エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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給仕


 ラニが目を覚ましたことでしばらくダンジョンに潜らないことにしたミストは、気分転換に外食をしに来ていた。褪せ人となったミストにとって食事など本来必要のないものなのだが、娯楽的な感覚が抜けずにミストは定期的に人間らしい食事を求める。

 

 既に太陽が地平線の彼方へと消えた頃に家を出て、冒険者通りと言われるオラリオ北西区画へとやってきたミストは、儲かってそうな大きな店へと入る。店の名は『豊穣の女主人』である。

 

「ふーむ……美味い。こんなに美味しい食事をしたのは随分と久しぶりだね」

「そうかい。客に褒められて悪い気分にはならないね。金さえ落とせば」

「ふふ……はっきり言うね」

 

 料理の美味しさに舌鼓を打っているミストに、豊穣の女主人の店主であるドワーフのミアは、美味しそうに出された料理を食べていくミストを見て苦笑を浮かべていた。男の冒険者数人分を食べているミストに呆れながらも、金を落としてくれるのならば問題ないと思ってそのままミアは調理に戻った。

 現在は私服姿のまま酒場までやってきているため、周囲の冒険者からはかなりの好奇と下種染みた視線を向けられていたミストだったが、男冒険者数人分を食っている姿を見て半分くらいは去っていった。

 

「ご注文の果実酒です」

「あぁ……ありがとう給仕さん」

「いえいえ。ごゆっくりどうぞ」

 

 果実酒を運んできた美しい給仕に微笑んだミストは、あどけないヒューマンの少女から匂う独特な存在感を察知していた。その彼女が今、誰に夢中になっているのかをさっくりと察したミストは、楽しそうな笑みを浮かべたまま、美しい給仕の少女を手招きした。再び注文するのかと苦笑した表情のまま近づいてきた少女、シル・フローヴァにミストは美しい笑みを見せた。

 

「この魚料理っぽい奴とお茶を貰えるかな」

「かしこまりました」

 

 想像通りの再びの追加注文に、本当によく食べるなと思いながら注文を受けて離れようとした瞬間、ミストはシルの腕を掴んだ。

 

「彼は、いつ己の器を昇華させると思う? 君が()()()()ちょっかいを出してもいいんだよ?」

「っ!? な、なんのことか私には」

「ふふ……私も、彼には強くなって欲しいんだ……なにかあったら言ってよね。協力してあげるから」

 

 怪しく笑いながらシルを解放したミストは、シルから顔を逸らして食事に手を付け始めた。茫然とした表情のままミストの方を見つめていたシルは、ある一点に気が付いてその目を見開いた。しかし、さっきの今で謎の存在であるミストに話しかけに行く勇気がなかったシルは、数秒間その場で唸っていた。

 

「どうかしたのですか、シル」

「りゅ、リュー……なんでもない、よ」

「ならいいのですが。あの人がなにか?」

 

 シル・フローヴァの同僚であるエルフ、リューが訝し気に話しかけてきたことでシルは彼女を見つめることをやめた。少し詰まりながら誤魔化そうとしたシルだが、元冒険者であるリューにはシルがどこを見ていたのかなどお見通しだった。

 

「ううん。なんでもないの。ほら、よく食べるなーって」

「それはそうですね。あれ程の大食漢もあまり見ません」

「シル、サボってんじゃないよ」

「は、はーいっ!」

 

 なんとかリューを誤魔化すことに成功したシルは、離れていくリューの後ろ姿を見ながら溜息を吐いた。再び思考の海へと落ちそうになっていったシルは、奥から聞こえてきたミアの声に反応して即座に動き始めた。この豊穣の女主人で最も権力の強い存在であるミアには、シルも当然敵わないのだ。

 

 


 

 

「美の女神かー……どう思う?」

「くだらん」

「だよね」

 

 美味しい料理も食べてご機嫌なミストは、裏路地を歩きながら隣に現れていたラニへと言葉を向けたが、返ってきた言葉は辛辣なものだった。そもそも神という存在が極端なまでに嫌いであるラニにとって、美の女神だろうがそうでなかろうが関係ない。神という存在が等しく苛立ちの原因にしかならないのだ。

 

「この世界の神は大いなる意志にも操られてないし、自由そうだけどね」

「だが徒に世界を乱し、国を乱し、人を乱し、挙句の果てに高みから一方的に語り掛ける。そんなものは腐り果てた二本指となにも変わらない」

「まぁそんなもんだよね」

 

 ラニが神を嫌う原因の一つである二本指の名前が出たことで、ミストはこれ以上はなにを言っても無駄だろうと考えて話を切り上げた。

 

「彼はいずれ本物の英雄になるよ。彼女をも超えて、ね」

「……お前も英雄だろう」

「私は英雄じゃないよ。ただ負けなかっただけ」

 

 ベル・クラネルのことを思い浮かべて楽しそうな笑みを浮かべるミストに対して、露骨に機嫌を悪くするラニ。

 

 ミストは自らのことを英雄ではないと普段から口にしているが、それは彼女の持つ哲学によるところが大きい。そもそも彼女の持つ英雄像とは、正義を成し悪しき者にも手を差し伸べる救世主と呼べる存在である。そんな英雄像と比べてしまえば、狭間の地で敵対する者全てを切り捨てた自分は英雄ではないと言ってしまうだろう。

 

「なら私の英雄だ。私の王……お前は私が独りの道を歩もうともついて来てくれただろう? それは私にとっての英雄だ……それでいいだろう」

「……そっか。じゃあ私は民衆の英雄じゃなくて、ラニの英雄だね」

「それでいい。お前は、私だけの王なのだからな」

 

 民衆の英雄など人々から希望を押し付けられる者に名前を付けたに過ぎない。ラニはミストには告げず、心の中でだけ英雄という存在を否定していた。





ミストちゃんはラニ様だけの王様で、ラニ様だけの英雄です


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