東京在住の女性Ａ様から「是非ともお会いさせてください」とご連絡をいただいた。私の正しい使い方である。実際にお会いしてびっくりした。こんなにも神々しい人間がこの世の中にいたのかと腰を抜かした。普通、神秘体験とは「神の声を聞いた」とか「前世の記憶が濁流のように押し寄せた」などのことを言うのだろうが、生きている人間を相手に神秘体験をした。坂爪さんと会いたいと思ったのは◯◯というテレビ番組の出演を坂爪さんが断ったからです。あの番組に出演していたら、こうしてご連絡を差し上げることはなかったと思います。Ａ様は、そのようなことを言った。

Ａ様のご自宅に呼ばれた。中世ヨーロッパのような部屋で、調度品は少ないのだけれど洗練されていて、派手ではないが美しく、静けさの中に躍動感があり、植物だけではなく家具や鉱物や金属も呼吸をしているかのように生き生きとしていた。私は、打ちのめされていた。番組に出演をしていたら、Ａ様からご連絡をもらうことはなかった。なんでもないように見える選択が、人生を大きく変えることがある。一つの道を選ぶことは、他の道を捨てること。一つの組織に所属することは、他の組織を捨てること。私はただ、からっぽでいただけ。からっぽでいたら、奇跡が舞い込んだ。

神秘体験の凄いところは、新しい世界の存在を知ってしまうことにあると思う。Ａ様のような人間がいて、Ａ様が生きているような世界の存在を知ってしまったが最後、もう、昔の自分には戻れない。強制的に別人に変えられて、これまで関心を持っていたものに関心を失い、自分を引き上げてくれるもの、自分をその世界に連れて行ってくれるものへと、関心がシフトする。どう生きるかなどと言う悩み方ができなくなる。その様子を見て「君は世捨て人になったのか」と言われることもあるが、違う。世俗的な欲望を捨てただけで、もっと大きな喜びを求めている。欲望は今もある。

お金持ちはたくさんいるが、豊かな人は少ない。豊かさとは、お金の稼ぎ方ではなく、お金の使い方にあると思う。Ａ様は豊かで、お金もたくさん持っている方だったが、Ａ様はたとえお金がなくなっても豊かなのだろうなと思った。お金のあるなしに左右されない豊かさを内面に湛えている。人からどう思われるかと言うことに対して、本質的に自由だった。それは、どうせ死ぬのだからやりたいことをやろうというような、自暴自棄の自由とは異なった。お金があるから自由なのではなく、人気があるから自由なのではなく、世俗的な事象に左右されない精神性がＡ様を支えていた。

Ａ様は「これまでたくさんアドバイスを求められたけれど、実際にやる人はほとんどいなかった」と言った。私たちは、無知なのではなく無為なのだと思う。天使たちはいつでも私たちの周囲を飛び交っていて、少しでも耳を傾ける用意があるなら「こっちだよ」とか「こうすればいいよ」と、最適な道を示してくれる。その声が聞こえなくなるのは、世俗的な欲望に絡め取られて、天使よりも人間の声を優先してしまった時なのだと思う。家の中にいたら日光は届かない。扉を閉めていたら新鮮な風は入ってこない。神秘体験は、それに触れた人間に別次元の存在を知らせる。これからも同じ次元で生きなければと言う考え方を、木っ端微塵に粉砕する。たくさんの見物人に囲まれるのではなく、美しい天使たちに囲まれているイメージが現実になる。世界は広い。顔をあげよう。