祝福擬きで行く先を決めたのは間違っていただろうか


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作:刈刈シテキタ刈
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第25話【White cipher ring】


 

 

 

 怪物祭(モンスターフィリア)にてレヴィスと交戦し、撃破後間も無くして任務によりダンジョンへ突入。

 ダンジョン30階層にて異端児(ゼノス)との協働のもと、食料庫(パントリー)の異変を制圧。

 回収した宝玉をリヴィラの街まで送り届け、その場で遭遇したレヴィスと再戦。

 

 フェルズからの説教を含めた紆余曲折の末、帰る頃には朝となっていた。

 そうして、およそ三日ぶりにディオニュソス・ファミリアのホームへと帰宅したフェイドを待ち受けていたのは。

 

「………………」

 

 顰めっ面のフィルヴィスだった。

 

 玄関からエントランスに入るや否や、いつも通り出迎えて来たのだが、様子が妙だった。

 目を細め眉を逆立てたかと思えば、彼女はそっぽを向いたのである。

 以降、口をへの字に曲げて無言を貫き、碌に喋ろうとしない。

 

「何故黙っている」

 

「………………」

 

 閉口する理由を尋ねるものの、フィルヴィスは頑なに沈黙を保ったまま。

 埒が開かないので、フェイドは首を傾げつつも立ち去ろうとするのだが。

 

「あっ…………」

 

 後ろ髪を引くような声が聞こえ、徐に振り返る。

 

 しかし、彼女は誤魔化すかのような咳払いをしたのち、何処かへ行ってしまった。

 

「………………」

 

 一体、何が原因であのような態度を見せているのか。フェイドには皆目見当が付かなかった。

 怪物祭(モンスターフィリア)の一件から別行動を取って以来、三日程度ダンジョンへ潜っていただけだというのに。

 

「成程、状況は大体分かった。これは由々しき事態だな」

 

 去り行くフィルヴィスの背中を黙って眺めていると、ディオニュソスの呟きが耳に入る。

 視線だけそちらに向けると、気障ったらしい表情を浮かべながら、彼は壁に寄りかかって腕を組んでいた。

 

「………………」

 

 そのジェスチャー(貴公、何用だ)に、フェイドは円卓に居た王骸のエンシャを思い出す。

 一切会話をしないまま返り討ちにしたので、百智卿ギデオンとの具体的な関係性は終ぞ分からなかったのだが。

 

 過去に殺した敵の事はさておいて。フェイドはその言葉の真意を尋ねるべく、ディオニュソスに向き直る。

 

「どういう事だ」

 

「まあ、君の性格や立場上仕方がない部分もあるんだろうが、彼女は碌に連絡もせず行方を眩ませていた事に対して怒っているのさ」

 

「いつもの事だ」

 

「別れた状況が状況だっただろう? あそこから音沙汰無しだなんて誰でも心配するに決まっている」

 

「俺は死なない」

 

「きっと、理屈では分かっていても、感情では納得出来ないんだ。自分の知らないところで君が傷つけられている現状をね」

 

 無論、それは私もだが。そう言って、ディオニュソスはフィルヴィスの態度について説明してくる。

 曰く、彼女は不満を抱いているらしい。フェイドがギルド陣営の走狗とさせられている現状に。

 

「………………」

 

 今後どれだけフィルヴィスとの関係が悪化したとしても、今更自らの行動を翻すつもりはない。

 ダンジョンの何処かに潜む、彼女を縛り付ける宿痾をこの手で殺すまでは。

 

 提案に従いウラノスの傭兵となったのも、その目的の一環である。敵の敵は味方という考えから、フェイドは彼らに手を貸しているのだ。

 怪人(クリーチャー)は、オラリオの秩序を脅かす勢力。ダンジョンの諸問題を解決する中で、連中の首魁に辿り着ければ一石二鳥なのだから。

 

「どうすればいい」

 

 だが、なんとなく。現状維持を是とするのは抵抗があった。これから先、一切フィルヴィスと口を利かなくなったとしても差し支えは無いというのに。

 

「ほうほう……自分では何も思い付かないのかい?」

 

 そんなフェイドの問いに、ディオニュソスは何故かニヤつきながら生暖かい視線を向けてくる。

 

「ああ」

 

「そうか、だったら───」

 

 フェイドが特段気にせず頷くと、我が意を得たりと言わんばかりの乗り気な態度で、ディオニュソスはあれこれと語り出した。

 

