冒頭五分ぐらいのシーンです(OP前)
死因を思い出す理由が抜けていたので追加しました(8/4)
「レディ・アップキープ・ドローフェイズで1枚ドロー、すぅう、
レディ・アップキープ・ドローフェイズで1枚ドロー、すぅ。
レディ・アップキープ・ドローフェイズで1枚ドロー」
店長は救急車に載せられて病院まで搬送されていった。
「レディ・アップキープ・ドローフェイズで1枚ドロー、すぅ。
レディ・アップキープ・ドローフェイズで1枚ドロー、すぅ、
レディ・アップキープ・ドローフェイズで1枚ドロー」
表通りまで運んでいってそこで救急車に乗せたから大丈夫だろう。
先に警察に通報したというのにまだ来ないパトカーに察するものがあるが、どうやら推定秘密結社か邪悪なカードの悪魔とかそういう類は治安機関にしか手が伸びていないらしい。
「レディ・アップキープ・ドローフェイズで1枚ドロー、
レディ・アップキープ・ドローフェイズで1枚ドロー、
レディ・アップキープ・ドローフェイズで1枚ドロー」
さて、何もなければ一旦店まで戻って私物の回収や、契約している警備会社への通報、あと保険会社への連絡とかなど色々やらないといけないんだが……
「レディ……もういいか」
息を吐く。
息を吐きながら、壁に手を当てて。
「すてえい!!!」
蹴りをいれた。
「ステイ! ステイ! ステイ!!」
蹴りを入れる。
蹴りを入れる。
蹴りを入れる。
壁がひび割れるが、知らん! 人体にやったらまた肋骨へし折りそうな威力をいれて。
「すてえええええええええええええええええ、っぱい!!」
つま先をねじ込んで、息を吐いた。
「はぁぁぁあああ………………やばいって」
ちょっとした痛みと引き換えに落ち着いた。
やばいって。
マジでさぁ。
生乳で当ててんのよは、いけないと思うのです。
健全な男子高校生なんて繁殖適応時期だからよ。
僕が一般的な青少年だったらとてもお茶の間に見せられないようなことしてたわ。むしろ警察呼んでるからいつくるかわからないハラハラ状態じゃなかったらどうにかなってたわ。いや結局警察こなかったけどよ。
「まったくあれだから、僕が
しばし、荒れ狂う情熱、いや性欲を地団駄で誤魔化す。
「………よし、落ち着いた」
帰ったらまた筋トレでもしようと心に決めて、アホな路線に傾いていた思考を戻す。
これからどうするか。
選択肢は3つあると思う。
①――警察に駆け込む?
黒服共はとりあえず足を使えなくしておいたし、プロフェッサーのカードは風に飛ばされなさそうな場所においておいた。あとで鬼電するなり、奪ったエリートっぽい黒服の端末から火事の通報でもしておけばさすがに来るだろう。
②――家に帰る?
日常に戻るとするならばそれ一択だ。
念の為帰りに店長が搬送されたはずの病院に寄って安全確認する必要があるだろうが、修理代とか保険をどうするか一応大人の店長と相談したほうがいいだろう。あ、扉開けっ放しとか、監視カメラとかで警備会社がすっとんできてるかもしれない。うっわ、マジめんどくさい。大変だ、これ。
③――もうちょい冒険する。
「3、だな」
息を吸い、ゆっくりと吐きながらポケットに突っ込んでおいたスマホ――僕のものじゃないそれを開く。
生体認証式のロック、それを偶然にも気絶していたエリート黒服の手を使って解除した彼の私物。
それに写っていたのは。
「助けにいくか」
MeeKingの常連である女子中学生。
祇浄ユウキちゃんが確保されたという内容だった。
◆
目が覚めると知らない天井だった。
「どこ、ここ……ぐぺ!」
起き上がろうとして、出来なかった。
足が、いや、全身が動かなかった。
「え、えぇ~~?!」
冷たくて、硬い床。
頑張って自分の身体を見下ろすと、私の胸当たりと足首に縄が巻き付けてあった。
特に遮るものがなかったから見えた光景。
え、私捕まってる?
