エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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アイテム作製


 ベル・クラネルに、憧れている冒険者は誰かと聞けば頬を淡く染めて恥じらいながらアイズ・ヴァレンシュタインの名を口にするだろう。英雄を目指すベル・クラネルに憧れの英雄の名を聞けば、彼は興奮した様子で始祖の英雄(アルゴノゥト)の名を口にするだろう。そして、ベル・クラネルにとって最も強いと感じた者の名を聞けば、彼はおずおずと小さな声で答えるだろう。謎の銅騎士ミストルテインの名を。

 

 冒険者ベル・クラネルにとって、ミストルテインというヒューマンは異質な存在だった。彼女は自ら神の恩恵(ファルナ)を授かっていないと口にしていたにもかかわらず、当時のベルが苦戦する複数体のゴブリンを一蹴できる強さを持っていた。自分自身が恩恵を手に入れたことでモンスターを倒せるようになった関係もあり、ベルにとって常識であった、モンスターと戦うには恩恵が必要であるという考えが、ダンジョン内で壊されたことになる。子供の頃から数多くの英雄譚に憧れていたベルにとって、恩恵を持たずにモンスターと戦うというのは古代の英雄に通じる格好良さを感じさせた。同時に、古代の人間は彼女のように恩恵なしでモンスターと戦っていたと考えると、寒気がしてくるほど恐ろしいことである。

 

 力任せにナイフを振るうベル・クラネルは、現在7階層でキラーアントを相手にしていた。自分の背後にはサポーターとして雇った少女、リリルカ・アーデがいる。魔石やドロップアイテムを自分で拾う必要がない分だけ、ベルは思い切ってモンスターを倒し続けていた。

 

「ベル様後ろからまだ来ます!」

「わかってる!」

 

 手前から襲い掛かって来ていたニードルラビットを片付けたベルは、リリルカの言葉に返事をしながら背後から近寄ってきていたキラーアントの頭を切断する。同時に、再び足元へと這い寄って来ていたニードルラビットの身体に神の(ヘスティア)ナイフを押し込み絶命させる。

 

「べ、ベル様すごい!」

「あ、あはは……ナイフの性能がいいからね」

 

 謙遜するような言葉を口にするベルだが、事実として彼のステイタスでそこら辺のナイフでは、キラーアントの外殻を容易く切断することなどできない。しかし、彼の実力全てが神のナイフによる力かというとそういうことでもない。たった数日前までゴブリンの群れに苦戦していた少年は、ステイタスだけで言うなら7階層で暴れているのも納得できる程に成長していた。

 

 エルデの王となる道中、幾多ものデミゴッドを屠ってきたミストの目は本物だったと言えるだろう。ベル・クラネルは、既にどんな冒険者をも置き去りにする速度で強くなり続けていた。

 

 


 

 

「ただいまー……あれ?」

「なんだ?」

「もう起きてる」

 

 既に廃屋と呼べるような見た目ではなくなっているほど修理されている家に帰ってきたミストは、扉を開けた瞬間に飛び込んできた光景に首を傾げた。扉の真正面、太陽が一日中当たらない場所に積まれている本棚から一冊の本を抜き出しているラニの姿が目に映ったのだ。

 

「律を……エルデンリングを受け継いだからだろうな。人形の身体でありながらかなり自由に身体が動く」

「へぇ……人形の身体は不便だって言ってたもんね」

 

 最早顔馴染みとなった店から木の角材を買ってきたミストは、いつの間にか起きていたラニの姿を見て嬉しそうにしながら、部屋の中に角材を並べていた。

 

「……何をしている」

「本棚。自分で作ろうかと思って」

「そんなものは買ってこい」

 

 ミストは無駄に凝り性で、狭間の地でも放浪の商人であるカーレから買い取ったツール鞄で色々な物を作っていた。だからと言って、店で買った方が絶対に良い物が手に入ると確信できる本棚など作るべきではないと、ラニは額に手を当てて溜息を吐いた。

 

「……なんだそれは?」

「これ? なんか爆発する石」

 

 ラニに言われて本棚作りを止めたミストは、ルーンとして己の内にしまい込んでいたドロップアイテムの石を並べていた。ほのかに光っているその石は、深層に現れるフレイムロックというモンスターのドロップアイテムである火炎石。強い発火性と極めて危険な爆発性を持つその石を見て、ミストはアイテム作製に使えるかもしれないと考えたのだ。

 

「ヒビ壺の中に二つ入れて、相手に投げるとか」

「ふむ……二つの石を壺の中で弾けさせるのか」

「精神力だって無限じゃないしね。いざとなったら背骨でも使えばいいけど」

 

 ミストはラニに簡単な説明をしながら、ヒビ壺に入れていた。どれだけ割れても不思議と復元する魔術的な細工が施されているヒビ壺は、様々な素材や術を封じ込めて相手に投げつけることができる便利なアイテムで、狭間の地を走り回っていた時にもミストはよく使っていた。

 

「どれくらいの威力出るかな。人が消し飛ぶくらいできないかな?」

「ふ……そんな威力は自分で魔術を使え」

 

 ラニに辛辣なことを言われて少し落ち込んだミストは、持っていた火炎石を全てヒビ壺の中に入れ終わった。ようやくアイテム製作が終わったことを察したラニは、無言でミストへと近づいて頬に手をつけた。

 

「…………どうしたの?」

「言わないとわからないか?」

「いやぁ……私ヘタレなんでわかんないです」

 

 急に近づいてきたラニに驚きながら、ミストは自らの頬に触れる手に意識が向いていた。ラニが何を求めているのかを理解しながらも、羞恥心が勝ってミストは上手く踏み出せていなかったが、ラニの無言の圧力に屈して、指輪がついたラニの手を取った。

 

「おはよう、私の(ラニ)

「…………まぁいいだろう。私の(伴侶)、今回はこれで許してやる」

 

 騎士が忠誠を誓うようにラニの手の甲へと唇を落としたミストを見て、満足そうにラニは頷いていた。

 ミストにとってラニ以外の全てが二の次であるように、ラニにとってもミスト以外の全てなどどうでもいいことなのだ。

 エルデンリングは既に霧の海の向こう側、狭間の地より彼方の地へと遠ざけられたのだから。





ラニ様、お目覚めです
睡眠時間、劇中で二日でした

ラニ様が目覚めたので、ダンジョン探索はかなり少なくなります

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