 

 

━━━━━━────────────

 

 

 

 正午、冒険者が準備を終えてダンジョンへと潜り込んでいる時間帯。

 比較的通行人が疎らとなった冒険者通りを、後ろで纏めた山吹色の髪を揺らしながら歩くエルフの少女が居た。

 

 レフィーヤ・ウィリディス。【千の妖精(サウザンド・エルフ)】の二つ名を持つ、ロキ・ファミリアに所属するLv.3の魔導士である。

 

 リヴィラの動乱から数日後。レフィーヤはダンジョンから地上へと帰還していた。

 そして、現在は行きつけの魔道具の店に向かう最中である。

 

 北西のメインストリートを曲がった路地裏の奥深く。地下への階段を下り、傷んだ木の扉を開けた先にその店はある。

 

 扉を開くと同時に視界に映るのは、薄暗いながらも広々とした室内。

 天井にぶら下がる火の玉のような魔石灯が照らすのは、棚に置かれた蛇や蜥蜴、蠍などの生き物の瓶詰め。

 店の奥では何か煮詰めているのか、大きな黒い鍋から赤い湯気が立ち上っていた。

 

「なんだい小娘。また来たのかい」

 

 黒いローブに長い白髪、そして鉤鼻の老婆は、そう言って皺だらけの口に笑みを浮かべている。

 

「あ、あはは……ちょっと相談したい事がありまして……」

 

 レフィーヤはその小言に対して苦笑を返しつつ、自らが手に持つ杖を見やって用件を述べる。この杖に改良の余地は無いかと。

 

 魔導士専用の杖は、一般的に武器屋では取り扱っていない。

 魔力を高め魔法の威力を変動させる魔導士の杖は、刀剣の類とは勝手が異なる。

 作り手も魔法に精通していなければならず、作成可能な者が非常に少ないのである。

 

 魔法関係の品を扱う者達は魔術師(メイジ)と呼ばれており、言うなれば杖の鍛冶師である。

 魔術師(メイジ)が手がける杖は、エルフの森に多くが存在する聖木や、特殊な金属・鉱石を材料にすることで能力を上昇させる。

 

 中でも自然界には存在せず、彼等しか作り出すことのできない色彩様々な魔宝石は、魔法効果を大幅に向上させることが可能だ。

 

 この宝石が据えられている杖とそうでない杖では、性能が雲泥の差。

 レフィーヤが今持っている花の蕾めいた意匠の杖も、先端の中心には青白く光る魔宝石が嵌め込まれていた。

 

「……何があったか知らんがねえ、これ以上の代物は今のアンタには不相応だよ」

 

 暫しの間、手渡された杖を検めたのち、店主はレフィーヤの内心を見抜いたかのような視線を向けてくる。

 そのまま、作業の途中だったのか、彼女は店の奥へと引っ込んでいった。

 

「ううっ……」

 

 店主が察する通り、レフィーヤは焦っていた。ここ最近、己の力不足を痛感する出来事が多過ぎたが故に。

 

 特に、つい先日の出来事であるリヴィラの動乱。あそこで、レフィーヤは己が納得するだけの戦果を上げられなかった。

 突如として現れた、赤髪の女と対峙するアイズ。彼女を碌に援護出来ず、寧ろ足手まといとなって危険に晒したのだ。

 

 Lv.5という領域にまで至って尚、尊敬するアイズは上を向き続けている。

 敗戦の悔しさを糧に、37階層に留まってまで更なる試練を己に課そうとしている。

 

 そして、そんなアイズを置いておめおめと地上に戻った自分が許せず、居ても立っても居られなくなった。

 故に、レフィーヤは自らの得物の改良を試みようとしたのだ。結果は見事な空回りだったのだが。

 

 老婆に断られても諦めきれず、他に何かめぼしい道具はないかとレフィーヤは店内を見て回る。

 奇怪な品物が置かれている店内には、魔導士の興味を惹く短杖や木の杖が多数並べられていた。

 

「………………」

 

 せめて、空想上の存在と思っていた【彷徨う者(ストレイド)】のように、詠唱を介さず魔法が使えるようになれたら。

 などと、店の品物をぼんやりと眺めながら、到底実現不可能な妄想を頭の中で展開していると。

 

 店の扉の開閉音がレフィーヤの耳朶を打つ。

 