フィクションでしかみたことがない状態になっている自分。
「嘘、え、うそ?」
周りを見る、真っ暗な何も無い部屋だった。
いや、明かりはある。あるけど小さくて赤い、なんていうかロボファイターのセンサーみたいな……センサー?
思い出した。
そうだ、私、あのロボファイターとファイトしたんだ。
相手のライフを吸収するっていう人工? ダークネス装置と疑似(?)闇の領域。
ファイトのダメージが現実になってしまうフィールドに、ライフを使えば使うほど疲れてしまう装置。
アイーシャとお父さんの形見のカードのおかげでなんとか戦って、勝てたけど……まさか中の人なんていないロボットのファイターなんてズルすぎるよ。
しかもなんか沢山の怪しい人たちに囲まれてバチって……
「ッ、デッキ!!」
身動ぎしながら、いつも腰につけてるデッキホルダーを探す。
けど、感触がない。
「身動きができない状態で、人のデッキを取るなんて……」
卑怯だよ!
なんて言ってる場合じゃない!
どうしょう。
これじゃアイーシャに助けてもらうことも出来ない。
いや、むしろこれからどうなるんだろう。
なんか私、狙われてる?
精霊使いだとか、特別なスピリットを感じるだとか、よくわかんないこといわれてたけど。
「う~ん……う~~ん」
……どうしょう、これ。
このままだとまずいよね。
家からコッソリ抜け出しちゃったからお母さんも朝になったら多分気づくし、心配するはず。
警察とか呼ばれちゃって探されちゃうとか。
どうしょう、心配させちゃう。どうしょう。
「ふ~ッ゛! ふ~ッ゛!」
なんとかでなきゃと思って、力をいれたり、ゴロゴロ転がるけど動けない。
起き上がろうとする。
「んん゛ん゛」
け、ど、むり!
「どうしょぉ~~」
困ったよぉ、
キンッ。
と思ってたら、なんか変な音がした。
目を必死に向けると、閉まっていたはずの扉が……え、開いて。
「えっ、貴方は……」
そこから見えた人影に、私は――
◆
というわけでメガバベル社日本支部に侵入した。
いやあ大変でしたね。
なんか未だにこねえ警察のパトカーに警戒しながら、黒服のスーツを剥ぎ取ったのは。
なんか本当に来るのか? と思いながら、黒服共の服から財布や名刺入れ、パスケースから社員証を奪ったのは。
なんか遅すぎるわと思いながら去ってから聞こえたパトカーの音を背に、コンビニで整髪剤を買ったのは。
なんかこんなので通るわけがないよな? と思いながら、全員揃ってサングラスと黒服スーツだから、ヘアセットしてサングラスして社員証の照合だけで入館出来てしまったのは。
いやあ大企業も大変ですね。
おい、セキュリティコンプライアンス強化しろよ。
「……妙に人の出入りが激しいな」
眼下を慌ただしく走り抜ける黒服だの、駐車場から出ていく複数のトラックだのを見つめながら、飛び降りる。
監視カメラはあるはずだが、まあある程度高い位置を進めばいいだろう。
最悪捕まりそうだけど、こちとら闇のファイトとやらで殺されかけたんだ。ビビるどころかちょっとキレてる、自棄になってるから怖くない。
「……いや、これもアニメ補正ってやつか?」
口の中で留まるように呟く。
通路の梁に掴まり、移動しながら考える。
闇のカードに、闇のファイト。
この2つの存在は、どう考えてもこの世界が何らかのLifeのフィクション……漫画か、アニメか、あるいはソシャゲかゲームかわからないが、だということを示していた。
もちろんこの世界は僕にとっては今や
しかしだ、前世ではただのカードゲームだったTCGのLifeがこんな社会に浸透している。
なによりも――政治や経済に並んでTCGが支配してるっていう世界おかしいだろ。
社会というか公共はどこいった、公共は。Lifeが社会の常識? そっかぁ(諦め)
まあそんなある意味現実逃避はおいといて、もしもこの世界が
――多分ユウキちゃん、ヒロインなんじゃないか?
