WOMEN

2025.01.17 13:30

宇宙産業でジェンダー平等を目指す、Kanatta井口恵:WOMEN AWARD 2024〈個人部門〉受賞者インタビュー

井口 恵|Kanatta 代表取締役社長

井口 恵|Kanatta 代表取締役社長

ダイバーシティ実現への第一歩に位置づけられる女性活躍だが、毎年のジェンダーギャップ指数ランキングで、 日本はG7最下位に沈み続けている。

Forbes JAPANが主催する「WOMEN AWARD 2024」では、そんな閉塞した社会に風穴を開ける新たなリーダーを選出。

個人部門で「パイオニア賞」に選ばれたのは、若き起業家の井口恵。
ドローン業界と宇宙業界への女性の参入を支援するコミュニティ運営の会社を立ち上げ、人工衛星まで打ち上げた。宇宙開発未経験の女性による打ち上げ成功は日本初の快挙だ。


ひと口に「ジェンダー平等」といっても、誰が言うかによって印象はだいぶ違ってくる。女性の権利を声高に主張する人がいる一方で、井口恵は「別に女性だけが活躍すればいいと思っているわけじゃない」と穏やかに否定する。「ドローンも宇宙も、女性比率が極端に低い業界だから活動を行っているだけなんです」。

だから彼女の活動も、本棚にある向きの違う本を正すくらいに軽やかだ。井口にとってジェンダー平等の実現は、世の中を自然なかたちに戻すことに過ぎない。

大学在学中に公認会計士資格を取得し、卒業後は4大監査法人の一角で働き始めた井口。「当時は朝の3時、4時まで働くことが当たり前」だった。もともと自分の成長に貪欲で、人の2倍働くことも苦ではなかったものの、年齢を重ねたときにプライベートを犠牲にした働き方はしたくなかった。また、社内に女性管理職が少ないことから自分の将来像を描けず、女性比率が高いLVMHへと転職を決めた。

すると今度は超がつくほどのホワイト企業。子育てしながらでも働きやすい環境だったが、20代の井口にとっては物足りなく感じられた。そのうえ、ここでも役員は全員男性。女性が8割の会社でも状況は変わらないんだな──。「ジェンダー平等を実現したい」と起業を決意した。

脳裏に浮かんだのは、監査法人時代、難関資格の公認会計士に合格したにもかかわらず、夫の海外赴任や子育てを理由に退職していった先輩や同僚の姿だった。起業したら、プライベートも仕事も犠牲にしない働き方を追求しようと思った。

起業にあたって目をつけたのが、急速に伸びている「ドローン」だった。男性が9割を占める業界だが、操縦技術に男女差はなく、性別がハンデになることもない。ならば、と女性のためのコミュニティ「ドローンジョプラス」を立ち上げた。同じ理由から、宇宙業界で働きたい女性を対象にした「コスモ女子」も立ち上げた。

面白いことに、井口自身はどちらの業界にもそれほど興味があったわけではないという。将来有望かつ女性が少ない業界という観点で、戦略的に選んだのだ。

現在、ドローンジョプラスには約100人の女性ドローンパイロットが在籍。操縦体験参加者は1万人を超える。一方のコスモ女子には、これまで宇宙とは縁のなかった女性が集まり、今年8月には人工衛星の打ち上げに成功した。コミュニティを足がかりに、宇宙ベンチャーなど業界への転職を果たした女性も増えている。

今後も女性が少ない業界にはコミュニティから参入を後押しし、いずれは業界を代表するロールモデル輩出を目指す。

FORBES JAPAN WOMEN AWARD 2024 パイオニア賞

女性が少ない分野や新しい分野で、先駆者として道を切り拓いた女性に贈られる賞


いぐち・めぐみ◎1987年、大阪府生まれ。横浜国立大学卒業。あずさ監査法人、LVMH勤務を経て2016年にKanatta創業。女性限定コミュニティ「ドローンジョプラス」「コスモ女子」運営のほか、宇宙飛行体験などを提供する宇宙サービス事業部を運営。

文=古賀寛明 撮影=小田駿一

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2025.01.07 13:30

女性という「ハンデ」があったから強みを見つけられた:「鮨 めい乃」幸後綿衣

幸後綿衣|「鮨 めい乃」店主

幸後綿衣|「鮨 めい乃」店主

白木のカウンターを挟んだ1mにも満たない距離から、始終スマートフォンのレンズを向けられる。なかには望遠カメラを構える客もいる。「まだまだ女性が珍しいからでしょうか」と涼やかにほほ笑むのは、すし職人の幸後綿衣だ。34歳になった昨年、東京・麻布十番に自身の店をオープンさせた。8席のカウンターを中心に、ひと晩2回転。1人5万円からの“おまかせ”のみで、半年先まで予約で満席だ。

