パパ大佐は、「国民愛国戦線」(NPFL:National Patriotic Front of Liberia)のゾルゾル(Zorzor)地区の代表だった。「国民愛国戦線」にとって一番北の部署であり、ギニアへの密輸を管理できる、要衝の地であった。パパ大佐は、テイラー派のなかで重要な人物だったのだ。
テイラー(Charles Taylor, 1948-)とは誰か。はじめは国家の役人として、リベリアの国庫から公金横領をした。書類を書き変えて、あたかも政府の資金は、米国の口座に預けてあるように見せかけた。実はそんな口座などなく、資金は横領されてからっぽだ、と分った時に、テイラーは訴追された。テイラーは米国に逃げて、でもとうとう捕まった(1984年)。
すぐに看守に賄賂を払って脱獄、リビアのカダフィ大佐のもとに行く。テイラーは、リベリアのサミュエル・ドー独裁政権に敵対する勢力の長である、と自己紹介した。カダフィ大佐は、テイラーの口に接吻して歓迎した。カダフィ大佐は、ドー政権を揺さぶってやろうと考えていたからだ。テイラーは、リビア国内のテロリスト養成所に送られ、ゲリラ戦の訓練を受けた。
カダフィ大佐は、テイラーを、ブルキナファソのコンパオレ大統領に紹介した。コンパオレ大統領は、テイラーを、コートジボワールのウフエボワニ大統領に紹介した。ウフエボワニ大統領は、義理の息子を殺したドー大統領に腹を立てていた(注)。それでウフエボワニ大統領も、テイラーの口に接吻した。コンパオレ大統領が、テイラーに兵隊と訓練をつけ、ウフエボワニ大統領はテイラーに武器を買ってあげた。
(注)トルベール大統領の長男は、ウフエボワニ大統領の娘婿になっていた。ドーがクーデタでトルベール大統領を殺害した後、この長男も投獄の上殺害した。
こうして単なる盗人は、ひとかどの人物になった。テイラーは、バルンガ(Gbarnga)に住んで、ときどき大統領のいる「マンション・ハウス」(大統領公邸)にむけて攻め上り、人がたくさん死んだ。どうして、カダフィ大佐、コンパオレ大統領、ウフエボワニ大統領が、彼を支援したかって。それはいわゆる、アフリカ独裁者たちの政治力学、というわけなのだ。
いずれにしても、テイラーは誰かれなく迷惑をばらまいた。リベリアの国全体が、盗賊どもに人質にとられた。盗賊どもは、標語を掲げた。
「テイラーなくして平和なし」
それは1993年ころを境に、現実のことになった。
パパ大佐の母親は、モンロビア(注:リベリアの首都)の酒場を渡り歩いているうちに、ロバートを産んだ。だから父親が誰かは分らない。母親が水夫と結婚することになったとき、水夫が子供を要らないといったので、ロバートを孤児院に預けた。
ロバートは勉強をした。牧師になりたいと、米国に勉強に出た。米国からリベリアに帰って、聖職に就こうとしたけれど、遅すぎた。内戦が始まっていたのだ。教会も何もかも、無くなっていた。ロバートは、町のあちこちで浮浪少年たちを見た。それは自分の少年時代を思い起こさせた。少年たちを集めて、ご飯を食べさせた。孤児たちは、彼を「パパ」と呼んだ。
この慈善活動は、世界中で有名になった。多くの人々が、彼の活動を支援しようとした。これはドー大統領には面白くなかった。ドー大統領は、パパを抹殺しようとした。暗殺を辛くも逃れて、パパはドー大統領の宿敵、テイラーのもとに行った。テイラーは彼を「大佐」に任命し、重要な責任を与えた。国境の町ゾルゾルを監督し、通行税を徴収するという役割であった。
ゾルゾルは、ヤク族(Yacous)とギオ族(Gyos)の町であった。そして、彼らにとって、ゲレ族(Guérés)とクラン族(Krahns)は仇敵であった。ゲレ族かクラン族の人は、ゾルゾルに来れば、拷問の上殺された。それが、部族紛争の掟である。
(・・・小説では、主人公の少年は、兵士に採用され、カラシニコフを与えられて訓練を受ける。ヤクバは、弾に当たらない呪術を知っているということで、パパ大佐から重宝される。ある日、パパ大佐は詰らない喧嘩から、少年兵の一人に銃撃され、ヤクバの呪術にかかわらず死ぬ。主人公の少年は、ヤクバや、仲間の数人の少年兵たちとともに、さらに西を目指して歩き出す。小説では、何人もの少年兵や、少女兵の不幸な出自をたどる。
主人公の少年の目を通して、少年兵たちがおよそ非人間的な生活をおくり、人の生死に無関心な行動をとっていく様子が、同じやるせない調子で描写される。ここでは、これらは省略する。小説は、続いて、ドー大統領の来歴について語る。)
