エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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「彼女は何者なのかしら」

 

 迷宮都市オラリオの中心に聳え立つ白亜の塔。その頂上付近に居座り、オラリオを一望している女神は銀の髪を揺らしながら街中を歩く一人の女性を視界に捉えていた。少しくすんだような色の金髪を揺らしながら歩く女性は、冒険者としてギルドに登録されていない存在。

 名をミストルテイン。

 

「知りたい……彼女の全てを」

 

 先日、()()()()()()()()()()()()()を思い出しながら、美の女神フレイヤは街を歩く彼女の姿をしっかりと見つめた。

 

 女神フレイヤにはある特技のようなものが存在する。それは下界の子供たちの魂の色を見抜く力。英雄としての素質のあるものは輝きを増し、その魂の濃さによって力を量ることができ、その魂の色を見ることによって生き方を知ることができる。

 

 異端としか言いようのない存在であるミストのことが気になって仕方がないフレイヤ。その在り方は好奇心に突き動かされる超越存在(デウスデア)特有のものと言っていいだろう。ゆっくりと瞼を閉じ、再び開けた彼女の瞳に映るのは魂の世界。あらゆる下界の子供たちの魂が見える特別な世界の中、ゆっくりとミストの方へと視線を向けたフレイヤ、次の瞬間に目を逸らした。

 

「……な、なにが?」

「フレイヤ様?」

 

 白亜の塔バベルからオラリオを見下ろす普段通りであった主神が、急に全身から発汗させて手に持っていたワイングラスを取り落としたことに、傍で護衛として待機していた【フレイヤ・ファミリア】団長オッタルがすぐに近づいてきた。明らかに動揺しているフレイヤの姿に困惑しながら、オッタルは硝子の外へと視線を向ける。沈みゆく太陽がオラリオを染めている以外に普段との違いがないが、フレイヤはこの景色の中から動揺するなにかを見てしまったのだ。

 

 困惑して右往左往するオッタルに対して反応できない程、フレイヤの脳内は混乱していた。彼女はミストルテインの魂の色をその目で確認した。確かに見ていたのだが、その姿に動揺してしまったのだ。

 

(美しく輝き決して手の届かない、夜空の月の様な色だった。彼女の輝き一つで周囲の全てを見えなくしてしまうほどの輝き……オッタルですらこんなに輝くことはない)

 

 間違いなく、フレイヤが視てきた中で最も優れた魂の持ち主であると言って差し支えない。フレイヤの目は、ミストルテインという存在がオラリオにおいて最強であることを的確に見抜いた。しかし、それ以上にフレイヤは見てはいけないものを見てしまうところだったのだ。

 

(あの……魂は、見てはいけない。覗き込んでしまえば、二度と戻れない深淵の闇)

 

 フレイヤの手が震えていた。動揺によるものであるとオッタルは思っているが、フレイヤが抱いている感情の名は「恐怖」である。

 夜空に浮かぶ月のような魂を持ちながら、覗き込めば二度と這い上がることのできない底なしの深淵を持つ者。魂を見定め、気に入った勇者を自らの虜とする美の女神が、初めて魂を見て恐怖した。その魂には底なしの闇が広がり、覗き込む者がいれば全てを引きずり込んで自らの糧としてしまう。そんな未知の存在に対して、好奇心よりも恐怖心が勝ってしまった。

 

「……本当に、何者なのかしらね」

 

 神をも喰らいかねない深淵を持つ月の魂の持ち主に、フレイヤはそっと呟いた。

 

 


 

 

「不快な視線だな」

「可愛いじゃん。未知が気になって仕方がない神特有の感性でしょ? それで、私を覗き込んで震えてる」

 

 共に街を歩く伴侶の不機嫌そうな声に対して、ミストは上機嫌なまま微笑んでいた。彼女の中に渦巻く深淵の如き闇は、彼女が積み重ねてきたルーンによるものである。デミゴッドを殺し、古竜を喰らい、神をも打ち砕いた彼女の魂は、既に神であろうとも触れてはいけない深淵のルーン。そんな深淵の一端を覗き込んで震えている美の女神に、ミストは笑っていたのだ。

 

「可愛い、だと?」

「ごめんなさい」

 

 自分は言われたことがないぞと言わんばかりの視線とドスの利いた声を囁かれ、ミストは即座に謝った。そもそも、今となっては律を持つ神たるラニに対して、人間の恋人のように可愛いね、と愛を囁く方が間違っているだろうと、ラニを自らの神のように崇めるミストは思っている。しかし、ラニ自身はミストのことを伴侶として、なにより自らの王として大切で愛おしい存在だと思っているらしく、空気感の違いでミストに対する不満をぶつけることがある。

 

「善処します」

「聞き飽きたぞ」

「申し訳ありません」

 

 明らかに不機嫌なまま歩き続けるラニに、ミストは苦笑いを浮かべた。自らの神として崇めているとはいえ、ミストも世界を犠牲にしてでも隣を歩み続けることを選択する程度には、彼女のことを愛している。とは言え、やったことが所詮蛮族としか言いようのない自分が、ラニに対してどこまで愛を囁けるものかと自己嫌悪に陥っていつも足踏みをしている。それに対して苛立ちを抑えきれないラニによって、色々な意味で襲い掛かられるのがミストの悩みであるのだ。

 

 震える美の女神など既に思考の隅に追いやり、ミストはどうやってラニの機嫌を取ろうかと頭の中で四苦八苦していた。





ふしんちゅだったら暗い深淵の渦で、一端でも見てしまえば引きずり込まれそうですが、あせんちゅはまだまともなので大丈夫です


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