特攻に異議を唱えた指揮官、落語で紹介 桂竹丸さん
鹿児島県鹿屋市出身の落語家、桂竹丸さん(68)が、戦時中、特攻作戦に異議を唱えた飛行部隊の指揮官を主人公にした創作落語「特攻セズ」をこの夏、県内各地で上演する。旧海軍の航空隊「芙蓉(ふよう)部隊」を率いた美濃部正少佐(1915~97)の物語。命を無駄にしてはならないと考えた部隊長の姿を通して、戦争の愚かさや平和の尊さを訴えかける。
美濃部は愛知県出身の海軍パイロット。部隊名は富士山の別名「芙蓉峰」から名付けた。太平洋戦争で米軍と戦ったが、若い兵士の命を無駄にする特攻作戦には反発。暗闇に出撃して攻撃を繰り返す夜間攻撃の部隊として行動した。
「部下の命を守ろうと考えた美濃部のことを若い人にも知ってほしい」。竹丸さんはそんな思いから、5月19、20日、ひとあし早く古里の鹿屋市の三つの中学校で特攻セズを披露した。
演目では、軍用機の美しさにひかれてパイロットを志願し、激しい戦争に巻き込まれていく様子が語られる。
迎えた大戦末期の1945(昭和20)年。戦況が悪化する中、軍は米軍艦船への特攻作戦を決める。静まりかえった作戦会議で、末席にいた29歳の美濃部が立ち上がって声を上げる――。
美濃部「特攻機ではアメリカに勝てません。バッタバッタと撃ち落とされるだけです」
上官「きさま、みなが命をかけているのに、この非国民が!」
美濃部「特攻は無駄死にじゃありませんか。我々の部隊は特攻より結果を出してみせます」
極刑も覚悟のうえ逆らった美濃部と上官の緊迫したやりとりは物語のクライマックスだ。
決死の申し出が実り、芙蓉部隊は特攻作戦から外され、夜襲の継続が認められる。藤枝基地(静岡県)から鹿屋基地(鹿屋市)に移り、岩川基地(鹿児島県曽於市)で終戦を迎えた。「必ず帰ってこいよ!」。岩川基地で美濃部が夜襲に向かう部下の戦闘機をいつまでも見送るシーンもある。
約20年前、知覧(鹿児島県南九州市)の特攻基地を舞台にした「ホタルの母」を上演。以来、竹丸さんは落語を通して戦争を語り継ぐ活動をライフワークにしている。第2弾として2017年、芙蓉部隊を題材にした創作落語「飛ばなかった特攻隊」を曽於市で披露した。これを戦後80年を機にリニューアル。より美濃部にスポットを当てた内容に再構成した。
「戦後80年だし、わたしも70歳前。やれるときに残しておこうと思って」と竹丸さん。「今の時代、普通に暮らせることがどれだけありがたいことか。(特攻セズを)ひとつの平和のメッセージとして受けとめてくれたらありがたい」
公演の問い合わせは鹿児島音協(099・226・3465)。
鹿児島県内での主な公演は次の通り。()は問い合わせ先。
28日午後2時、鹿児島市・川商ホール(鹿児島音協099・226・3465)▽8月17日午後3時半、鹿屋市・リナシティかのや(鹿屋市文化会館0994・44・5115)▽8月24日午後3時半、曽於市・大隅文化会館(まちづくり曽於0986・76・7100)