【豚骨ラーメンに見る昭和の美学】母娘で創業70周年を“さりげなく”迎えた佐賀ラーメン店(皆で拍手!)
佐賀藩主10代鍋島直正公、11代直大公を祀る由緒正しき佐嘉神社から歩いて5分ほど。佐賀ラーメン屈指の老舗「東洋軒」@佐賀市水ヶ江が今年70thアニバーサリーを迎えた。創業は1955(昭和30)年。世代を超えた地元民の集い場であり、店の歴史と共に歳を重ねてきた作り手一家の“味の継承”という人間ドラマも詰まっている。改めて、70年である。すごい! まずは、その功績に皆で賛辞を送ろうではないか。
「70年ですか。言われてみれば確かにそうですね。ただ、これまでも、これからもな〜にも変わらないです。日々、目の前のお客様の笑顔を見られるよう丁寧にラーメンを作るだけで、年数は意識していません。他のラーメン屋さんだったら節目ごとに周年祭とかあるんでしょう?ウチはいつもの年と同じようにさりげなく70周年が過ぎていくでしょうね」と、笑いながら話してくれたのは3代目の牛島知子さん。2代目である母・キヨ子さんと2人で暖簾を守っている。
「東洋軒」は1955(昭和30年)に開店し数年後、キヨ子さんの夫の両親が親戚から店を継いだ。つまり知子さんの祖父母が「東洋軒」草創期を支えたわけだ。当時の佐賀ラーメン界を振り返ってみると、煮込みすぎてしまった偶然の失敗から白濁豚骨を生み出した久留米のレジェンド「三九」が佐賀市支店「三九軒」(現在は閉店)を開業。そして「三九軒」で働いていた職人と共に大串進氏が「一休軒」を出したのが1955(昭和30年)と「東洋軒」と同年であり、各店とも豚骨ラーメンの聖地・久留米に端をなしている。ちなみに「一休軒」のラーメンはその後「成竜軒」「幸陽閣(旧・幸陽軒)「もとむら(旧・一休軒 鍋島店)」「いちげん。」「ブラッグピッグ」などへ広がっている(卵黄ポン!の文化など詳細な佐賀ラーメンヒストリーはまた別の機会に記したい)。
さて、佐賀市「東洋軒」へ話を戻そう。
3代目の知子さんは、羽釜で麺を泳がし平網ですくって湯切りをする。テボでもない、ゆるやかなカーブを描く平ザルでもない、引っかかりのない真っ平らな“平網”。このイニシエの平網は使い手も、網を作る金網職人も絶滅危惧種なのである。(参考:真っ平らな“平網”を操る職人の美学に迫る「Qualities豚骨注入!」)
「お客様からもよく平網を使いこなせるねっ、て言われりもするんですが、ウチは代々これを当たり前のように使ってきているので、私は逆に平網しか扱えないんです。網にもいろいろなタイプがあることも割と最近まで知らなかったですし。大釜で複数玉の麺を泳がせた時に1人前ずつをすくうのが慣れるまで大変でした」と、網を釜の縁に“カンカンッ!”と打ち付けながら話す知子さん。この音風景も昭和のラーメンの象徴。知子さんの右手の指には平網使いの称号とも言うべき、硬いタコができている。
羽釜、平網など古の道具から繰り出されるラーメンは豚骨のみを炊き、ラードを極力抑えたあっさりライト系。濃厚ど豚骨派はひと口目はもの足りなさを感じるかもしれないが、食べ進めるごとに深いコクと旨味がグイグイとやってくる。母娘の人柄も染み出したような優しい豚骨ラーメン。そしてコスパも優秀。これでいい、いやいや、これこそがいい!
そのほか、豚骨ラーメンと人気を二分しているのが、同スープをベースにした味噌ラーメン。豚挽き肉とモヤシを中華鍋で“あおり”、しつこすぎない甘さのマイルド味噌を投入。
味噌ラーメンなのでパンチ大!?と思いきや、これまたひたすら優しい。和風出汁が効いているわけではないが、まるで味噌汁のようにグビグビ飲んでしまうスープ、とでもいおうか。沈んでいる豚挽き肉をレンゲで何度もすくって口に運ぶ。これが止まらなくなり気がつけば完飲。脂身が少なく、噛み応えのある豚チャーシューも筆者の好きなタイプだ。
最後に、知子さんが幼少期も振り返りながらこう話してくれた。
「自宅兼店舗で育ち、当たり前のようにラーメンが側にある生活。小学生の頃は友達にからかわれたりして、なんとなく恥ずかしく、家業を知られたくないという思いもありました。当時はラーメン店ってそういうイメージがありましたから。しばらく家業とは距離を置き、大人になってからも私は一般の会社で働いていたんです。けれど、父が病床に伏し、しばらくして他界。母も一時体が思うように動かなくなるなどの家族の変化で、会社勤めをしながら店を手伝うようになり、やがてラーメン1本に決めました。その理由は親孝行とか、老舗の灯を消したくなかったとか言うとかっこいいんですが、単純にやってみて楽しかったんですよね。目の前のお客様に“おいしかったよ”って言ってもらえる“最大の喜び”を知ってしまいましたから」。
やっぱ、我が家のラーメンはサイコー! だったってことだ。
70周年という当然、一朝一夕では行き着けない“どえらい”節目が、日常のように何も変わらず“さりげなく”過ぎていく。それも心地よい。
しかし知子さんは、この言葉だけは忘れない。「何よりお客様に感謝です」。
【東洋軒(とうようけん)】
住所:佐賀市水ヶ江1-5-7
電話:0952-23-4859
時間:11:30〜15:00(LO14:30)※売切れ次第終了
休み:日曜
席数15席(カウンター7、テーブル8)
駐車場:3台(無料)