エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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怪しい冒険者


 リヴィラの街で女体型と冒険者たちとの戦いが起きている中、赤髪の調教師(テイマー)エルデの王(絶望)と相対していた。

 

「がっ!?」

 

 女はLv.5であるアイズ・ヴァレンシュタインを圧倒できる力を持っているにもかかわらず、ミストを相手に何度も地面を転がっていた。明らかにLv.5の冒険者よりも格上の力を持つ鎧の戦士に、アイズも赤髪の女も驚愕に目を見開いていた。

 振るわれる長剣は容易く見切られタワーシールドによって防がれ、カウンターで振るわれる遺跡の大剣を避けて距離を取ると、容赦なく『崩壊波』が飛んでくる。ダンジョンの地面を抉るような威力の衝撃波を何度も放っているが、ミストの動きに変化は訪れない。

 

「ちぃッ!?」

「遅い」

「ぐっ……クソ!」

 

 明らかに人類が持って振るえるような重量ではない武器を、軽々しく片手で振るう化け物を前に、赤髪の女は撤退の選択肢を思い浮かべていた。アイズ・ヴァレンシュタインとの戦いは問題なく進んでいたが、突然現れた謎の冒険者は本気を出している様子がないまま自分を軽く凌駕しているという事実に加え、既に目的であった緑の宝玉の回収は失敗しているのだ。いくら『アリア』を目前にしたからと言って、これ以上目の前の騎士と戦いを続ければ気まぐれで命を刈り取られかねない。確実な生存のために撤退を選択した赤髪の女は、次の瞬間に全身で悪寒を感じ取った。

 

「今、気持ちを退かせたな」

「な、にっ!?」

「興ざめだな。肝心なところで臆するとは……失せろ」

 

 先程まででもついていくのがやっとだった赤髪の女は、本気で殺気を放ったミストに対して一瞬臆した。それを感じ取ったミストは失望の表情を浮かべながら、さっきまでの剣戟よりも数段早いスピードで踏み込み、長剣ごと右腕を切断した。飛んでいく右腕に信じられないものを見るような視線を向けた女は、反射的に左腕を振るったが無情にも盾に阻まれる。

 

「恐怖に呑まれた敵を斬ることほど楽しくないこともない。しかし、売られた喧嘩は倍返しにするのが私の流儀なんだ。ここで死ね」

「ッ!?」

 

 無慈悲で無感動な死の宣告を受けて、女は宙を舞って地面に落ちた自らの右腕をミストに向かって投げつけた。当然のように投げつけられた腕を切断したミストは、相手が目くらましをして逃げようとしていることを察していたため、進行方向へと向かって『崩壊波』を放つ。周囲の瓦礫を吹き飛ばしながら飛んでくる崩壊波を背中で受けた女は、その勢いのまま崖下の湖まで落ちていった。

 

「……やったんですか?」

「いや……逃げられたな。崩壊波を上手く使ったようだ」

 

 ダンジョンのモンスターであろうとも、殺せば相手の持つルーンをその身に吸収することができるミストは、赤髪の女が未だに生きていることを確信していた。崩壊波の衝撃によって巻き上げられた瓦礫を盾にして直撃を避け、その勢いのまま湖の中へと逃げ込んだのだろうと推測したミストは、遺跡の大剣をルーンとして消し、アイズと向き合った。

 

「ありがとう、ございます……あの、貴方は?」

「ん? あぁ……兜のせいでわからないか」

「あ、ジャガ丸くんの……」

「またあったね、アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

 兜を取って素顔を見せたミストに、アイズはジャガ丸くんの小豆クリーム味を食べていた人であることを思い出し、自分の名前を知っていることに首を傾げた。

 

「『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインと言えば、このオラリオで最強とまで呼ばれている女冒険者だそうじゃないか。色々な所で名前を聞けたよ」

「そう、ですか……貴女は?」

「三度目だし、名乗っておこうかな。私はミストルテイン……ただの冒険者ミストだ」

 

 自分と同じような金髪金眼を持つミストルテインに対して、アイズは勝手に親近感を覚えていた。同時に、自分を圧倒していた赤髪の女をあしらうように戦っていた女性冒険者である彼女に強さの秘密を聞きたい、という欲望が生まれていた。

 

「あの──」

「失礼。君はさっきの冒険者、でいいんだよね?」

「ん?」

 

 アイズなにかを口にしようとした瞬間に、横から槍を持った小人(パルゥム)が現れた。【ロキ・ファミリア】団長であるフィン・ディムナは、にこやかな表情を浮かべながらも目が笑っていなかった。舌戦は苦手なんだがと頭の中で愚痴を吐きながら、フィンの質問にミストは首肯した。

 

「君の力は少ししか見ていないけど、明らかに第一級冒険者と同等以上のものだった……でも、僕は君の顔にも名前にも覚えがない」

「当然だね。私はオラリオにきて……まだ数日だ」

「……そうか。わかったよ」

 

 オラリオにやって来て数日で、ダンジョン18階層であるリヴィラへとやってくることが既におかしいのだが、フィンはこれ以上追及したところで答えが返ってこないだろうことを予測していた。直球で聞ければ早いのだが、少し離れた場所で聞いていたアイズとの会話から、なにかを隠していることを理解してフィンはわざと聞かなかった。

 

「申し訳ないが先を急いでいてね。話ならまた今度にしてくれると助かるんだけども」

「……わかったよ。なら君のファミリアを聞いておきたい。それなら連絡も取りやすいだろう?」

 

 フィンの言葉を聞いて、ミストは露骨に失策だったことを嘆くような表情を浮かべた。それは彼女が()()()()()()()()()()()()()ことを決定づける証拠となった。フィンの変わらない笑みを見て、ミストは自分が彼によって意図的にはめられたことを理解して肩を竦めた。




蛮族に心理戦は不可能です(知力99)

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