「………………」

 

 なんとなくそちらを見やれば、そこに居たのは見覚えのある黒装束の男だった。

 

 ───お前達が笑えたのは、忘れたからだろう。

 

 その姿を見た途端に脳裏をよぎるのは、豊饒の女主人にて彼が自分達に対して言い放った言葉。

 

 ───だから、見ていて苦しいんだよ。

 

 そして、彼の仲間と思しき、白装束を身に纏った同胞(エルフ)の少女の失望に満ちた眼差し。

 

 いつぞや、レフィーヤは場の空気に流され笑ってしまった。異常事態(イレギュラー)によってミノタウロスに襲われた新米冒険者を。

 あれほど恥じていた己の弱さを忘れて。笑う資格など、何一つとして無いというのに。

 

「………………はぁ」

 

 一連の出来事を思い出すと同時に省みたレフィーヤは、すっかり気勢を削がれてしまった。

 今日のところは大人しく帰ろう。肩を落として俯き、どんよりとした空気を漂わせて店を出ようとする。

 

「疑問がある」

 

「うひゃ!?」

 

 しかし、突然黒装束の男に話しかけられ、飛び跳ねた。甲高い悲鳴が薄暗い室内に響く。

 

「わ、私に、ですか?」

 

「ああ」

 

 辺りを見渡すものの、レフィーヤと男以外に店内には客の姿は無い。

 前髪の隙間から覗く色褪せた瞳が、狼狽するレフィーヤを無感動に眺めている。

 

「……ど、どんな疑問ですか。あまり他所の派閥の人に話せる事は無いんですけど」

 

 どうか、あの酒場でのやりとりを蒸し返されませんように。

 そんな祈りを喉の奥に仕舞い込みつつ、レフィーヤは用件を尋ねた。

 凹みに凹んだ今の精神状態で何か言われたら、泣いてしまう自信があった。

 

「仲間を怒らせた時に渡す詫びの品は何だ」

 

「え?」

 

 だが、抑揚の失せた声で発せられた質問に、レフィーヤは拍子抜けした。

 それに伴い、ハリボテによって装飾した毅然が一瞬にして崩れ落ちる。

 

「ええっと……その仲間の人って、白装束のエルフの人だったり……?」

 

「ああ」

 

 怒らせた人物について聞き返すと、彼から返ってくるのは肯定。それを聞いたレフィーヤは、少し意外に思った。

 

 遠巻きに眺めるだけだったものの、彼らは信頼し合っているように見えたから。

 そうでなければ、ロキ・ファミリア幹部である【凶狼(ヴァナルガンド)】、ベート・ローガを相手に怯みもせず立ちはだかる事など出来ない。

 

「うーん……その人がどうして怒っているのか、心当たりはありますか?」

 

「黙ってダンジョンに潜った事を怒っているらしい」

 

 そうして、レフィーヤは黒装束の男へあれこれと質問を繰り返す。

 無論、派閥が違う者同士である事も踏まえ、最低限の配慮をしたうえで。

 

 やがて、大まかな事情が分かった頃には、緊張といったものはどこ吹く風。すっかり相談に乗り気となっていた。

 

「……多分、怒っているだけじゃないと思います」

 

「どういう事だ」

 

「もしも、私がその人の立場だったら不安で、寂しくて、悔しくて……兎に角、複雑な気持ちになってる筈です」

 

 置いて行く者と、置いて行かれる者。

 

 話を聞く限りだと、目の前の彼はアイズと。話に出て来たエルフの少女はレフィーヤの立場と酷似していたのだから。

 自身の精神衛生の為にも、この問題は絶対に解決せねば。そんなお節介気味な使命感と共感が、レフィーヤを突き動かす。

 

「だったら、お前の思う相応しい贈り物は」

 

「そうですね……その人との絆が分かる物とか貰えたら、とっても嬉しいかな」

 

「お前の言う絆とは何を指す」

 

「え!? ええっと……」

 

 予想外の質問にレフィーヤは驚き、視線を泳がせながら考える。絆という、何気なく出した単語の意味について。

 

「……どんなに遠く離れていても、繋がりを感じられるもの、でしょうか」

 

 例えば、(ring)みたいな。

 

 ややあって、レフィーヤが選んだ言葉はそういった内容だった。

 自分が最後に発現した第三魔法の詠唱文にも、輪や絆という単語が含まれていたから。

 

