リヴィラの街にようやく平穏が戻った中、【ロキ・ファミリア】団長であるフィンと副団長であるリヴェリアは、戦いの最中に現れた謎の人物へと意識が向いていた。
「なるほどね……推定Lv.6の赤髪の調教師を一人で圧倒する力。確かに異常ではある」
「……剣から魔法のようなものを放っていたが、あれは魔剣ではない……だろうな」
「そこら辺も気になるけど、一番怪しい部分は、彼女が【ファミリア】に所属していないことだ」
女体型のモンスターの半身を一撃で切断した謎の魔法と思わしきもの、アイズすらも圧倒された赤髪の女を逆に圧倒する力。何処を切り取っても異質な力としか言いようがない存在だが、顔を見たこともない冒険者となるとわかることが少ない。しかし、フィンは少しの会話から幾つかのヒントを得ていた。そのうちの一つが、彼女が【ファミリア】に所属していないという点である。
「しかし、恩恵なしで18階層までやってくる……いや、Lv.6と同等以上の戦いをできるものなのか?」
「違うよ。彼女はあくまで【ファミリア】に所属していないだけだ……恩恵は持っていると思いたいね」
「実態は同じだろう。オラリオの外でLv.6以上の力を持つ冒険者など」
「過去の人間だとしたら?」
フィンの言葉にリヴェリアは息を呑んだ。彼の言葉の裏側にある意味を理解したリヴェリアは、そんなことはあり得ないと口にしようとして思いとどまった。全員死んでいたと思っていた相手が、いつの間にかオラリオに帰って来ていたなどという経験を、フィンもリヴェリアも経験したことがある。
「……壊滅したのは15年も前の話だぞ?」
「だが、ありえない話じゃない。正直、今でも彼らの力を把握しきれていたとは言えないからね」
到底納得しきれない話ではあったが、フィンの言葉には確かな説得力が存在した。自分たちの知らないLv.7が存在してもおかしくない集団。15年前に壊滅したはずの【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】ならば彼らが知らない存在がいる可能性もある。
「……本当だとしたら今更なんのために戻ってきた?」
「さぁ? 案外……復讐みたいな簡単な話かもよ」
「馬鹿なことを言うな。そんなことを考えていたら……」
オラリオは再び暗黒期に向かってもおかしくない。そんな言葉を口に出せなかったリヴェリアは、フィンを黙って見つめていた。リヴェリアが今なにを考えていて、いつの光景を思い出しているのかも正確に理解しているフィンは、気休めの言葉すらもかけられなかった。
負けた。完膚なきまでとはいかないものの、攻撃は弾かれ受け流され、防御は意味をなさずに一方的に攻撃を受けてしまった。彼女の頭の中にあるのはそんな考えだけだった。
「……どうしたら」
彼女の名前はアイズ・ヴァレンシュタイン。オラリオで最強と名高い女性冒険者である【剣姫】その人である。しかし、今の彼女にはオラリオ最強の名前が重すぎた。冒険者でもない一般の民にも最強として名前を知られているアイズだが、リヴィラ攻防戦の最中に現れた謎の女に敗北を喫してしまった。敗北しただけならばまだしも、彼女はやられると思った瞬間に通りがかった冒険者に助けられてしまった。それも、同性である女性の冒険者である。
ミストルテインと名乗ったその人物は、地面に食い込むような重さの武器を片手に持ちながら、アイズが苦戦していた女を軽々とあしらっていた。むしろ、自分を圧倒した相手がどれほどのものか楽しみにしながら観察しているようにも感じられた。つまり、ミストにはそれだけの余裕があったのだ。自分よりも強い相手を圧倒するミストの力を思い出して、アイズは自らの身体が震えていることに気が付いた。
「怖い、の?」
自分の身体が震えている理由がイマイチ理解できないアイズは、久しく感じていなかった恐怖という感情が真っ先に頭に思い浮かんだ。同時に、彼女の脳内に浮かんだ情景は、5階層でミノタウロス相手に本気で恐怖していた白髪の少年と、過去の自分の姿だった。
「私は……あの人が怖い訳じゃ……」
アイズ・ヴァレンシュタインの身体を震えさせるその感情を、人は歓喜と呼ぶのだろう。貪欲に強さを追い求め続けるアイズにとって、目指すべき高みが突然目の前に現れたのだ。オラリオ最強の女性冒険者と呼ばれるようになって久しいアイズは、再び挑戦者となり目指すべき頂きの一部を目撃した。ならば後は我武者羅に挑むだけである。
目指すべき高みを目撃した人が取る行動は2パターンしか存在しない。そこで心が折れて諦めるか、それでも抗い続けてその頂を目指して足掻き続けるかである。そして、ミストルテインが認めるベル・クラネル、その彼が追い求める至高の冒険者であるアイズ・ヴァレンシュタインは、当然後者の存在である。
今後の目標を自分の中で明確に定めたアイズは、一人で頷いてから立ち上がった。差し当たって彼女が目指すべき場所は今の自分よりも上であるLv.6の位階。当然そこは通過点でしかないが、言ってしまえば通過点とはいつかは通り過ぎなければならない道でもあるのだ。
「レベルを上げる方法……」
自分が今まで4回上げてきたレベルアップの方法を思い浮かべて、アイズは一つのことを思い出した。前回の出現からインターバルを計算すると、丁度数日後であることを思い浮かべ、これしかないと一人で納得していた。
「……リヴェリアに怒られるかも。でも」
やると決めたアイズ・ヴァレンシュタインはもはや止まることはない。目標ができたのなら尚更のことである。