伊万里強盗殺人事件 容疑者は両手に作業用手袋着用か
伊万里市の住宅で親子がナイフで殺傷された事件で、強盗殺人などの疑いで逮捕されたベトナム国籍の技能実習生が、現場を訪れてインターフォンを鳴らした際、両手に作業用手袋をしていたとみられることが捜査関係者への取材で分かりました。
警察は捜査が自分の周辺に及ばないようにしていた可能性もあるとみて、調べています。
7月26日、佐賀県伊万里市の住宅で、日本語講師、椋本舞子さん(40)がナイフで襲われ現金を奪われて殺害され、70代の母親がけがをした事件では、ベトナム国籍の技能実習生、ダム・ズイ・カン容疑者(24)が強盗殺人などの疑いで逮捕されました。
警察によりますと、調べに対し「何も話したくありません」と供述しているということです。
これまでの調べによりますと、容疑者は事件当時、インターフォンを鳴らし現場を訪れていて、事件のあと、現場と容疑者が住んでいた寮の間には血の付いた作業用手袋が見つかっています。
現場の状況などをさらに詳しく調べたところ、容疑者は当時両手に作業用手袋をしてインターフォンを押していたとみられることが捜査関係者への取材で分かりました。
警察は回収した作業用手袋を詳しく分析するとともに、捜査が自分の周辺に及ばないようにしていた可能性もあるとみて、調べています。
【中国の教え子からも悼む声】
亡くなった女性は中国の大学で日本語講師として働いていて、教え子からも悼む声が寄せられています。
事件の発生から1週間となる2日、伊万里市の現場の前には花束が手向けられてました。
椋本舞子さんは中国の大学で日本語講師を務めていて、一時帰国して自宅に滞在していたところ、事件に巻き込まれたとみられています。
椋本さんが勤務していた中国・江西省にある景徳鎮陶磁大学で、去年まで椋本さんから日本語を学んでいたという、大学院生の張※イ澤さんは、「私が大学院の受験で困っているとき、椋本先生は私なら絶対大丈夫だよといつも励ましてくれて私に勇気を与えてくれました。椋本先生はいろんな国の友人にいつも話しかけられていてすごいなあと思っていました。先生はインターネットの情報でその国を判断せずにそれぞれの文化を理解できるようすごく努力していた人でした。今回のことがあって本当に残念です」と話していました。
※「偉」の「にんべん」が「王へん」
【交流のあった中国・景徳鎮の陶芸家は】
椋本さんは中国・景徳鎮の陶芸家、藍潜さん(25)の作品を購入するなどして交流があったということです。
藍潜さんは、「彼女は芸術を心から愛している人でした。さまざまな国の文化や人々と出会い触れ合うことをいつも望んでいました。美しいもの、芸術作品が大好きでその人が有名か無名か関係なくここで創作しているアーティストたちをとても尊敬していました」と話しました。
椋本さんは藍さんが別の国のアーティストと交流する際に、無償で通訳を引き受けてくれたということで、「自分自身の力で世界を少しでも良くしようとしている人でした。さまざまな国のアーティスト同士をつなげようとしていました。若い芸術家たちの創作活動も支援していました。彼女は私の中に生き続けます」と椋本さんの死を惜しんでいました。
【伊万里市内の技能実習生は】
ベトナム国籍の技能実習生が逮捕された事件を受けて、伊万里市内の技能実習生や、交流を深めてきた人たちには動揺が広がっています。
伊万里市は、人口5万1000人ほどですが、佐賀県によりますと900人余りの外国人が住んでいます。
このうち半数近くを占めるのが製造業などの現場で働きながら技術や知識を学ぶ技能実習生です。
地域では多文化共生の取り組みも行われていて、「日本語教室いまり」ではボランティアが日本語を教えるほか、定期的に地域の文化に触れられる催しも開いています。
教室の代表の中村章さんは、「ほとんどの実習生は真面目に仕事をして、少しでも多く祖国の家族に仕送りをしようと切り詰めた生活を送っている姿をふだん目にしているのでショックを受けました。容疑者が事件を起こさざるをえなかった理由を知りたいです」と話していました。
そして、外国人や技能実習生をひとくくりにして見てほしくないと強調した上で、「事件をきっかけに外国人を排除するという短絡的な考え方になるのではなく、お互いを認める大切さを改めて考えていくことが必要です」などと訴えていました。
また、日本語教室の生徒の1人でインドネシアから来た技能実習生のリドワン・モハマド・アンワルさん(22)は、「家族に仕送りをしたり、お金をためるために日本に来ました。事件のことを聞いたときはびっくりしたし、悲しかったです」と話していました。