦で分裂して疲弊している、とドー大統領は言う。ジョンソンは、反乱軍MPFLのテイラーと、袂を分かって出てきた一派だ。自分と組めるはずである。ジョンソンとの間で、同盟を組む協議をしたい。わが祖国は、これまであまりにも戦争に蹂躙されすぎてきた。
ジョンソンは、「主よ、イエスよ」と叫んだ。このような幸運が巡ってこようとは、信じられない。そして冷静になって、ECOMOGの将官に言った。私も全く同じ事を考えていた。私も戦争に疲弊している。ドー大統領は、真の愛国者だ。私は今から彼に会いにでかけ、彼に抱擁して接吻しよう。
ECOMOGの将官は、参謀本部に帰るや、その口上をドー大統領にそのまま伝えた。ドー大統領は、この甘い言葉を信じて、参謀本部で煙草を吹かし、ジョンソンの来るのを待った。かたやジョンソンは、帰っていく使者の背中を見て、笑いを堪えきれなかった。すぐそこに、リベリアの国民をさんざん痛めつけ、悪徳の限りを働いた悪魔が、無防備で待っている。私は神の意志で、民族の戦いを進めている。神の命令で、悪魔を葬り去らなければならない。
20人ほどの精鋭を選んだ。ジープの座席の下に、武器を隠し込んで、ジョンソンはECOMOGの駐屯地に向かった。入り口でも、武器は発見されず、まんまと通過した。参謀本部の中に入り込むや、ジョンソンとその精鋭たちは、まずドー大統領の90人の護衛兵を皆殺しにした。2階にいたECOMOGのガーナ人司令官は、ドー大統領を掴んで1階に下ろし、ジョンソンのジープに押し込んだ。司令官の手際はあまりに素早く、ECOMOGの兵士たちが何もできないうちに、ドー大統領の身柄は引き渡された。
ジョンソンの陣地に連れてこられ、ドー大統領は地面に転がされ、殴りつけられ、叩かれた。
「お前だな、大統領になるために戦争をした男は。お前など、悪魔だ。悪魔が取り憑いた男だ。武器の力を借りて、大統領で居続けた男だ。」
ジョンソンは、ドー大統領の耳を掴んで、そう叫んだ。
「お前は、私と話をしたいというのか。誰が悪魔などと話をするか。」
ドー大統領は、両耳をそぎ落とされた。そして、指を落とされ、舌を切られ、腕を切断され、脚を切られようとしたときには、すでに出血多量で事切れていた。
(プリンス・ジョンソンは、リベリアに広がる天然ゴム農園を恐喝して、金を巻き上げる稼業をはじめる。そのうちに他の軍事勢力も介入し、天然ゴム農園の領分争いが血腥く繰り広げられるようになる。主人公の少年は、叔母を尋ねて更に西隣のシエラレオネに向かい、放浪の旅を続ける。)
(第二~四章終わり)
==========
というわけで、小説はリベリアを離れる。シエラレオネでも、常軌を逸した内戦の無慈悲が、繰り広げられる。この小説の続きは、また話題がシエラレオネに移るときにでも、お伝えすることとしよう。
いくつかの逸話のあと、少年が属している一派が、テイラーのMPFLの攻撃を受けて駆逐される。少年たちは更に南に移動して、プリンス・ジョンソンの「独立愛国国民戦線(INPFL:Independent NPFL)」に合流する。小説は、プリンス・ジョンソンが、1990年9月にドー大統領を殺害したいきさつを描く。)
ここに、3番目の盗賊、プリンス・ジョンソン(Prince Johnson, 1959-)が登場する。ジョンソンは、かなりの妄想家であった。そして、妄想家というのは、議論が出来ない相手だ。妄想家というのは、お金で取引することはできない相手だ。そのことを、ドー大統領も思い知ったのであるが、ちょっと遅すぎた。それが分かったとき、ドー大統領はバラバラにされていた。
