エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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闇派閥


 ダンジョン18階層の人目に付かない森の中、リヴィラの街から離れた場所に位置する祝福で武器に触れていたミストは、近づいてくる足音に反応して顔を上げた。坩堝の騎士の鎧を全身に纏う彼女の顔は、やってきた3人の男にも見ることはできないが、彼らはその中身が金髪金眼の美女であることを知っていた。

 

「お前が、最近噂の大仰な装備を着た騎士か」

「……よくここがわかったね」

「そりゃあそうだろう。俺らはお前を追っかけてたんだからよ」

 

 明らかに堅気の雰囲気ではない男3人を前にしても、ミストは立ち上がることもせずに武器の手入れに顔を戻した。祝福に近づいてくる者に警戒を持っていたミストだが、それが目の前のくだらない者たちだと知って興味が失せたのだ。男はミストの反応に苛立ちながらも、手を出すことはせずに後ろにいた男から紙を受け取った。

 

「ほらよ。お前宛てに手紙を預かってんだ」

「そんな顔では郵便業もさぞ大変だろう。客に怖がられてサインも貰えないのかな?」

「それ以上余計なこと言うとマジで殺すぞ」

「それは遠慮願いたいな」

 

 肩を竦めるミストに対して本気で武器に手が伸びかけた男を、背後の二人が慌てて止めた。やるなら手紙を読んで答えを聞いてからにしろ、と手紙の主からは命じられているのだ。ここで答えを聞かずに殺せば、責められるのは自分たちになる。

 

 結局襲い掛かってくることもない男たちに溜息を吐きながら、ミストは差し出された手紙を受け取ってざっと目を通した。そこに書かれている文章を見て鼻で笑ったミストは、視線を上げて男たちを見た。

 

「それで、私に味方になれと泣き付きに来たのかい?」

「あぁ!?」

「落ち着け……志を共に歩まないかと言っているだけさ。君はどうやら向こう側の冒険者ではなさそうだったからね」

 

 怪しげな笑みを浮かべる男に対して呆れたような笑みを浮かべるミストは、もう一度手紙に視線を落とした。そこに書かれている勧誘の文言を数度見返してから、手紙を男に突き出した。

 

「私に対するメリットが書かれていない。君たちについてなにか私が得するのかい?」

「……混沌だけでは足りないか?」

「馬鹿か君は? 混沌を求めるなら私一人で充分だろう……闇派閥(イヴィルス)ともあろうものが彼我の戦力差も計算できないのか?」

 

 手紙の中身は闇派閥に来いという勧誘である。普通の冒険者と違い、ダンジョンで手に入れた魔石とドロップアイテムをギルドに流さず、裏の市場に流しているのが何処かしらから漏れ、流れている素材が深層域からのものであることに気が付きミストを追っていた。真相はこんな簡単な話である。

 

 ミストにとってオラリオなど住んでいる場所でしかない。ダンジョンはなにをやっても修復する以上、オラリオを完膚なきまでに破壊してもダンジョンは残り続ける。ミストの好奇心を満たすために、迷宮都市オラリオの存在は必須条件ではないのだ。ただし、彼女はメリットがなければオラリオを滅ぼすこともない。故に、闇派閥の勧誘に全く興味を惹かれないのだ。

 

 闇派閥全体に対する侮辱とも取れる言葉を吐かれ、3人の男は一気に殺気立った。深層域に潜っているとはいえ、闇商人が市場に流している素材は精々37階層付近までである。そしてミストを囲んでいる男たちはランクアップ報告をギルドに行っていないだけで、全員がLv.3に到達している冒険者であり、下層でも通用する力を持っている。

 

「図に乗るなよ。お前は「はい」か「いいえ」のどっちかを答えればいいんだ」

「それで、いいえと答えたら殺す。はいと答えたら顎で使う……わかりやすい連中だな」

 

 闇派閥の主神が誰かは手紙に書かれていなかったが、目の前の3人を派遣した時点で、こうなることは想定済みなのだろうとミストは考えた。つまり、自分たちの邪魔になるのならば消し、味方になるのならば上下関係を叩き込む。理に適った方法ではあるが、前提条件としてミストが男3人と同時に戦って負けることが含まれている。

 

「保留だよ。条件提示によっては考えておく」

「……後悔すんなよ」

「もうここで殺ればいいだろうがよ!」

 

 明らかに闇派閥を舐めた態度を取っている騎士気取りの女にイラつきながら抜剣したが、再び一番前にいた男に止められる。目線だけで何故止めるのかと語る気の短い男に対して、溜息を吐いて最後の忠告と言わんばかりに口を開いた。

 

「敵に成るなら殺せと言われているが、なるべくなら引き入れろと言われている……条件ぐらいは持って来てやる」

「ならさっさと消えてくれないか? 話なら私が利用している商人の所で聞いてあげるよ」

「ちっ! さっさと行くぞ! 不愉快だ」

 

 離れていく闇派閥の連中を見送って、ミストは一人で笑っていた。オラリオに混沌を齎すと言いながら活動していると聞いていた連中を実際に目で見て、ミストは笑いが自然と溢れて止まらなかったのだ。なにせ、彼女の知っている混沌を求める者たちと言えば、世界の生命を全て否定しようとするイカれた狂い火(狂信者)なので仕方のないことである。

 

 闇派閥が自己満足の刹那的な快楽を求める、実にくだらない集団でしかないことを確認したミストは興醒めしていた。彼らがもし、もっと面白いことを企んでいたのならばミストも協力していたかもしれない。例えば、いつまで経っても英雄が生まれないことに業を煮やして、自らが踏み台になって英雄を生み出す、などである。だが、ミストが知らないだけでそんな思想を持っていた者たちはもう7年も前に死んでいる。

 

 自らの快楽を求めるだけの存在に屈するほど、オラリオの冒険者たちも弱くない。ミストはくだらないと思いながらも彼らの存在の滑稽さにもう一度笑みを浮かべていた。





死の七日間だったら絶対に闇派閥側についていますが、結局腑抜けた冒険者に興味を失って戦うのを途中で止めるか、闇派閥ごとオラリオを滅ぼしていると思うので、ベル君がいてよかったです(他人事)

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