男性が圧倒的多数の業界だからこそ女性にチャンスがあるはず、と大学卒業後、厳しいすし職人の世界に飛び込んだ。根底にあったのは「どんな場所でもいちばんになれ」という父の教え。すしなら世界にも打って出られる。これだ、と思った。

名だたる店での修業は、男性との体力の差という逃れようもないハンデを思い知らされた。そこで「誰にも負けない強みを身につけたい」と、1年間板場を離れて、仏ブルゴーニュ地方でワインについて研さんを積む。現在、店内とカーヴに2000本近いボトルを保有し、客の幅広い要望に応える。

テレビ番組で取り上げられたこともあり、幸後のもとには若い女性の弟子入り志願が絶えない。「私に憧れてすし職人を目指したなんて聞くと、放っておけなくて」と照れながら話す彼女は、今や7人の従業員を抱えるれっきとした親方だ。店舗経営、若手の育成など責任は大きいが、すでにミシュランも視野に入れる。目指すのは、世界に認められる「オンリーワン」だ。


こうご・めい◎1989年生まれ。上智大学卒業後、東京すしアカデミーに入学。「すし匠」「西麻布 拓」「鮨 あらい」にて約10年の修業を重ね、ソムリエ資格も取得。2023年11月独立し、「鮨 めい乃」開店。今後は月初めに予約を受け付ける予定。

文=大滝美恵子 撮影=帆足宗洋(AVGVST)

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2024.10.29 13:30

サイバーエージェントが挑む「Tech DE&I」の舞台裏:神谷優

神谷優|サイバーエージェント Tech DE &I Lead プロジェクトマネージャー

神谷優|サイバーエージェント Tech DE &I Lead プロジェクトマネージャー

9月25日発売のForbes JAPAN11月号では、テクノロジー領域で世界を変えるべく躍進する女性、ジェンダーマイノリティたち30人に光を当てた「Women In Tech 30」を発表した。2024年にはじめて開催し、23人のアドバイザリーボードに協力いただきながら開催した。


「さらなる成長のための開発組織構築には多様性が欠かせない。会社としてDE&I(多様性、公平性、包摂性)について本格的に取り組もう」。技術担当役員からの後押しもあり、2023年1月、技術担当役員直下でサイバーエージェント「Tech DE&Iプロジェクト」が始動。神谷優はそのLeadに就任した。神谷が最初に取り組んだのは、開発組織に在籍する1000人以上の全エンジニアメンバーに向けたジェンダーギャップ勉強会だった。

以降、社内向けにはマネージャー職を対象に「無意識バイアスワークショップ」を開催。社外向けには、女性エンジニアコミュニティ醸成や学ぶ機会提供のための大規模イベント「Women Tech Terrace」の開催、女性にもエンジニアという選択肢をもってもらうべく女性を対象としたインターンシップの開催、女子中学・高校・大学生向けのオフィスツアーなど数々の施策を実施。「企業にとっては、多様性のある組織やそれに伴うプロダクト開発が『企業の競争力』につながります。業界全体のジェンダーギャップ解消に向けた『社会的意義』のある取り組みでもあります」(神谷)
 
神谷は大学卒業後、エンジニアとして同社へ入社。スキル不足にコンプレックスを抱き、早く技術力を上げなければと奔走し、多様性には無関心だったという。しかし、産休・育休から復帰して参画したプロジェクトで、ライフ・ワーク・バランスを重視するなかで、「戦力になっていないかも」と自己肯定感が徐々に下がっていった。そんなキャリアに悩んでいたときに出合ったのが「ジェンダーギャップ」の問題だった。「私が貢献できることはこれかもしれないと思った」(神谷)。

NPO法人Waffleでプロボノ活動をしながら、多様性やジェンダーギャップについての知識を学び、ロールモデルの可視化のために自身の経験を共有する機会として登壇などを重ねた。それが契機となり、技術担当役員と話をするなかで「Tech DE&Iプロジェクト」の発足につながった。

「勉強会の直後、弊社主催の技術カンファレンスの運営メンバーから『登壇者が全員男性メンバーで、女性から登壇したいという応募がこない』という相談がありました。技術の最前線にいる人が共感してくれ、行動を起こしてくれた。地味に見えるかもしれませんが、大事な一歩で、とてもうれしかった。プロジェクトを通して、開発組織、そしてIT業界の『DE&Iの土壌』を豊かにしていきたい」

文=山本智之 写真=若原瑞昌

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