ちょうど正午を過ぎた頃、西アフリカ平和維持軍(ECOMOG)の将官が、リベリアの首都モンロビアの港に陣取っている、ジョンソンの陣営にやってきた。ECOMOGは、国連の要請に基づいて、リベリアの兵力引き離しのために駐留している、西アフリカ諸国合同の平和維持部隊である。
ECOMOGの将官はジョンソンに、今、ドー大統領が、ECOMOG駐屯地の参謀本部に来ている、と言った。90人の護衛兵と一緒ではあるけれど、ドー大統領本人も含め、護衛兵はみな、駐屯地の入り口で武器を置いて丸腰である。それがECOMOGのきまりであるから。
ドー大統領はECOMOGの参謀長に、自分とジョンソンの間の、仲を取り次いでほしい、と頼んできたという。リベリアは、内戦で分裂して疲弊している、とドー大統領は言う。ジョンソンは、反乱軍MPFLのテイラーと、袂を分かって出てきた一派だ。自分と組めるはずである。ジョンソンとの間で、同盟を組む協議をしたい。わが祖国は、これまであまりにも戦争に蹂躙されすぎてきた。
ジョンソンは、「主よ、イエスよ」と叫んだ。このような幸運が巡ってこようとは、信じられない。そして冷静になって、ECOMOGの将官に言った。私も全く同じ事を考えていた。私も戦争に疲弊している。ドー大統領は、真の愛国者だ。私は今から彼に会いにでかけ、彼に抱擁して接吻しよう。
ECOMOGの将官は、参謀本部に帰るや、その口上をドー大統領にそのまま伝えた。ドー大統領は、この甘い言葉を信じて、参謀本部で煙草を吹かし、ジョンソンの来るのを待った。かたやジョンソンは、帰っていく使者の背中を見て、笑いを堪えきれなかった。すぐそこに、リベリアの国民をさんざん痛めつけ、悪徳の限りを働いた悪魔が、無防備で待っている。私は神の意志で、民族の戦いを進めている。神の命令で、悪魔を葬り去らなければならない。
20人ほどの精鋭を選んだ。ジープの座席の下に、武器を隠し込んで、ジョンソンはECOMOGの駐屯地に向かった。入り口でも、武器は発見されず、まんまと通過した。参謀本部の中に入り込むや、ジョンソンとその精鋭たちは、まずドー大統領の90人の護衛兵を皆殺しにした。2階にいたECOMOGのガーナ人司令官は、ドー大統領を掴んで1階に下ろし、ジョンソンのジープに押し込んだ。司令官の手際はあまりに素早く、ECOMOGの兵士たちが何もできないうちに、ドー大統領の身柄は引き渡された。
ジョンソンの陣地に連れてこられ、ドー大統領は地面に転がされ、殴りつけられ、叩かれた。
「お前だな、大統領になるために戦争をした男は。お前など、悪魔だ。悪魔が取り憑いた男だ。武器の力を借りて、大統領で居続けた男だ。」
ジョンソンは、ドー大統領の耳を掴んで、そう叫んだ。
「お前は、私と話をしたいというのか。誰が悪魔などと話をするか。」
ドー大統領は、両耳をそぎ落とされた。そして、指を落とされ、舌を切られ、腕を切断され、脚を切られようとしたときには、すでに出血多量で事切れていた。
(プリンス・ジョンソンは、リベリアに広がる天然ゴム農園を恐喝して、金を巻き上げる稼業をはじめる。そのうちに他の軍事勢力も介入し、天然ゴム農園の領分争いが血腥く繰り広げられるようになる。主人公の少年は、叔母を尋ねて更に西隣のシエラレオネに向かい、放浪の旅を続ける。)
(第二~四章終わり)
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というわけで、小説はリベリアを離れる。シエラレオネでも、常軌を逸した内戦の無慈悲が、繰り広げられる。この小説の続きは、また話題がシエラレオネに移るときにでも、お伝えすることとしよう。
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