だって、なんか精霊憑いてるし。
だって、なんか重要っぽいカード持ってるだろうし……デッキ39枚だけで組んでたし。
だって、可愛いし。
店長もめちゃくちゃ美人だが、ユウキちゃんぐらいの年齢なら児童誌とかホビアニメのヒロインポジだろ。
まあこの世界、女子の顔面偏差値が異様に高いから言い切れないんだけどさ。
それでもと考える。
前世では見てなかったが、確かアニメとか……漫画とか? Lifeのメディア展開してたような話は聞いた覚えがある。
効果はさすがに憶えてないんだが、そういうのもあって初めて見た時どっかで見たような気がしたんだよな――と。
「ふぅ」
何個目か覚えてられない通路の先、出ていった白衣姿の男が開けたドア――そのオートロックに任せて放置されて閉まろうとしているのを、上から指で抑えて止める。
閉じ切る寸前で止めて、出ていった白衣男が曲がり角から姿を消したのを見てから、開けて滑り込んだ。
たわい無し。
人間の視界は頭上が死角だって言ってた豆知識ありがとうだ。
はてどこまで考えてたっけ……ああ、そうだ。
もしもユウキちゃんがヒロインだったとするならば。
ヒーローはどこにいるんだろうか。
これがアニメとか漫画だとするならば、これから彼女のヒーローが助けに来るかも知れない。
あるいはこれから捕まって悲しい実験台とかにされて、その果てにヒーローと出会うのかもしれない。
今のこうしている時間が、本来の物語にとってのただの過去編かもしれない。
回想シーンでしか映らないような時間かもしれない。
カードゲームのヒーローがいるならば、僕が助けにいかなくても救われることだろう。
だけど、それが僕が助けに行けない理由にはならない。
これからヒーローと出会うならば、その手助けが出来るはずだ。
これから悲しい実験台とかにされてしまうぐらいなら、んなもんないほうがいい。
もしもそれらがなくなって味のある過去編が、回想シーンが薄っぺらくなると言われても知ったことじゃない。
カードゲームあるあるで、ユウキちゃんが実験とかでパワーがないと勝てない敵とか出て世界が滅ぶようなら、極悪パーミッションでもワンキルの”ドミナントの夏”でもフルバーンでもバベルでも責任取って組んでやる。
僕は強い方じゃないが、立ち向かうことだけはやれるし、やらない理由はない。
例え死ぬと決まっていても戦うことは出来るし、一矢報いるぐらいはやってやる。
前世で死ぬ時だって、人を刺してくれやがった親子狙いの通り魔の顔面を肘で砕いて、手をへし折って、自分が動けなくなるまで蹴りを入れてやったように。
僕はそういう時にやれることはやれる、やらないでいられない。
我ながら、そういう奴だと自覚している。
闇のファイトで死にかけてなんか一部思い出してそう感じた。
「……ん?」
思考しながら、人目を避けるように壁伝いに進んでいたら、掌に感触。いや、振動を感じた。
なにか大きな動作音? いや、これは……
行ってみるか。
手がかりもそれ以外にない。
音の発信源を探りながら足早に進んでいって。
僕は辿り着いた。
そして、見た。
「なんか敵陣のど真ん中で、叫びながら
しかも、怪しい全身コートと仮面着けた怪人相手に。
絶対販促アニメの世界だってこれ!!
それが生み出し、求めるのは常に1つ
敗者と勝者ではない
生還者だ。
――孤高の天狼・ヴァイスファング