エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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リヴィラの街


 祝福を使用して50階層から18階層まで移動したミストは、平穏そのものだと思い込んでいた安全階層(セーフティポイント)が炎上しているのを見て唖然としていた。ダンジョンの知識が豊富にあると言える訳ではないが、安全階層にモンスターが現れないことは、ダンジョンに潜る者の常識として知っていた。安全階層にモンスターが現れるという異常事態(イレギュラー)に対して、ミストは街のある方向から聞こえてくる冒険者たちの怒号を聞き取って指笛を鳴らした。

 

「頼むトレント」

 

 再び呼び出したトレントに跨ってすぐに手綱を引いたミストは、安全階層に起こった異常事態の解決のために駆けだした訳ではない。彼女の頭にあるのは異常事態が何故起きたのかを知りたいという知的好奇心だけであり、その在り方は彼女の伴侶が最も嫌う超越存在(デウスデア)のそれとなにも変わらない。

 

 火の手が上がっている安全階層の街、リヴィラを見てミストは目を細めた。黄緑色の気色悪い花の様なモンスターと戦っている多くの冒険者たちの中に、幾人かの実力者を見つめていた。ミストの視線の先にいるのは【ロキ・ファミリア】の冒険者であるフィン・ディムナ、リヴェリア・リヨス・アールヴ、ティオナ・ヒリュテ、ティオネ・ヒリュテ。ミストの目についた冒険者はそれほど数は多くないが、どれも相応の実力を身に着けている。

 今のうちに手を出してしまおうかとも考えたミストだが、自分の持つ魔石とドロップアイテムを換金してくれる商人に迷惑がかかると思って動きを止めた。互いを利用し合うと話し合ったばかりなのに迷惑をかけるのは面倒だと考え、いっそ冒険者側として参加しようと思い至った。

 

 手綱を思いきり引っ張り方向を転換したミストは、トレントを走らせる。長い傾斜を降りてリヴィラの街へと向かうミストは道中の食人花を避けながら広場の中心へと降り立つ。突然現れた存在に周囲の冒険者が一斉に武器を構えてミストへと突きつけたが、そんなことにお構いなく食人花は動き続けていた。

 

「くッ!? ボールス! 指揮は任せるよ!」

 

 ミストに意識を持っていかれた一瞬のうちに、数多くの冒険者を吹き飛ばされたことで前線が崩れかける。慌てたフィンがリヴィラの街のトップであるボールスに指揮を任せて女体型のモンスターへと向かって走り出した。

 

「……手伝ってやろうと思ったのに、武器を構えられるとはな」

「てめえが何者かは知らねえが、今は緊急事態なんだよ! 誰も知らねえ鎧姿がダンジョン内なのに馬に乗って現れたら武器ぐらい向けるだろうが」

「トレントはその程度では怯えないが、いいか」

 

 周囲の冒険者数名に武器を突き付けられている状況の中でも、ミストは冷静な声色のままトレントから降りた。もういいのかと言わんばかりに鼻を鳴らしたトレントの首を撫でたミストは、どこからともなく大剣を取り出した。大剣とは言うが、その見た目は明らかに建物の一部分でできている鈍器にしか見えない。

 

「そら、そこをどけ」

「あぁ!?」

「死んでも知らんぞ」

 

 警告を一度だけ挟んだミストは『遺跡の大剣』を頭上に掲げた。遺跡の破片で出来ている大剣は、ミストの意志に応えるように紫色のオーラと雷を纏い始める。その様子を見て周囲の冒険者は、それが高位の魔剣だと勘違いして射線上から逃げるように移動する。

 

「なにをする気だ!?」

「そこで見ていろ」

 

 背後から聞こえてきたリヴェリアの声に適当に返しながら、ミストは遺跡の大剣を振り下ろした。戦技『崩壊波』は、遺跡の大剣に刻み込まれた崩落の力を開放する技である。振り下ろされた遺跡の大剣から放たれる崩壊波は直線上にあった建物を破壊しながら女体型へと迫り、下半身を作っている食人花の多数を切断した。魔力すらも感じさせずに発生した大規模攻撃を受けた女体型は、下半身の右側に大きな傷を受けてバランスを崩す。

 

「……一撃だけで充分だろう。後はなんとかしろ」

「ま、待ちやがれ!」

 

 ボールスの言葉を完全に無視したミストは、待機させていたトレントに素早く騎乗するとそのままリヴィラの出口へと向かって走り出した。レフィーヤとリヴェリアも追いかけようとする構えを見せたが、下半身に大傷を受けてのたうち回る女体型を優先させた。

 

 都市二大派閥のうち片方の力をそれとなく確認したミストは、全速力でトレントを走らせながらその姿を思い出していた。団長であるフィンを中心に良くまとまっている集団ではあったが、ミストは脅威と思えるほどの力を感じ取れなかった。それは決して【ロキ・ファミリア】の冒険者たちが弱いという訳ではなく、かつて狭間の地で相対したデミゴッドたちと比べれば緊張感が薄れてしまうというだけの話である。

 

「増援か?」

 

 リヴィラの街から離れて上層を目指すミストは、トレントに乗ったまま駆けている道中で赤髪の女が、アイズ・ヴァレンシュタインと戦っている姿を見かけた。馬に乗っていることに訝し気な表情を浮かべながらも、自らの敵であると判断した女が馬上のミストへと飛びかかるが、反射的に振るわれた遺跡の大剣によって軽々しく吹き飛んでいった。突然襲われることには慣れているミストは、絡まれたことに面倒を感じていたが、売られた喧嘩は全て買って叩き潰すのがミストの流儀である。

 

「くッ……なんだ今の力は」

「さっさと終わらせて帰らせてもらうぞ。換金も一瞬じゃないんだ」

 

 赤髪の女の前にはエルデの王(絶望)が立っていた。




レヴィスちゃん……人 間 性 を 捧 げ よ

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