「ど、どうですかね……」

 

 もじもじと恥ずかしげに人差し指同士をくっつけ、男の様子を窺う。

 

「よく分からない」

 

 結果は惨敗。

 

 精一杯考えて捻り出した答えは、彼には届かなかったらしい。

 黒装束の男の返答に、レフィーヤは長い耳を萎らせながら苦笑する。

 

「で、ですよね〜……いきなり変な事言ってすみませんでし───」

 

「───だが、判断材料になった」

 

 感謝する。そんなレフィーヤへ、男は表情一つ変えずに礼を述べた。

 そのまま、目を白黒とさせる彼女に目も暮れず、踵を返す。

 

「………………」

 

 ここまでの会話の端々から感じ取っていたのだが、彼は浮世離れした人間のようだ。

 それも、敬愛するアイズから可憐さと口数と表情を抜き取って、より無愛想にさせた類の。

 だが、不思議と憎めなかった。彼が仲間の為に贈り物を用意しようとしているからだろうか。

 

「あ、あの……私、レフィーヤ・ウィリディスっていいます! よければ最後に貴方の名前を教えてくれませんか!」

 

 些細な好奇心から、レフィーヤは去り行く背中へ声を掛ける。

 

「フェイド・ストレンジアだ」

 

 すると、黒装束の男は顔だけ振り返って名乗ってくれた。

 

「ストレンジアさん、仲直り頑張ってください! 応援してます!」

 

「分かった」

 

 フェイドと名乗った男へ、ガッツポーズと共にささやかな激励を送る。

 それに対してフェイドが示したのは、淡々とした了承の意だった。

 

「…………えへへ」

 

 今度こそ店を出てゆく背中を見送りながら、レフィーヤは実感に浸る。こんな自分でも、誰かの助けになれたのだと。

 

 

 

「……冷やかしならアンタも帰ってくれないかい?」

 

 

 

 その直後、店主の老婆からそんな言葉をぶつけられるのだが。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「許しは請わない」

 

 オラリオ散策から帰って来た昼下がり、ディオニュソス・ファミリアのホームにて。

 偶然フィルヴィスと廊下で鉢合わせした状況で、フェイドは開口一番に彼女へと言い放つ。

 

「お前に何を言われても、俺は自分の行動を曲げない」

 

「………………」

 

 仲直りをする為の第一声とは思えぬ発言を。

 

 仏頂面と顰めっ面が、真正面で向かい合う。久方ぶりの殺伐とした空気が、誰も居ない廊下に漂う。

 

「………………そんな事は知っているし、謝れなどと言った覚えは無いんだが」

 

 だが、両者の間に形成された空気は、その一言によって霧散した。

 

「そうか」

 

 六日と三時間二十九分ぶりに成立した会話に、フェイドは淡々とした面持ちで相槌を打つ。

 

「……寧ろ、謝るのは私の方だ。少しばかり安否の確認が取れなかった程度で臍を曲げてしまった」

 

「………………」

 

 すると、意外にもフィルヴィスの方から、数日間に渡る素っ気ない態度について謝罪をしてきた。

 複雑な気分になっている筈という、レフィーヤと名乗った少女の発言は的を射ていたらしい。

 手間が省けたのは僥倖だと考えながら、フェイドは虚空からとある物を取り出す。

 

「手を出せ」

 

 そして、そのとある物を渡すため、フィルヴィスに手を出すよう促した。

 

「なんだ急に……ほら」

 

「此処に、指が五本有る」

 

「……何が言いたい?」

 

「好きな指は」

 

「……薬指」

 

 フィルヴィスからの返答を受け、フェイドは片膝を立てて跪く。

 

 

 

 そして、差し出された手を裏返したのち。

 

 

 

 彼女の薬指に指輪を嵌めた。

 

 

 

「──────」

 

 呆気に取られたフィルヴィスが、自身の手の薬指に嵌められた指輪を見やる。

 それは、解読不能な文字の連なり。白く淡い光を帯びており、フィルヴィスの黒い手袋に良く映えていた。

 

「───ゆ、ゆゆゆゆゆゆびっゆびっ……!?」

 

 フェイドの突発的な行動に理解が追い付いた途端、彼女は茹でたカニのような様相で赤面した。

 そのまま、吃音めいた声を漏らしながら、壁際まで後退してゆく。

 

「【白い秘文字の指環】だ」

 

