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日本人が安楽死するときの「3つの壁」

近ごろ日本でも安楽死を認めろ、という声を耳にすることが多くなってきた。
尊厳死や安楽死制度を認められている国はスイスやオランダだが、今回はスイスのディグニタスという自殺ほう助団体についてのことだ。

これは自殺を推奨したり、ほう助するものではないことであり、それを心に留めてほしい。

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ディグニタス〈Dignitas〉とは、安楽死による死ぬ権利を訴え、実際に医師と看護師により自殺をほう助するスイスの団体だ。
世界的には自殺ほう助を禁じている国が多数を占めるため、国外から多くの人々がこのサービスを求めてスイスにやってくる。
ディグニタスがどういう団体なのかはGoogleなどで詳しく調べてほしい。

それよりもここで語りたいのは日本人が安楽死を受けるのに如何に難しいか というテーマについて。
単純にお医者さんに注射を打たれ「そのまま眠ってください、永遠におやすみなさい」といった簡単な話ではないのだ。
日本人が安楽死を受けるための「3つの壁」を紹介しよう。

安楽死を受けるためのプロセス

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まず、ネットでディグニタスにパンフレットを請求する。
すると宣誓書も一緒にpdfが送られてくるので、それに英語のブロック体大文字で住所や国籍など必要事項・自著サインしてスキャンしpdfを送り返す。
参加費200CHF〈23,198円〉の書かれたinvoiceが届き、それに従ってお金を振り込む。

これでようやくディグニタス会員になるプロセスは完了する。
そして会員になると、次年からは年会費80CHF〈9,279円〉が請求される。

さらに大変なのは、英訳された必要書類が大量に必要なことだ。

必要英訳書類

診断書
ディグニタスへの個人的な嘆願書(死亡準備請求の理由、現在の身体的状態とそれが自分にどのような影響を与えているか)
主要な経歴を簡単に述べた伝記
最近親者に関しての状況記述(同伴者は自殺願望を支持するかどうか)
1つ以上の最新〈4ヶ月以内〉医療レポート(2つまたは3つの古い医療レポート)

これらには、症例の履歴、診断、および可能であれば、実際に促された治療、検査ならびに予後〈治療後の経過予想〉に関する実質的な情報が記載されていなければならない。
またすべての報告書は3から4ヶ月以内に作成され、かつはっきりと判読可能のものである必要がある。
X線フィルムなどの写真や研究室の分析は含まれない。
これらすべてをディグニタスに送り、まずは団体のルール、ほう助可能対象者であるか「厳密な審査」をされる。
この審査で多くの人が躓くことになる。
精神的にうつ病で辛いから、であったり、ADHD・ASD・LDなどの発達面での社会的障壁によって生きづらい──といった理由では審査に通らない。
「それでもまだ貴方は食事をして生きていられるでしょう」と。

末期がんによる苦しみや、肢体不自由〈手足がない状態〉、末梢神経障害〈手足、首から下などが動かない〉などの障壁があり、さらに精神障害を患っている状態で、ようやく取り合ってくれるレベルになる。
「あーあ、なんか人生つらいな。安楽死しよっかな」という安直な考えでは厳しいといえるだろう。

「厳密な審査」を通過したら、スイスの医師2人と2回の面談がある。
その両医師が許可を出せば、安楽死の準備完了となる。

ほう助を受けたい日を伝え、スイス内の指定の場所へ行くことになる。
そこで改めて「安楽死を希望しているか、強要されたものではないか」などの質問に答える必要がある。
ここで重要になってくるのが「自分が今どれだけ苦しくて死にたいのか」と言うことを「英語で自分の口で」説明しないといけないのだ。通訳は不可である。
ネイティブに英会話のやり取りができる人なら問題ないが、多くの人がここで躓くことになる。
日本人でこのサービスを受けるのにハードルが高いと言われている壁である。

安楽死の当日

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致死量のネンブタールを服薬するのだが、その1時間ほど前に制吐剤を服薬する。
その後、好きなタイミングでネンブタールを服薬する。
ネンブタールは、多くの動物病院で麻酔薬などで使用される。
ちなみに、ネンブタール服薬直前まで「やっぱやめた」と拒否することも可能だ。

死亡後のために役所への各種手続き、火葬などを代行してもらうようディグニタスに事前にお願いしておき、代行費用を払っておく必要がある。
火葬後は遺骨を母国に発送してもらうとのことだが、この辺についての詳細な記述が見当たらないので、ここだけはまだ詳しくは分からない。
そもそも遺骨を航空輸送するということを航空会社が拒否するなどトラブルにならないか、日本政府に通達しなければならないだろう、
死因は何になるのか、家族への取り調べなどはあるかなど、そのあたりの詳しいこともまだ不明だ。

