「まず、前提として明らかにしておきたいことがある」
フィンの真面目な声を聞いてミストはそちらに目を向けた。
「君はオラリオに存在する何処のファミリアにも属していない。これは本当の事かい?」
「所属した記憶はない。因みに、神は私の嘘が見抜けないからそんな質問形式にしても無意味だよ」
「……そうなのかい?」
「確かに言ってることが嘘かどうかは、わからん」
神が嘘を見抜けない存在がいることに驚きを見せたフィンは、ゆっくりとミストへと視線を向けた。神が嘘を見抜けない下界の存在などいるはずがない。フィンはファミリアに属していないなどという小さな話ではなくなっていることに気が付きながらも、ゆっくりと言葉を選んでいた。
「君はオラリオ外にいる神に
「いや、私は神の恩恵など貰っていないよ。そもそも、神から恩恵を得るというのがそもそも肌に合わないし」
「恩恵を、持っていない?」
「……もう下界の子供の枠超えてるなぁ」
恩恵など与えられていないと平然と口にするミストにフィンは固まった。神が下界に降りてくる遥か昔『古代』と呼ばれる時代に生きていた英雄たちは、神の恩恵も無しにモンスターたちと戦ったと言われているが、ミストはそれと同じようなことをしている。神が降臨した『神時代』以降からは考えられないことではあるが、古代の英雄たちを少しでも知っているロキは、その未知数な力がそっくりであると感じていた。
「聞きたいことは聞けたかい?」
「前提としては、ね……それ以上に聞きたいことができてしまったが」
想像以上の
「なんや自分、俺tueeeeeの主人公か! ほんならトロールもワンパンで当たり前やな!」
「
「全く……ロキ、もう少し空気を……ロキ?」
ゲラゲラと笑いながらくだらない言葉を話すロキに対して、ミストは苦笑しながら返答をする。空気を読めないとしか言いようのないロキに、フィンは酔っているのではないかと視線を向けたが、その顔からは笑みが消えていた。
「自分、やっぱり
「しまった。引っかかったな」
真剣な顔をして目を薄く開いたロキに対して、ミストは己の失策を理解した。フィンには一瞬の会話のどこに失策があったのか理解できなかったが、ロキは確信を持っていた。
「下界の子供等が
「ただのネットスラングをよくも言語なんて高尚な言葉に纏めたね」
「ねっとすらんぐ?」
ロキとミストの会話の中に含まれる単語の意味が理解できないフィンは、一人で眉を顰めていたが、それこそがミストの異常性であるとも理解していた。つまり、彼女は超越存在が扱う言語を理解できる、あるいは異世界では普通に使われている言語かもしれないという仮説を元にロキは喋っていた。
狭間の地にやってくる更に前、そこで生きてきた記憶を殆ど失っているミストだが、ネットスラングと言われる言葉遣いなどは独り言として呟いていた影響で頭に記憶されているのだ。あやふやな記憶であるため、どれが前世の言葉でどれが今世の言葉なのかも区別がついていないミストには、避けることができない地雷である。
「ようわかったわ。自分は神じゃないんなら、外の世界から来た
「そうなる、のかな。生憎、前にいた世界は自ら捨ててきたのでね」
「はー、自分で世界捨ててこれるとか、ほんまに俺tueeeeeの無双ものやん」
「ふふ……私は伴侶に付いてきたら
ロキはミストの伴侶という言葉を聞いて、すぐに怪物祭で隣にいた魔導士然とした姿の女性であることに思い至った。つまり、ミストは自らの意志で彼女についていたのであって、あくまで世界を渡ったのはミストの伴侶であるということになる。超越存在の語る言語を理解することができる存在がもう一人いるのかもしれないと思いながらも、ロキはミストの言う伴侶は何処にいるのかと視線で問いただしていた。
「ラニなら姿を見せることはないと思うよ。神が嫌いだし」
「神嫌い? 珍しい、訳でもないな」
「オラリオでも何度か問題になったことがあるからね」
神が嫌いな存在はオラリオにもいるのかと思ったミストだが、知的生命体として生きている以上他人のことが気に入らなくなるのは当然のことかと納得した。
ミストの口から伴侶の名がラニであることを確認したロキは、フィンと視線を合わせた。今のところ、ミストは異世界からやってきた非常に高い戦闘能力を持つ一般人という認識だが、彼女がダンジョンに潜っていることを考えれば、なにかしらの目的意識はあるのだろうと考え、アイコンタクトを行う。
「なら君はこの迷宮都市オラリオでなにを成したいんだい?」
危険な橋を渡りながら本質に迫る質問を投げかけるフィンに、ミストは不気味に笑みを浮かべていた。