 フェイドが彼女に贈った指輪は、血の指や背律者に侵入された際に救援を呼ぶ為の代物。

 かつて二本指がもたらしたという、失われた秘文字の呪物の一つである。

 尤も、狭間の地にあって初めて効果を発揮する物のため、現状は綺麗な指輪の域を出ないのだが。

 

「い、いい異性に指輪を渡して……いや、嵌めるだなんて、どういう了見だ!?」

 

「今日で一年だ」

 

 俺が此処に来てから。フェイドはそう言い、出会ってから一年の月日が経過した事を告げる。

 そして、一年の節目と心配をかけた詫びも兼ねて、その指輪を渡したのだとも。

 

「………………そう、か」

 

 だが、フィルヴィスの反応は芳しくない。心ここに在らずといった眼差しで、薬指に嵌められた指輪を眺めている。

 どんなに遠く離れていても、繋がりを感じられる物。というお題で所持品の中から選出したのだが、見解に相違があったらしい。

 

「嫌なら返せ。別の物を見繕───」

 

 そう思って、違う物を提案しようとすると。

 

「───はああああぁぁぁぁっっっっ!!?? それこそ嫌だが! これはもう私の物なんだが!」

 

 何故か、フィルヴィスは憤慨した。絶対に返さないと言わんばかりに、指輪が嵌められた手を大事そうに覆い隠しながら。

 

「………………」

 

 前述の通り今日で一年の付き合いとなるのだが、未だに彼女の情緒に関しては理解し切れていない部分がある。

 ここ最近のフィルヴィスは喜怒哀楽の変化に富んでおり、些細なきっかけで流転するのだ。

 

 さながら【坩堝の諸相】の如く。

 

 尾を振り回し、喉袋から火を吹き、角を突き出し、翼で羽ばたくフィルヴィスを幻視しつつ、フェイドは立ち上がった。

 

「すぅ……ふぅ……これは、ディオニュソス様の入れ知恵か?」

 

「ああ」

 

 やがて、深呼吸をして落ち着いたのか、フィルヴィスから事の経緯について説明を求められる。

 

 数日前、ダンジョンから帰って来た日の朝。フェイドはディオニュソスから助言を受けた。

 フィルヴィスとの関係を改善したいのならば、贈り物をしてはどうかと。一年の節目が近付いている事も兼ねて。

 

「……この指輪も?」

 

「俺が考えて選んだ」

 

 贈り物の選出に際して、ディオニュソスは自分で考えて選べと言ってきた。

 故に、フェイドはオラリオを散策して相応しい品を探していたのだ。

 

 そして、数日間に及ぶ放浪の果てで、老婆が営む魔道具の店に漂着。

 その場に居合わせたレフィーヤというエルフの少女の話から、着想を得たのである。

 

「…………もしも私が()()を出してたら、どうするつもりだった?」

 

「質問の意味が理解出来ない」

 

 左右の違いに意味は無いだろう。フィルヴィスの()()の薬指で煌めく【白い秘文字の指環】を眺めつつ、そう述べる。

 

「………………そうか、だったらこの質問は忘れろ」

 

「分かった」

 

 質問の意味がなんであれ、これにて一件落着。目的通り、フィルヴィスとの関係は修復された。

 あとは、適当に時間を潰せば良い。などと考えながら、フェイドは踵を返そうとする。

 

「よし、帰って来て早々で悪いが、今から一緒に出掛けるぞ」

 

 しかし、回り込まれたのちに手を掴まれた。

 

「何故だ」

 

「何故? そんなもの決まってるだろう」

 

 こんな良い物を貰ったからには、何か返さないと私の気が済まない。

 フィルヴィスはそう言って微笑みながらフェイドの手を引き、屋敷を出てゆく。

 

 

 

 そうして、あれこれと話し合いながら都市内を歩き回った結果。

 

 贈り物のお返しに選ばれたのは、彼女の故郷の森に分布する稀少な聖木の苗。

 それに伴って、定期的な水やりと苗の観察が、フェイドの新たな習慣となった。

 

 

 





一旦の小休止回。短剣とか杖とか、色々贈り物の候補はありましたが、レフィーヤの考えを聞いて白い秘文字の指環という結果に。
大ルーンを除くと渡せそうな輪っかが他に思い付かなかったので、仕方ないね。

読んでいただきありがとうございました。
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