エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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条件契約


 いつも通り黒き刃の装束を纏って闇商人の元へとやってきたミストは、特に魔石もドロップアイテムも持っていなかった。普段は売る時にしか立ち寄ることのないミストの用のない訪問に、訝し気にミストを見つめていた商人が、しばらくして店にやってきた男たちを見て溜息を吐いた。

 

「よう、久しぶりだな……ネブラ」

「……なんの御用でしょうか?」

「そう邪険にするなよ……俺らに商品卸してくれる貴重な商人だ。仲良くしようぜ?」

 

 ネブラと呼ばれた商人は、頭を抱えたくなる衝動を無理やり抑えつけた。彼が面倒に思っていた闇派閥に勧誘してくる人物こそが、目の前の男なのだ。チラリとミストの方へと視線を向ければ、闇派閥の男は睨みつけるようにミストを見た。

 

「お前の我儘、許してくださるとよ。主神様に感謝しろよ」

「へぇ……神を敬うようなやつには見えなかったけど、様はつけるんだ」

「うるせぇ!」

 

 闇派閥に所属している連中は基本的に喧嘩早い者ばかりなのは当然だが、話し合いの場においてここまで声を荒げて噛みつくことはない。奴らは快楽的な犯罪者集団ではあるが、突発的な計画性もない馬鹿とは違うのだ。そんな彼らが声を荒げて今にも剣を抜きそうな程の敵意を向けるのは、十中八九相手方にイラついている時だけだろう。商人は溜息を吐きそうになって慌てて飲み込み、存在感を極力出さないように少しずつ後ろに下がっていた。

 

「大概の条件は呑んでやると言っていた。さっさと条件を言え」

「なら1つ目。【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルという冒険者にこちら側から手を出さないこと」

 

 さらっと条件を2つ以上提示しようとしていることに、握り拳が白くなるほど強く握り込んでいる男を無視して、ミストは条件の一つを提示した。それは冒険者ベル・クラネルに手を出さないことであった。

 

「あぁ? 誰だそりゃあ」

「君たちが知る必要はないけど、その内噂にでもなるだろうさ……あぁ、向こう側から手を出してきたなら遠慮なく潰せばいい。そこに関しては何も言わない」

 

 闇派閥との戦いは未熟な英雄の器であるベル・クラネルには、いずれ必要なステップであるとは思っているが、今はまだ早い段階である。当然、ベルの方から手を出すというのならばミストは口出ししない方針であるが。

 

「……まぁいい。知らねぇってことはLv.1だろう? 誰が好んで金も持ってねぇ奴に手を出すかよ」

「ならいい。条件の2つ目は、私のやることに干渉しないことだ」

「あ? そりゃあお前が裏切るような真似してもってか?」

 

 1つ目の条件は全く知らない冒険者が相手であることから無視したが、2つ目の条件は場合によっては裏切り行為への保身にしかならない。当然そこを見逃すことのない男は、剣の柄に手を伸ばしかけるが、ミストは微笑んだまま首を横へ振った。

 

「別にそこまで言っていない。ただ、私がお前達よりダンジョン探索を優先させても文句を言うなというだけの話でしかない」

「けっ……闇派閥がダンジョン探索かよ」

「そもそも闇派閥に協力してやるだけで、派閥に入った訳ではないんだがな」

「どっちでもいい。同罪じゃねぇか」

 

 少しでも加担している時点で自分たちと同罪だと語る男に、ミストは驚いたような表情を見せた。まさか闇派閥を名乗って活動している連中が、罪であることを考えて行動しているとは全く思っていなかったのだ。罪であると認識して行動することで背徳感に浸っている者もいるだろうが、少なくともミストの前にいる男は、ただのごろつきにしか見えなかった。

 

「最後の条件、3つ目は私に命令するな。私の気分が乗らなかったら手伝わないけど、気分が乗れば呼ばれなくても手伝ってあげる。簡単な話でしょう? 勿論、協力するという約束をしたからには基本的には手伝ってあげるつもりだけど」

「……いいだろう。それぐらいなら想定内だ」

 

 想定の中でも最低なものが出てきたという顔をしながら納得する男に、ミストは吹き出しそうになっていた。彼は闇派閥の中でも、比較的常識を持って主神にもある程度の信を置いているのだろう。だからこんな末端の()()()に使われる。

 

 数回の会話によって彼が闇派閥内での雑用、捨て駒となっていることを見抜いたミストは、逆にそれを利用してしまえばもっと楽しいことになるかもしれないと考えた。

 

「君、名前は?」

「あ? 言う訳ねぇだろ……俺は闇派閥で、お前はただの協力者だぞ?」

「いいね、益々気に入った。君はこの後殺されるだろうけど、それを助けてあげると言ったら名前を教えてくれるのかい?」

「殺さ、れる? なんの話をしてやがる!」

 

 男はミストが何を言っているのかまるで理解できなかった。なにせ、彼は真っ当な方法ではないとしてもLv.3に到達している冒険者であり、オラリオ全体から見れば上位層に位置する実力者なのだ。そんな自分が消されるなど、実力的にも自分の有用性を考えても信じられるものではなかった。しかし、ミストの目は冗談を言っている人間の目ではない。

 

 男がここでミストに名前を告げること。それはミストが男の命を握ることに他ならない。

 闇派閥に所属している登録されていないLv.3など、捕縛してギルドにでも引き渡せば一定の謝礼金は貰えるだろう。なにせ拷問すれば数多の情報を得ることができるかもしれないのだ。特に今は時期が悪く、先日行われた怪物祭(モンスターフィリア)の事件との関連性なども含めて、ギルドと秩序維持を行っている【ガネーシャ・ファミリア】は威信をかけて闇派閥を潰そうとする。そうなれば男に待っているのは、拷問される前に闇派閥の連中に暗殺されるか、ギルド側に拷問の果てに無惨に殺されるかである。

 

 生き残る選択肢は2つしかないと言える。1つはミストの提案を蹴って、オラリオから逃げ出すこと。2つ目は、信用できない(ミスト)の言葉に頷き守ってもらうこと。そして、実質的に選択できることは1つだけである。

 

「お、れは……スコット……スコット・スキアーだ」

 

 死の恐怖に屈した男を見て、ミストは一人で微笑んでいた。




スコットさんが裏で消されそうな理由は次回で書く予定です

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