こういったプロセスを経て、安楽死を成し遂げるのである。

安楽死にかかる必要なお金

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次にスイスで安楽死を受けるための費用と必要書類費をざっと書いてみる。
1.参加料 200CHF
2.本格的な準備費用 診断書や審査 3500CHF
3.実際にの幇助にあたって 2500CHF
4.死亡後の諸手続きの代行費用 1000CHF
合計 7200CHF
今現在の為替レートで = 835,129円
※1~4は確実にかかる費用である

追加費用であげるとするなら
4.ディグニタスへの個人的な嘆願書を作成したものの英訳費
死亡準備請求の理由を記載し、現在の身体的状態とそれが自分にどのような影響を与えるか、を説明しなければならない。

5.主要な経歴を簡単に述べた伝記、そして最近親者に関しての状況の記述、の英訳費
記述には、同伴者の自殺願望を支持するかどうか、またどの程度まで支援するか、そして家族か、その他親しい友人などスイスへの同伴者の有無を記載する。

6.1つ以上の最新の医療レポートと、2つまたは3つの古い医療レポート費の英訳
最新の報告書は3ヶ月から4ヶ月以上古いのはだめであり、すべての報告書ははっきりと判読可能でなければならない。
このレポートは英語、フランス語、ドイツ語のいずれか選択する。

7.通訳を雇う場合
通訳は現地で雇えるのが1番だが、とりあえず日本で人を雇うとして彼らの往復渡航費、宿泊料金、報酬など……。

8.スイスで2回カウンセリングを受けるため、その一週間の入院費
安楽死に必要な条件を満たしているかどうかの確認のためである。
この件に関しての入院等の医療事情はわからず、病院によっても変わってくる。自由診療になるため、費用はかなりかかる。

このように確実にかかる費用+αで、安楽死に必要な金額を見積もってみると、軽く250万~400万程度だろうか。

安楽死を受けるための「3つの壁」

著しく深刻な身体状況
スイス医師と流暢に会話できる程度の英会話力
莫大な金額

最後にもっとも重要なことを伝えたい。
ディグニタスの会員で安楽死の審査に通ったほとんどの人が「自殺を選択しなかった」という事実である。

ディグニタスは自発的死亡の幇助をすることは確かであるが、
一番は、自殺を抑止することを主な目的の1つとしている団体である。
ほう助のサービスを提供することで「会員になっていつでも死ねる」という安心感を与えることで自殺者を減らす効果を狙っている面があり
実際に会員になり審査を通っても、その安心感からほう助のサービスを利用していない人のほうが多いのだ。
いつでも簡単に死ねる、という環境が大切だったりするのかもしれない。

最後に紹介するのは「Me Before You」という洋画だ。
ラブストーリーテイストだが、テーマは安楽死、それもディグニタスによるほう助。
主人公が不自由さに苦悩し、安楽死の決断をするのだが、それに両親や介護士の恋人が主人公の苦しみを理解しつつも反対しようとする。
男と女、彼女と家族、いろんな立場での意見の違いが分かるのでオススメしたい作品の1つだ。

日本人が安楽死に至るまで

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そこにはかなりのプロセスがあり、難易度は途方もなく高い。
人生山あり谷ありというし、生涯における幸せ「+」と不幸「-」を最後に足し算するとゼロになるとも言われているが、果たしてそれは本当なのだろうか。

生きていく中で辛いことはいっぱいあり、私はつらい境遇にある人に「頑張れ」だなんてとても言えない。
別に幸せになることが人生の目的ではないが、どうしてもそれを求めてしまう。だから人は不幸を感じてしまう。なので私は、「もうちょっと気楽に、のらりくらりと楽観的に生きてみよう」と思い耽る日々である

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コメント

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ホールの空から
ホールの空から

こんにちは。
Dignitasが目に留まったので立ち寄りました。
中村様が書かれている内容でほぼ合っています。
ところどころはDignitasの運用範囲でそこまで厳格でなかったり、もっと厳格だったりしますが、安易に死を認めてくれない事は間違いありません。
カネ払えばだれでもスイスで死ねるなんて誤解されている方も見かけますが、当人にとっては死ぬよりつらい状況であると認められるから受入れてくれるのであって、中村様の記事にある通り、世間で想像されているより厳しい条件です。
嫁の場合は最終段階になってから、服用している薬剤が問題となり、これを説明するのに精神科医の問診を受けたりと大変でした。

さつき
さつき

こんにちは。まさに今ディグニタスへの必要書類をどのように準備すればいいのか悩んでいます。さらに、書類も会話もすべて英語だということで、本当に私の思っていることを伝えられないもどかしさも感じています。ディグニタスを過去に利用した日本人の方々を尊敬すると同時に、皆さんがどうやってこの困難を乗り越えられたのか興味津々です。
ディグニタスからのメールや情報を整理してくださってありがとうございました。

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日本人が安楽死するときの「3つの壁」|中村けんいち
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