「JAに放出すべきでなかった」 備蓄米が消費者に届かない本当の理由 「米卸がコメをため込んでいる」という批判に業者は真っ向から反論
「JAでなく、卸や小売りに放出すべきだった」
加えて近畿大学農学部の増田忠義准教授は、これまでの入札で放出されたほとんどをJA全農が落札したことが“スタック”の一因ではないかと指摘する。 「備蓄米の入札は、原則1年以内に同品質・同量のコメを政府が買い戻す条件の下で行われました。いま備蓄米をガンガン出荷して、1年後に政府に新米を返すとなれば大損です。さらに備蓄米を大量に出せば、米価が暴落するリスクもある。ある程度セーブしつつ出荷したいというのが、JAの本音ではないでしょうか」 さも価格高騰への“切り札”であるかのように放出された備蓄米だが、かように消費者の手に届きづらい事情がいくつもあるのだから期待外れだ。 「大体、入札の条件を緩和して参加する業者の数を増やしても、入札価格に上限がなければ競争で落札価格はつり上がる。実際、JAは玄米60キロあたり約2万1000円と、民間取引価格より高水準で落札しています。いくらそこに“利益を乗せない”とうそぶいても、2万1000円以下の価格で卸に売ることはできないわけです。本来であれば、卸や小売りといった、消費者に近い“川下”に備蓄米を迅速に放出すべきでした」(同) 単に出発点を誤っているだけの話だというのだ。
「米卸がコメをため込んでいる」という批判は正しいのか
一方で、大手米卸「木徳神糧」の1〜3月の営業利益が前年同期と比べ4.5倍の伸長を見せ、市場の注目を集めている。ネット上では江藤大臣の“スタック”論に釣られてか「国民が大変な時にコメをため込み、私腹を肥やしている」といった投稿まで見られるのだ。 こういった声に対して、前出の業者が反論する。 「卸売はコメを買い付けて精米、包装して売るというサイクルをいかに回すかが肝で、どこも薄利多売なのです。大量にため込んでいるなんて言われますが、そんなことをすれば空調管理費、倉庫の維持費がかさむだけ。むしろ入荷分はとっととさばきたいんですよ」
「多めに仕入れたものが、高い相場で売れただけ」
木徳神糧の業績アップについても、 「不足を見込んで多めに仕入れたものが、高い相場で売れたというだけでしょう。それに普段なら、古米を在庫処分するため特価で売り出す必要がありますが、今は入荷するなり売れていく。そういった損切りの必要もありません」(前出の業者) 好調に沸くどころか、業界内ではコメ不足の危機感が広がっているという。 「相場がいつ下がるともしれませんから、今のうちに売りたいのが本心です。とはいえ、新米が出る前の7月にコメが無くなれば、昨夏の二の舞となる。どの業者も普段の1割増しほどでコメを確保し備えているはずですが、それを“スタック”だの“ため込んでいる”だの言われたらたまりません。そもそも相場を操作できるほどのキャパシティーを持つ業者なんて、まずいないのです」(同) 後編【コメ高騰でも農家は「負債の返済に回し、廃業」 2026年秋までは高値が続くという見通しも 「米価がどっちに転んでもコメ農家を続けるのは厳しい」】では、値上がりによって潤っているはずの農家ですら「続けるのは厳しい」と語る理由について詳しく報じる。 「週刊新潮」2025年5月22日号 掲載
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