(続く)
テイラー(Charles Taylor, 1948-)とは誰か。はじめは国家の役人として、リベリアの国庫から公金横領をした。書類を書き変えて、あたかも政府の資金は、米国の口座に預けてあるように見せかけた。実はそんな口座などなく、資金は横領されてからっぽだ、と分った時に、テイラーは訴追された。テイラーは米国に逃げて、でもとうとう捕まった(1984年)。
すぐに看守に賄賂を払って脱獄、リビアのカダフィ大佐のもとに行く。テイラーは、リベリアのサミュエル・ドー独裁政権に敵対する勢力の長である、と自己紹介した。カダフィ大佐は、テイラーの口に接吻して歓迎した。カダフィ大佐は、ドー政権を揺さぶってやろうと考えていたからだ。テイラーは、リビア国内のテロリスト養成所に送られ、ゲリラ戦の訓練を受けた。
カダフィ大佐は、テイラーを、ブルキナファソのコンパオレ大統領に紹介した。コンパオレ大統領は、テイラーを、コートジボワールのウフエボワニ大統領に紹介した。ウフエボワニ大統領は、義理の息子を殺したドー大統領に腹を立てていた(注)。それでウフエボワニ大統領も、テイラーの口に接吻した。コンパオレ大統領が、テイラーに兵隊と訓練をつけ、ウフエボワニ大統領はテイラーに武器を買ってあげた。
(注)トルベール大統領の長男は、ウフエボワニ大統領の娘婿になっていた。ドーがクーデタでトルベール大統領を殺害した後、この長男も投獄の上殺害した。
こうして単なる盗人は、ひとかどの人物になった。テイラーは、バルンガ(Gbarnga)に住んで、ときどき大統領のいる「マンション・ハウス」(大統領公邸)にむけて攻め上り、人がたくさん死んだ。どうして、カダフィ大佐、コンパオレ大統領、ウフエボワニ大統領が、彼を支援したかって。それはいわゆる、アフリカ独裁者たちの政治力学、というわけなのだ。
いずれにしても、テイラーは誰かれなく迷惑をばらまいた。リベリアの国全体が、盗賊どもに人質にとられた。盗賊どもは、標語を掲げた。
「テイラーなくして平和なし」
それは1993年ころを境に、現実のことになった。
パパ大佐の母親は、モンロビア(注:リベリアの首都)の酒場を渡り歩いているうちに、ロバートを産んだ。だから父親が誰かは分らない。母親が水夫と結婚することになったとき、水夫が子供を要らないといったので、ロバートを孤児院に預けた。
ロバートは勉強をした。牧師になりたいと、米国に勉強に出た。米国からリベリアに帰って、聖職に就こうとしたけれど、遅すぎた。内戦が始まっていたのだ。教会も何もかも、無くなっていた。ロバートは、町のあちこちで浮浪少年たちを見た。それは自分の少年時代を思い起こさせた。少年たちを集めて、ご飯を食べさせた。孤児たちは、彼を「パパ」と呼んだ。
この慈善活動は、世界中で有名になった。多くの人々が、彼の活動を支援しようとした。これはドー大統領には面白くなかった。ドー大統領は、パパを抹殺しようとした。暗殺を辛くも逃れて、パパはドー大統領の宿敵、テイラーのもとに行った。テイラーは彼を「大佐」に任命し、重要な責任を与えた。国境の町ゾルゾルを監督し、通行税を徴収するという役割であった。
ゾルゾルは、ヤク族(Yacous)とギオ族(Gyos)の町であった。そして、彼らにとって、ゲレ族(Guérés)とクラン族(Krahns)は仇敵であった。ゲレ族かクラン族の人は、ゾルゾルに来れば、拷問の上殺された。それが、部族紛争の掟である。
(・・・小説では、主人公の少年は、兵士に採用され、カラシニコフを与えられて訓練を受ける。ヤクバは、弾に当たらない呪術を知っているということで、パパ大佐から重宝される。ある日、パパ大佐は詰らない喧嘩から、少年兵の一人に銃撃され、ヤクバの呪術にかかわらず死ぬ。主人公の少年は、ヤクバや、仲間の数人の少年兵たちとともに、さらに西を目指して歩き出す。小説では、何人もの少年兵や、少女兵の不幸な出自をたどる。
主人公の少年の目を通して、少年兵たちがおよそ非人間的な生活をおくり、人の生死に無関心な行動をとっていく様子が、同じやるせない調子で描写される。ここでは、これらは省略する。小説は、続いて、ドー大統領の来歴について語る。)
(続く)
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